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講座1 杉浦篤子さんと美術を楽しむ『アートって何?』

第3回「絵本というアート」~絵本作家の仕事、美術と絵本~

2011/05/25

 5月24日(火)講座1 杉浦篤子さんと美術を楽しむ『アートって何?』の第3回「絵本というアート」~絵本作家の仕事、美術と絵本~を市民図書館視聴覚室で行いました。受講者は33人。

 講義の始まる前に、まず目を引いたのが、正面にうずたかく積まれた絵本でした。その絵本の山に皆さん興味津津。

1316.JPG 「最近、絵本を見ていますか?」杉浦さんはそんな問いかけをしながら、ノンフィクション作家の柳田邦男と絵本の関わりから話を始められました。次男の自殺の後、立ち直れなかった柳田はある時、ふと絵本を手にしていたのだそうです。それは「風の又三郎」でした。

 1320.JPG「風の又三郎」については後でお話します、と本題へ。

 従来、日本では文化的価値を認められていなかった絵本が文化財産として保存されるようになったのはここ数十年のことだそうです。それに対して、イギリスでは、昔からのものがきちんと残っているそうです。

mojyamojya.jpgのサムネール画像 18世紀の末にカラー印刷ができるようになり、絵本が作られるようになったそうです。

 絵本史を作った作家として紹介されたのが、ハインリッヒ・ホフマン「もじゃもじゃペーター」
しかしこの頃は、まだ"こうしたら駄目ですよ"という子供のしつけの為の絵本だった。

 その後、絵が自ら語り出すような絵本を作ったのが、レオ・レオニー「あおくんときいろちゃん」
じつは、この本、原題は小さな青と小さな黄色というのですが、それを一目で男の子と女の子の話だとわかるような邦題をつけた訳者の前田圭雄(たまお)の素晴らしさについても触れられました。

1321.JPG 見る人の中でアニメーション化していく、イタリア人のイエラ・マリの「あかいふうせん」

 20世紀になると、物語の挿絵から絵が物語る絵本へと変化していった。

 

 

 

  ビアトリクス・ポター「ピーターラビットのおはなし」
この物語の町へ行くと、絵本のとおりの町並みを見る事が出来る。

tiisaiouti.jpg バージニア・リー・バートン「ちいさいおうち」

 開くと仕掛けが飛び出すような絵本も紹介されました。

 そして、絵本はさらに絵本で出来ることを拡大していった。

 イタリアのブルーノ・ムナーリ「霧の中のサーカス」は、モノクロの霧の場面から頁をめくるとサーカスのカラフルな色彩が現れて・・・ kirinonaka.jpgのサムネール画像circus_5M.gif 

   うえののりこ「ぞうのボタン」
ぞうのおなかに4つのボタン、頁をめくると、あらあらボタンがはずれてうまが出てきた、そのうまにもボタンがあって・・・

zousan.jpg ここで、日本の絵本事情について説明がありました。
日本には子供の本というジャンルはなかったが、大正時代に「コドモノクニ」「赤い鳥」などの絵雑誌が作られ、昭和の「キンダーブック」などの児童雑誌へとつながっていく。しかし、まだまだ絵本作家はくらしていけなかった。

 今度は、昔話や童話の変容についてです。
日本の「桃太郎」や「かちかちやま」西洋の「白雪姫」や「三匹のこぶた」など残酷な場面のある原話をどのように扱うか、時代によって変遷があったそうです。例えば、原話ではタヌキがおばあさんを殺す「かちかち山」では、あばあさんが殺されないように話が変えられたりした。

 次は、児童文学の絵本化ということで、宮沢賢治が取り上げられました。
宮沢賢治ほどたくさん絵本化された作家はいないのだそうです。それは、賢治の文章が絵描きさんに何かを感じさせるからだそうですが、反面どこを絵にするかが難しいのだそうです。

 賢治の作の絵本として紹介されたのが冒頭で話の出た「風の又三郎」「水仙月の四日」

suisen.jpg それから、従来はタブーとされた死や障害を取り上げた絵本が紹介されました。

 佐野洋子「100万回生きたねこ」
主人公の猫は、ある時は王さまの、ある時は船乗りの、サーカスの手品つかいの、どろぼうの、ねことなり、100万回生まれ変わっては、さまざまな飼い主のもとで死んでいきます。そのたびに飼い主はなげきますが、当のねこは悲しみませんでした、飼い主のことがきらいだったからです。
 hyakuman.jpgしかし誰のねこでもない野良猫となった時、一緒にいたいと思う白猫に巡り合いました。そして時がたち、白猫はたくさんの子供を産み、年老いていきました。やがて白猫が動かなくなってしまった時、始めてねこは悲しんで100万回泣き続け、とうとう、白猫の隣でうごかなくなりました。そうしてもう二度と生き返ることはありませんでした。

 障害を描いた長谷川集平「はせがわくんきらいや」

hasegawa.jpgのサムネール画像 ここで、○と△と□で表現された絵本を紹介されて・・・
「これは何の物語でしょう?」
答えは「白雪姫」そう云われてみると、○や△や□が確かに物語を語っているのでした。

1334.JPG それから品格のある木版画の手島圭三郎「しまふくろうのみずうみ」

simafukurou.jpg 谷川俊太郎・作 元永定正・画「もこもこもこ」

mokomokomoko.jpg そして最後に、原発の問題を予告したようなレイモンド・ブリックス「風が吹くとき」が紹介されました。

1337.JPG 杉浦さんはそれぞれの絵本を紹介する時、時には語りかけるようにさわりを読んだりされて、一冊一冊に対する杉浦さんの愛情が受講者にも良く伝わってきたのでした。

 おしまいに杉浦さんは、絵本は子供だけのものではなく、興味を持って見ると、色々なことを現わしてくれるのです、と結ばれました。

 たくさんの絵本の紹介を楽しく聞いているうちに、あっという間に時間が経ってしまいました。

 もっと絵本に触れたいと感じた人が多かったようで、講義が終わった後も、積まれた絵本に見入る人がたくさんいたのでした。

1348.JPGのサムネール画像 

 また、ご自身が作られた銅版画と丁寧に書きこんだ旅の思い出帳も見せて頂いて、杉浦さんが日々アートをどれほど楽しんでいらっしゃるかが良くわかったのでした。

1345.JPG 

1346.JPG 楽しい中にもふと考えさせられることもあった90分でした。

 




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