11月15日(木)講座11『原子力と自然エネルギーの未来を考える』の第1回「原子力発電に未来はあるのか」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、工学博士で自然エネルギー研究センター代表の大友 詔雄(おおとも のりお)さん、受講者は39名でした。
大友さんは最初に、「私は、元々原子力が専門だったのですが、原子力技術は使えない、と思い立って自然エネルギーの方へ方向転換してから30数年になります。今日のお話で、私がどう云う点で原子力に未来はないと判断したのかを御理解頂ければ幸いです。」と自己紹介されました。
お話は、3.11東日本大震災における放射能被害と自然災害の紹介で始まりました。
・「福島県・飯館村」―2006年に「日本で最も美しい村」に認証されたが、原発から30㎞離れているのに、事故後の天候と地形のせいで放射能に汚染された。
・「岩手県・田老町」―世界最大の防潮堤に守られた町だったが、その防潮堤を越えた津波による被害で廃墟に・・・
・飯館村の復興は、放射能汚染のため簡単に手がつけられないが、田老町の復興は既に開始されている。
◆21世紀社会の課題
①全人類的課題(環境・エネルギー・食糧・人口・核兵器)
②緊急不可避の課題(大規模災害・新たな疾病の蔓延)
③地域社会と地域産業再構築の課題(過疎・高齢化・食糧生産の場である地方の活力の低下)
福島の災害は、①~③の全てを問うこととなった。
◆原子力技術とは
・原子炉(BWR)の構造紹介
①原子力事故による放射能放出の影響は、空間的・時間的に特定できない。
②原発の危険は、個々の人間に対する直接的危険であると同時に、人間社会に対して社会そのものを破壊する可能性を持つ危険である。
◆原子力技術の安全性とは
~事故を起こさないようにする技術ではない~
・全ての技術が未確定で、制御が出来ていない。
・放射能を無害化する技術はなく、放射能を隔離する技術でしかない(多重防護)。
◆原発事故について
・米国物理学会「軽水炉安全性研究報告書、1975」
100万kWe原子炉の冷却材喪失(原子炉停止)後の現象として起こる、「水素爆発」や「水蒸気爆発」(破局的事態)の危険性を指摘。
・チェルノブイリ原子力発電所事故
石棺と呼ばれるコンクリートの建造物で覆っているが、クルチャトフ研究所総裁のE.V.ベリホフは、竜巻、地震、突風等でのシェルター破壊による放射能塵・100㎏の外部放出や水の混入による再臨界の可能性について言及している。
・26年経過後の「石棺」想定事故
石棺屋根の崩壊や崩壊に重なる地震、竜巻による放射能放出。水没による再臨界の可能性。このようにもし石棺の事故があれば、1986年事故に匹敵する新たな影響が懸念される。これに対して、新「石棺」(耐用年数100年)建設が進められている。
◆10万年後の安全
フィンランドでは、核のゴミの最終処分場として、フィンランド・オンカロ(オンカロはフィンランド語で「隠し場所」の意味)が建設されているが、安全なレベルとなる10万年後以前に掘り出すことの危険を確実に後世の人に伝えることが出来るのか?
◆原発の建設の歴史
・1986年のチェルノブイリ原発災害までは、年間20~30基が新規に建設される「バラ色の夢」の時代。その後は、20年間に10基台の新規建設程度の「冬の時代」へ。2009年以降は、毎年10基ペースで「廃炉」が始まる。「原子力ルネサンス」が宣伝されている矢先に事故が起こった。
◆わが国の原発の運転開始時期と数
1970年代に始まり、90~94年頃がピーク。その後は、バブル経済の崩壊で電力需要が頭打ち。
◆環境放出放射能~チェルノブイリと福島~
・福島原発災害による放射性物質放出量
大気放出量は、チェルノブイリ(例えばヨウ素131、180京)よりはるかに少ない(13~15京)が、海洋への放出がある(ヨウ素131、2号炉2,800兆、3号炉8,500億)。
◆原子炉事故の放射能減衰
・発生当初の放射能は、1メガトンの熱核爆弾で100,000,000,000キュリー、電気出力10万kWの原子炉では10,000,000,000キュリー以下であるが、106時間後では、熱核爆弾が10,000キュリー以下であるのに対して、原子炉の方は1,000,000キュリー以上に留まる。
◆チェルノブイリ原発周辺地域のガン発症の状況
・ヨウ素131による小児甲状腺ガンの発症―認識されるのに10年、因果関係が認められるのに20年かかった。
・放射性セシウム137による膀胱ガン(チェルノブイリ膀胱炎)の発症―最初の報告は18年後、因果関係の解明に23年。
◆放射能の人体への影響
自然放射能のレベルなら安全と言われるが、果たしてそうか?
