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講座14 『お茶の間目線の経済炉辺談義』

第2回 「政策の陥穽~壁と崖と罠~」

2013/02/21

 平成25年2月16日(土)講座14『お茶の間目線の経済炉辺談義』の第2回「政策の陥穽(かんせい)~壁と崖と罠〜」を行いました。講師は元銀行マンの辻正一さん、受講者は26名でした。
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 講師の辻さんは、今朝の新聞で関心をもった記事のことから話しを始められました。「農に活力、農水省、農地の貸し借りを後押し」という記事で、国は今まで補助金や関税保護などで対応していたが、いよいよ具体的な政策に踏み込んできた、今後変わって行くことが期待される。また、安倍政権は現在絶好調、株価は11,730円で1ヶ月前から1000数百円上昇、日銀は景気が持ち直していると評価、さらに上場企業の4〜12月期の輸出採算業績が上がっている(円安に由来する国外所有の資産価値の上昇や現地子会社の資本金を含む自己資本の上昇など)等々の指摘がありました。

 今回も多くの資料や新聞記事などを使用して、連日新聞やテレビ等を賑わしているホットな経済問題について、以下のようなお話しをされました。

 「成長の壁」「財政の崖」「金融の罠」は先進国共通の病理とも思われ、先進各国は揃って財政出動と金融緩和を繰り返している。前半は最近のいくつかの動向について述べ、後半は現在の社会体制である「資本主義市場経済」や「民主主義政治体制」が「グローバル化」の中でどのような矛盾を表出しているかを乱暴に覗き見る冒険を試みたい。
1.金融緩和政策の罠(日本) 
(1) 日銀追加金融緩和政策(民主党)
・民主党政権の金融緩和(2012年10月30日):追加金融緩和として、資産買入基金増額、銀行の貸出増加を促す基金の創設、事実上ゼロの政策金利の維持を示した。政府と日銀との間で初の共同文書が交わされた。
・金融緩和政策の期待と限界:下図のように、日銀の通貨増発によって円安や銀行の流動性増が起こり、政府や企業はお金を使いやすくなり、輸出も増えて景気が回復するという期待である。
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 一方、"世の中にお金はあり余っている"という今日の状況の再来が心配される。
(2) アベノミクス(新政権)
・昨年11月19日自民党安倍総裁が選挙に際して言及したこと:インフレターゲット設定、日銀の無制限金融緩和、日銀による国債買い入れ、積極財政の展開、政府・日銀政策協定(批判:青天井でお金を発行し、日銀は輪転機を回せば良いのか?)
・新政権の政策:以下の経済政策、対策、体制で進められている。これらの政策は景気浮揚という国民の気持ち(民意)や7月参議院選挙対策の面から出てきていることも否めない。
【"3本の矢"】大胆な金融緩和政策、機動的な財政出動、民の投資を引き出す成長戦略;【緊急経済対策】東日本大震災復興・防災、成長による富の創出、安全・安心の地域活性化;【経済再生推進体制】「経済財政諮問会議」「経済再生本部」「産業競争力会議」の設置
・日本銀行の苦悩:11月の衆院選時の安倍発言「インフレ目標を設け、無制限に輪転機を回す」「金利をゼロかマイナスにして貸し出し圧力を強める」「政府が日銀総裁の人事権を持っている」「建設国債をどんどん発行し、全部日銀に買ってもらう」などの政治的圧力があった。
 一方、日銀金融政策決定会議での否定的見解(11月20日)、白川総裁の発言「政策は長期的に判断する」(12月3日)および当時野田首相の発言「禁じ手だ」(11月20日)などの反論もあった。
 しかしながら、自民党の圧勝を受けて行われた安倍・白川会談での安倍首相の発言「衆院選結果を踏まえた結論を期待する」(12月18日)がさらなる圧力となり、
2013年1月22日の日銀政策決定会議で「2%の物価目標導入」「政府との共同声明」「無制限緩和」が決まった。
・共同声明:ポイントは「デフレ脱却に向け政府・日銀の連携を強化」「日銀は、物価上昇率目標2%の出来るだけ早期の実現を目指して金融緩和を続ける」「政府は財政への信認を確保し、日本経済の競争・成長力強化に向けて取り組む」「経済諮問会議で金融政策と物価情勢を定期的に検討する」。
・別れる主張と評価:
アベノミクスの期待効果として、◆通貨の増加と物価上昇によってお金の価値が下がり実質マイナス金利にできる(お金を使わないで持っていることで得をしないことになり、消費者や企業はお金を使う。また、借金の返済負担が軽減され、新しい活力が生まれる) ◆円安になって、輸出産業は得をする ◆資産名目価値が上昇し、景気にとって大きな意味をもつ「気」が変わり、投資意欲や消費動向を刺激する。
 一方、警戒論としては、◆インフレ懸念(通貨価値の低下、日銀の独立性の喪失) ◆国債信用の毀損(国債金利の上昇、金融不安の発生) ◆通貨戦争勃発(各国が自国の輸出振興のために競争して通貨切り下げを進める)◆財政規律毀損
 上記に関するマスコミの論調および有識者の発言(ポール・クルーグマン[ノーベル経済学賞受賞]や浜田宏一など)についても紹介があった。

