特別講座 ノーベル賞受賞への軌跡
2010/12/20
12月19日(日)特別講座「ノーベル賞受賞への軌跡~鈴木章博士の研究を語る~」が花川北コミュニティーセンターで行われました。講師は、徳田昌生さん、受講者は屯田北中学校・科学同好会の皆さん13名、石狩市の中学生2名を含む81名でした。
北海道大学名誉教授で工学博士の徳田さんは、鈴木先生が助教授の時に学生および助手として同じ教室に所属されていたことから、先生の業績の解説とその人となりの紹介をして頂くために特別講座が設けられたものです。
徳田さんは、最初に、鈴木先生の受賞はようやくたどりついたという印象です、と話されました。というのは、鈴木先生の業績はその世界では誰もが認めていて、いつ受賞しても不思議ではなく、実際、2004年には最終選考まで残りながら結局選にもれたことを惜しむ新聞記事が出たこともあったのだそうです。
さて、授賞式などの写真を披露頂いたあと、早速、鈴木クロスカップリングの解説をして頂きました。
先ず、先生の受賞対象となった研究は"有機合成におけるパラジウム触媒によるクロスカップリング反応の開発"と云うのだそうです。簡単な化合物を原料として、いろいろな有機化合物をつくるのが有機合成化学。そして、カップリングとは、二つの化合物を一つに組み合わせることで、同じ化合物同士を組み合わせるのがホモカップリング、違う化合物を組み合わせるのがクロスカップリングと云うのだそうです。
従来の銅粉を触媒としたカップリングでは、成果が50~60%の収率だったものが、ホウ素を利用しパラジウムを触媒とした鈴木カップリングでは、ほぼ100%の収率が得られるようになったのだそうです(そのことを分かりやすく説明するアニメが上映され、実際の実験の様子の映像も見せてもらいました)
次に、鈴木クロスカップリング反応がなぜすばらしいのか? を説明して頂きました。
・カップリング反応は、それまで酸素や水分を嫌う有機金属化合物を使って行われていたため、非常に厳密な反応条件の設定が必要だったが、鈴木カップリングは安定なボロン酸を用いるため空気中でも室温でも効率的に行うことができる(その例として、複雑な構造を持つパリトキシンの全合成が、最終工程で鈴木カップリング反応を使うことで成し遂げられた→ハーバード大学岸教授・ノーベル賞に匹敵する業績)
・独創的で波及効果の大きい基礎研究として、その考えや実験データ、実験方法などを使った(引用)論文や報告の発表件数が年々増えて2009年には1年間で1232件となっている。
・鈴木カップリングは、非常に多くの研究者や企業に利用されているので、試薬の需要が大きく、多くの試薬会社から販売され、販売促進を目的としたパンフレットも多く作成されている。
・北海道で生まれ育ち(鵡川)北海道で学び(北海道大学)北海道で研究した(北海道大学)成果が認められた。
・独創性と実用性を兼ね備えた理想的な研究であると認められ、それはアルフレッド・ノーベルの考えとも一致するとして評価された。
・このクロスカップリング反応は論文として公開されたが、いっさい特許を取っていないので、企業は特許料を払わずに工業化することが出来、実用化研究や本格的製造に取り組みやすい。
・その実用化は世界に広がっている。
血圧降下剤ロサルタン、ディオパン、殺菌剤ポスカリドなどの医薬、農薬の製造。液晶や有機EL.導電性高分子(ポリフェニレン)等など
さらに、ノーベル賞の選考方法や日本人のノーベル賞受賞者一覧などのお話の後、鈴木先生の歩まれた道をたどりました。
鈴木章先生は、1930年、鵡川生まれ。1954年、北大理学部卒業。1961年、北大工学部合成化学工学科助教授に就任、前年に開設された有機合成化学研究室に所属。1963年~1965年、米国パデュー大学博士研究員。1973年、北大工学部応用化学科教授。1994年、北大定年退官。同年北大名誉教授。主な受賞歴は、日本化学会賞、有機合成化学特別賞、日本学士院賞、北海道新聞文化賞、瑞宝中綬授章
鈴木先生は、アメリカから帰国後の研究テーマについて「有機ホウ素化合物を用いて有機合成を行う新しい分野を切り開こう」と決意された。