内部被曝の深刻さを考えると、自然レベルの放射能なら安全とは云えない。
◆原発は安全になるのか?安全な原発は出来るのか?
・安全性レベル
L.M.Lidskyの考察(1988年)によると、現在の原子炉の安全性レベルはレベル3で、システム作動不良または運転員の誤操作に積極的な対応を要するもの、重大な構造上の破損の影響を受けるもの、とされている。いかなる場合でも、放射能被害を起こさない原子炉の安全性レベルはレベル0。
・原子炉の安全性とは
本質的安全炉と言われた「PIUS炉」でも、核攻撃や大地震で破壊されるが致し方無い、と書かれている(若林宏明「PIUSプラントにおける事故と事象」)。
◆もし泊原発で放射能放出があると?
・偏西風という特別の西風が吹く日本(北海道)では、ある条件では北海道のほとんどの地域が風下となるので、北海道全域が放射能放出の影響を受ける。
・「黒松内低地断層体断層帯」の存在、北海道周辺の地震分布状況、地震および津波に関するアイヌの口碑伝説、津波に関するアイヌの記録、500年間隔の地震発生の推定などから泊原発は危険性が高い。
◆原発の発電コスト―原子力発電のコストは安いと言われるが―
・1976年の原発発電コストは、当初予想の倍になっている。
・OECD原子力機関の設定では原発の想定稼働年数を60年としているが、根拠が疑問。
・原子力発電のコストは、実は高い!
電気事業連合会の試算では、水力11.9円/KW/hに対して原子力5.3円としているが、立命館大学教授・大島堅一氏の試算によると、水力7.26円に対して原子力10.68円となっている。しかも、この10.68円の中には、バックエンド費用(燃料の再処理、燃料加工、工場の解体、廃棄物処理などの費用)や事故時の損害・補償費用は含まれていない。
・発電原価を比べると(大島堅一・木村啓二「エコノミスト」2011.8.9)
原発12.06円、風力11.30円。しかも、将来的には大きなコスト差が出る。
◆原発が止まると電力不足になるか
・原発がすべて停止したら、他の発電所でカバーできるのか?
09年の原子力を除く発電設備容量は、1億9,262万kWであるが、近年の最高ピーク電力(01年)は1億8,300万kWであり(今後数年の予測1億7,000万kW)、さらに、全国で4,395万kWの自家発電装置があるので、電力は充分足りている。(本橋恵一「エコノミスト」2011.7.11)
◆原発が無い為に、この冬不足すると云われている北海道の電力について
北電だけの供給量は535万kWで確かに最大消費量580万kW(北電資料)には足りないが、北電以外の電力(電源開発22万kW、自家発電263万kW)を加えると820万kWとなり充分すぎるほどである。
大友さんは、「このように原発が無くなると電力が足りなくなる、と云う事は有り得ないのです。また、良く云われる、電気供給量は、全国的に見ると足りていても、電気はやりとりができないので局部的には不足する、あるいは、関東、関西でのヘルツ数の違いがやりとりを阻害している、と云う電力会社の云い訳は通りません。実際に現在でもやりとりはされているし、このやりとりをもっと推し進めれば問題ないのです。また、近年、しきりに節電が叫ばれています、節電自体は良いことだと思いますが、暗いのを無理に我慢して行うような節電はお勧めできません。むしろ、生活の質を変えるような節電を行うべきです。」と話され、最後に脱原発についてのドイツの例を上げて、今日のお話を結ばれました。
◆原発の今後の動向(脱原発への舵取り状況)
・ドイツ「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」報告
「ドイツのエネルギー転換~未来のための共同事業~」
原子力からのリスクを将来的に取り除くためには、脱原発が必要で、代替手段の利用により脱原発は可能である。
原子力エネルギーに反対であろうと賛成であろうと、ドイツにおいては、原子力エネルギーを、リスクのより少ない技術によって、生態学的・経済的・社会的に配慮した方法で代替できる。また、このエネルギー転換を進めることによって、数多くの企業が創設され、新たな雇用を生み出す。脱原発は、高い経済成果をもたらすチャンスである。
原発についての大友さんの丁寧で詳しい説明は、大変分かりやすく、非常に参考になりました。また、物静かで淡々としたお話振りには、非常に説得力がありました。次回の、自然エネルギーのお話が楽しみです。