講座10《プロフェッサーコース》 『藤村久和さんと学ぶ北海道とアイヌ文化』
2010/11/10
11月9日(火)講座10『藤村久和さんと学ぶ北海道とアイヌ文化』の第3回「アイヌ民族の信仰と精神文化」が花川北コミュニティーセンターで行われました。講師は1,2回に続き藤村久和さん、受講者は35名でした。
藤村さんは、先ず前回のアンケートで寄せられた質問に答える事から始められました。
質問は
①蝦夷地の先住民はアイヌの祖先なのか
②道内のアイヌ同士の交流はあったのか、の二つでした。
①へは、現代のアイヌとは若干の違いもあるが、概ね先住民がアイヌの祖先であろう、と言われました。
②へは、道内の4ヶ所(白滝、北十勝、富良野、赤井川)でしか産出しない黒曜石の流通をみると、アイヌ以前の人達が道内のみならず、東北地方やさらにカムチャッカ半島、沿海州との交流があった事が分かり、後代のアイヌも当然交流があったと思われる、と答えられました。
さらにカムチャッカ、沿海州、東北などにアイヌ語地名がたくさん残っており(同じ名前のついた土地は驚くほど良く似た地形である)アイヌ語を話す人達がそれらの地に住んでいたのだろう、とも話されました。
また、どうして地名が必要なのか(距離と方向を示す目印とするため)とか風土記の話など色々付随的な事も受講者に問いかけをしながら面白く話されました。
さて、本論のアイヌの信仰についてですが、精神文化を現すのに、信仰と宗教と云う二つの言葉があり、違いは経典のあるなしであるが、アイヌの場合文字がなかったので当然経典もなく、宗教ではなく信仰という言い方がふさわしいのだそうです。
アイヌの世界観では、世界にはこの世とあの世の二つがあり、この間を不滅な魂が行き来し、死んでもまたいずれ生まれ変わる(再生)ことになっているのだそうです。
この世の人生は次の再生までの一期間であり、この世での行いや祖先の供養の仕方で次の再生時の運命が決まると考えられている。一方再生は、バランスを保つようにも行われ、例えば短い人生(早死)の次の再生は早く長い。
さらに再生は、人間はまた人間に、動物や植物もまた同じものになるとされており、男女の別も、男は男に、女は女にと、変わることがないのだそうです。
また、あの世の人(動物)を手厚く供養すれば、この世の人を守ってくれる(良運を授かる)とも考えられている(熊祭りは、子熊のお葬式を丁重に行って、その式に加わった人達にその親熊や仲間の熊から良運《猟運》を授けてもらうという考えで行われる)
アイヌの独特な家族構成についてのお話もありました。
アイヌの社会は、日本と同じ縦社会であり、中国、韓国などの横社会とは違うこと。縦社会を維持するために、養子(横社会にはない)という家族を維持する仕組みがあり、夫婦も完全な一夫一婦制ではなく必要に応じて時には二婦を置いたりしたとのこと。
老後を生き生きとくらす工夫もしており、子供の独立後にまた養子を迎えたり、子供が出来ないと若い妻を娶ってその第1子は古い妻が育てる習慣もあった。
また、生まれて来る子供の性別は、男の持つ再生力(再生へのポテンシャル)と女のそれとの優劣によって決まる(男の方が強いと男、女が強いと女)と考えたそうです。
今回は最初に質問に大変丁寧に答えられたので長くなって、最終的には少し時間オーバーになりましたが、アイヌの世界観が良く理解できたお話でした。
受講者からも
「とても楽しくお話を聞かせて頂きました。子孫を残すためにあの世での両家の話し合いや老後を考えての妻の行動や取り決め等、家族を守るための祖先の知恵は大変合理的かつ現実的なものであったと驚かされると共に小気味の良さも感じてしまいました。アイヌの人達の精神文化はたいしたものです」
「具体的な例をとりながら信仰や精神文化を説明していただきわかりやすかったです。次回のフィールドワークで様々なことを学ぶのを楽しみにしています」
「これからの生き方の導きになるような講座でした」
「アイヌ民族にたいしての目が開いた様です。生き方もスバラシイと思いました」
「アイヌの信仰と仏教の信仰等など興味深い事が聞けた」
「講座の内容は専門的でかつ広範多岐にわたり、大変面白かった。もっと時間があればもっと色々な話が聞けてよかったと思う」
等などの声が寄せられ、アイヌの生き方に共感を覚えた方も多かったようです。