その研究の過程で、同じ有機ホウ素化合物を用い同じ反応を行ったのに、北大では高い効率で反応が起こるが、アメリカ・パデュー大学では全く反応が起こらなかった。調べてみると、北大の実験で使う窒素ガスにごく微量の酸素が混じっていて、それが触媒の役割をしていることが分かった。このように、偶然から新しい発見をして、微量の酸素を触媒とする新しい有機ホウ素化合物の反応を見つけることができた。
鈴木先生は「研究者なら誰でも幸運な発見に出会うチャンスがある。しかし、その機会を活かせるかどうかは"自然を直視する謙虚な心""小さな光をも見落とさない注意力""旺盛な研究意欲"にかかっている」セレンディビティー(思わぬものを偶然に発見する能力)を大切にしなさいと、言われた。
先生の人生を決めた2冊の本があり、その1冊は英文の700頁の教科書であるが、先生は、その大部の本を30回以上読まれていた。もう1冊はBrown教授が書かれた「ハイドロボレーション」という本で、この本がきっかけとなってアメリカのBrown教授のところに留学し、有機ホウ素化合物の研究を始めることになった。Beown教授も言っていたことだが、鈴木先生も常々、重箱の隅をほじくるような研究はするな、誰もやっていない新しい研究をしよう、教科書に載るような研究をしなさい、と言われた。
一日2回、学生のところを廻って、研究の成果を問われたので(厳しい精進を求められた)学生たちは、定期便と呼んでいて、煙たがられることもあった。
このように、研究には厳しかったが、遊びは楽しむ方で、テニス、スキーなどスポーツも好きだった。また、お酒は好きで、キャンプにはよく行かれた。学生に酒を注いで周るのが好きで"ツギ魔"と言われていた。酔いつぶれてしまわれる事も多く、酒席では、学生たちは先生を家に送る役割をあらかじめ交代で決めていた。
また、先生は
「私は40年間北大で勉強できてよかった」
「資源のない日本で唯一できるのは、工夫して新しいものを作って世界に輸出することである。理科離れはゆゆしき問題だ」
「若い世代に科学の大事さを伝えたい」
「子供たちに理科が大事だと知ってもらうことは、私たち年寄りのデューティー(義務)だと思う」
「若者は海外に出なさい」
などとも言われている。
徳田さんは、このように鈴木先生の業績や人となりを丁寧に紹介されましたが、最後に"子どもたちに理科の大切さを知ってもらいたい"という鈴木先生の願いを引き継いで、徳田さん始め6人の北大名誉教授のメンバー(サイエンスアイ)が集まって市民図書館で行っている「子ども科学実験室」や北大サイエンスツアーの紹介をされて、お話を締められました。
これに対して、受講生からは、話が非常にわかりやすかった、難しいクロスカップリングのことも良く理解できた、おおよそ理解できたとの声がたくさん寄せられました。
最後に、参加した屯田北中学校・科学同好会の皆さんたちから寄せられた声をご紹介します。
「鈴木先生のせいかくがわかってたのしかったです」
「鈴木章博士について色々なことがわかったので楽しかったです」
「研究内容の解説だけでなく、ノーベル賞の説明や授賞式の様子や鈴木先生の事についてなどとても楽しかったです。ありがとうございました。『菌類』や『発酵食品について』などのテーマの講座をうけたいです」
「難しい事をわかりやすく説明してくれて楽しかったです」
「研究内容はとても難しく、理解するのが大変でした。これからたくさん勉強して、理解できるようにしたいと思います。ノーベル賞自体のことも知ることができてよかったです。ありがとうございました。菌類について研究しているので、そのような講座があると嬉しいです」
「難しかったですが、少し理解でき、とてもおもしろかったです。希望するテーマは風力発電について」
「大分難しくわからない所が多かったですが、分かるところはすごく参考になりました」
「とてもわかりやすく、おもしろかったです。意外なこともきけて、とてもおもしろかったです。菌類についてやってほしいです」
「とてもわかりやすく、鈴木先生のことがわかりました。ほかのノーベル賞をとった人について聞きたい」
「あまり知らなかった鈴木博士の研究なども詳しく知ることが出来て参考になった」
「部活に入ってなければしらなかったから、もっとせんでんをしたほうがいいとおもいます」
「内容は具体的には分からなかったが大まかにわかった」
「面白かったです」