2.財政の壁(アメリカ)
 昨年の11〜12月には、アメリカの「財政の崖」と、世界経済に与える打撃の大きさが連日報道されていた。崖への転落から身をかわすことができたのは、1月1日の午後11時、市場が開く2日の直前で、まさに危機一髪であった。
・崖の落差:世界経済への連鎖が懸念される。
・発生の起源:オバマの福祉政策の推進と税収減による財政悪化が原因であるが、一番大きいのは共和党とオバマ(民主党)の「ねじれ現象」であった。残された課題もある。
・「思想」、「貧富」の対立:所得再分配をめぐる争いや負担に関する衝突がある。

3.国家の壁(EU)
 時間の都合上項目のみ列挙し、説明は割愛
(1)EUの理想
(2)EUの思想家たち

4.保護政策の罠
(1) 中小企業金融円滑化法
 「中小企業金融安定化法」は2回の延長を経て今年3月で終了する。この3年間でこの法律の適用を受けた中小企業は30万社とも40万社とも言われている。この間に経営再建の目途が立たなくなった企業が少なくなく、不良債権予備軍は5万とも7万とも言われている。法律の終了自体は法的に正しいが、安倍政権は「銀行さん、よろしく」と言うだけでソフトランディングは難しく、中小企業の倒産が心配される。
・出口戦略:中小企業金融円滑化法(返済猶予法)の背景や実施状況、効果等について概観した。法律の期限到来に当たって、2012年11月1日金融担当相(民主党)は「再延長はしないが、金融機関に貸し渋りはさせない」と話し、金融庁はいくつかの方針転換を示した。
 新政権では「円滑化法、延長しない」(麻生財務相)、「再延長を求める」(公明党)および「企業再生支援機構を地域経済活性化支援機構に改組する」等の考えがある。
・構造的改革の遅れ(政策の罠):実質不良債権の表面化の危惧、各企業一層の経営改革化努力、必要な産業構造改革への障害、新政権のイノベーション重視戦略との関連などがある。産業構造変化として「富を創出する成長戦略」があるが、社会的に力のない企業は頑張って下さいと言っているように聞こえる。
(2) 農業保護政策(平成23年度市民カレッジ講座14第2回目「TPPを考える〜TPPと農業問題」を参照)
 農業の保護育成は経済問題を超える立国論的な問題である。戦後今日までの農業政策が真の育成につながってきたのかは検証が必要であり、現に後継者不在に対する従来の補助政策はほとんど無力であった。
・農業保護政策の問題点-成果が上がっていない「減反政策」、世界にまれな独占事業体「総合農業協同組合」、「農地改革」のもたらしたもの、「食料、農業、農村基本計画」の一環戦略性の欠如、付け焼き刃の「農業の競争力強化に向けた基本方針と行動計画」等の問題点がある。日本農業の壁としては、小規模兼業農家、農業従事者の高齢化と後継者難および耕地面積などがある。
・農業政策の罠:農家の大きな票田が背景にあり、10月11日のJA全国大会において選挙運動中の安倍総裁は「聖域なき関税撤廃が要求されるなら、TPP締結はあり得ない」と演説し、一方、11月15日の日本商工会議所幹部との会談では「我々は日米同盟関係に相応しい交渉の仕方が出来る。交渉を突破してゆく」と発言した。
・農家の国への依存体質と本当の農業改革の遅れが問題である。
農業は、国家の大本である。今日の農業問題は、第一に、国内論理だけでは成り立たない。第二には、保護を趣旨とした政策が結局農業の力を弱めてきた一面も否定できない。「民の依存心」と「政の思惑」が、真の「農業イノベーション」に向けて昇華することを期待したい。

