講座8『顕微鏡を使って宇宙を覗いてみよう』
2012/11/14
10月13日(土)講座8『顕微鏡を使って宇宙を覗いてみよう』の第1回「はやぶさ試料分析のおはなし」-はやぶさ帰還試料を分析した立場から-の講座がありました。講師は伊藤 正一さん(北海道大学大学院理学研究院)と女池竜二さん(北海道大学電子科学研究所)の2人です。受講者は34名でした。初めに伊藤さんの講座から始まりました。伊藤さんは「はやぶさ」が持ち帰った試料の分析を行った方です。分析に携わった研究員の方々を映像で紹介されたあと、まず「宇宙開発の歴史」からお話をされ1955年東大の糸川英夫教授が長さ23cm、重さ200gのペンシルロケットを作成し600mほど上がったそうですが、これが最初のロケット開発の始まりですと話されました。小惑星「イトカワ」の名前は糸川教授に由来するそうです。1970年に日本最初の衛星「おおすみ」の打ち上げに成功から30年後の2003年に技術を積み上げた「ハヤブサ」が打ち上げられました。この年には「おおすみ」が大気圏内に落下し燃え尽きたのは何かの縁でしょうか。
「はやぶさ」は2010年6月13日に地球に帰ってきました。予定から3年も遅れ7年にも及ぶ長旅でした。その間、分析技術も格段に進歩しました。何より私が測定に携わる事もなかったし、仲間とも巡り合えなかったと、伊藤さんにとっては遅れて悪い事ばかりではなかったようです。帰還した「はやぶさ」の容器の中を開けたら、すぐに確認できる粒は何も入っていないというのが第一印象だったそうです。
それでも採取に携わった研究者が朝から晩まで数ヶ月にわたり努力を続け、約1500粒も見つかったそうです。当初弾丸を撃って舞い上がった石粒を回収する予定でしたが、弾丸は発射されませんでしたが、逆に打たなかったからこそ、爆薬の影響もなく表面の姿のまま持ち帰ることが出来たのです。
次にイトカワの試料分析について話されました。採取した粒子を詳細に調べるためには表面を研磨して面を出す必要があります。。大きさは髪の毛と同じ0.1mmです。粒子の中に含まれていた鉱物の集合体は、普通コンドライト隕石の鉱物の種類から形まで殆ど同じでした。それは陶器を作るときのかまどの状態を経験していた隕石とイトカワ試料は同じだった事が解かりました。
北大にもとうとうイトカワ試料を分析する順番が回ってきました。試料は九州大学で電子顕微鏡を使って鉱物の様子や、化学組成を測定された後、随時、札幌に運ばれてきました。移動手段は陸路で2人の随行が必要でした。博多から15時間掛け2月25日深夜に到着しました。
この試料の分析で北大ではどのようなことが期待されるのか大きく分けて4つあります
★ 地球外か、地球か?
★ イトカワと隕石を結びつける
★ イトカワの熱史を決定
★ イトカワの年代を決定
従来の分析では、耳かき3杯程度の量が必要でしたが、今回の試料は髪の毛の枝毛を測るようなもので大変でした。北大チームはこれまで不可能だった分析を可能にすべく新しい最先端の装置を使って測定しました。同位体顕微鏡です。わずか0.01mmの微小点を観測する事で酸素同位体比を明らかにする事を目指しました。普通コンドライト隕石には3つの種類がありますが、「イトカワ」の予想はLLコンドライトでした。これは他の隕石との同位体比が小数点以下7の位が4変化するだけです大変困難な分析となりました。
2月25日の深夜に来てから1週間、試料を分析し続けましたが、分析値が落ち着きません。その原因を探る毎日でしたが結論は「試料ホルダー」でした。3月10日には学会発表が決まっていたため、試料ホルダーの製作を女池さんに依頼し1日で作成していただきました。ホルダーを変えてからばらつきの少ないデータが集まるようになり、発表までに残された4日間で計測したデータでアメリカ
NASAの発表を行いました。そして発表の最中でしたが今までの分析で壊れたイオン検出器を交換し電極の清掃を行っている最中に震災が起こりました。試料が届く前に震災が起きたなら分析はできなかったでしょうと「はやぶさ」の奇跡を感じたそうです。
その後試料ホルダーを修正した結果、測定できる穴(場所)とそうでない穴があることが解かりました。測定可能な穴に特定してイトカワと隕石を測定しなおしました。最終的に測定したすべての箇所於いて満足できる結果が出ました。隕石の種類も特定する事に成功しました。
鉱物の種類の違いで同位体比が変わっていたことから変成という熱を受けたことが確認されました。そして変成した時の温度は約650度と見積もる事に成功しました。さらに約650度の変成温度から、イトカワは現在は500mほどの小さい天体ですが昔は1000km位の天体で在った事が推定され、加熱され続けていた事がわかりました。冷え固まった後にバラバラに割れた一部がイトカワであることが解かったのです。
伊藤さんのお話はここで終わりました。
この後、女池さんより「はやぶさリターンサンプル分析用ホルダの製作」と題して、イトカワから採集した微粒子を同位体顕微鏡で分析する際に使用した『サンプルホルダ』の製作と改善により分析精度が向上した背景について説明がありました。
まずリラックスをするために北海道大学についての一般的な説明の後、映像でサンプルホルダが出来るまでの工程について順を追って説明されました。
★打合わせ、CAD設計
★CAMデータ作成
CAD図面から機械加工を行う加工データを作成
★ 機械加工
工作機械でサンプルホルダを加工する
実際にサンプルホルダ機械加工を行うと「0.1㎜厚の壁部」に機械加工では除去出来ない微小のバリが発生しました。進捗状況をユーザーに報告したところ、研磨加工により除去出来ないか提案があり試削した結果、これまで使用していたサンプルホルダに較べ、分析精度が向上することがわかりました。更に専用冶具、加工工程の見直しにより「バリの発生」及び「加工歪みのない」加工が可能になりました。ユーザーからは前回製作したサンプルホルダより更に分析精度が向上した旨の報告を受けました。
このサンプルホルダを使用した分析結果は米国科学雑誌「サイエンス誌」に掲載され、またサンプルホルダについても「実験誤差を減少させる重要な要素である」と紹介されています。
最後にユーザーと密に打ち合わせを行い、常にサンプルホルダと分析状況をフィードバックして頂いた事で分析に好適な製品をユーザーと共に創り上げる事が出来たと講演を締めくくられました。
時間を延長してのお二人のお話になりましたが、皆さん真剣に聞き入っておられました。
伊藤さん、女池さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。
次回の講義を楽しみにしております。