第2部の「時代は動く」として、以下の話しがあった。
1.資本主義の壁〜グローバリズムの迷路〜
 現在、主要先進国のいずれもが資本主義的国家運営を行っている。資本主義(国)の歴史を見ると戦争が支えた面を否定できず、例えばアメリカは世界大恐慌に対してニューディール政策を採ったが、実際には第2次世界大戦によって不況を脱したとの理解も少なくない。しかし、戦争は得られる利益よりも損失が大きいという時代を迎えており、資本も国家も戦争以外のグローバル化した市場経済における戦略を練り、「国益」と言われるものを追求して行く時代となった。「新帝国主義」とでも呼ぶべき姿です。
(1) さまざまな資本主義〜世界の資本主義
・アメリカは、典型的な市場資本主義であるが、様々な問題を抱え、パックスアメリカーナは終焉した。イギリスは、社会福祉国家主義から市場資本主義の色彩を強めている。中国は、国家が一元的に主導管理する国家資本主義。高度成長を誇ったが、多くの問題が顕在化している。ロシアは、資源を国家が管理する資源国家資本主義。日本は、どちらかと言うと社会規範が優先する共同体型資本主義だったが、小泉改革により市場資本主義の傾向を強めた。
(2) 資本主義の変貌
・資本主義の様相の変化:資本主義の壁として、環境・資源、先進国内市場縮小、植民地主義(地球)の限界、戦争の経済効果消滅、国内矛盾の噴出などがあげられる。資本主義の壁への対応として、戦争に依らない「国益」の追求・拡大を進める「新帝国主義」(金融資本主義への変貌、新しいブロック経済の構築)がある。
・グローバリゼーション:インターナショナル(国際化)からグローバリゼーション(地球化)へ移行。今までは、アメリカがグローバリズムの中心であったが、いまやパックスアメリカーナは終焉し、混沌の時代に入った(G1→G7→G20→GXへ変貌し、成長の中心地はアジアとなった)。

2.もうひとつのTPP
 「国益」とは何を指すのか。これまでの論議で言われる「国益」、即ち、貿易上の有利・不利、農業に代表される国内産業の保護などの側面だけではなく、世界の「新帝国主義」の中における「国益」の視野も必要である。
・新政権の選択?:現参加国合意(11月予定)後の日本参加あるいは参院選前の意思決定が可能か(自民党内には強い反対があるが、世論調査では参加賛成が反対を上回った)?日米機軸の外交戦略を考えると安倍・オバマ会談への対応はどのようになるか?
・日本を巡るEPA,FTA(平成23年度市民カレッジ講座14第2回目「TPPを考える」を参照―23年度講座14第2回目記事はこちらから):日本の経済連携を下表に示す。
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 また、現在日本政府が準備を進めている経済連携としては以下がある(2012年12月15日現在)
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 アジアを巡る確執:米・中のせめぎ合い、中国にとっての「日中韓FTA」、中・印のせめぎ合い、ASEAN・中国のせめぎ合いなどの確執がある。
アジア太平洋地域における経済連携の枠組みを下図に示す。
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 日本の立ち位置〜もうひとつのTPP:国内産業の保護の視点が強調されがちだが、新政権の成長戦略の実現の次元での国益が見逃されないか?経済的「国益」と併せて資本主義国間の世界戦略の視点も必要である。アジアで進行しているいくつかのEPA,FTAの統合に向け日本を結節点とする可能性を探る視点は無いのか?

3.民主主義の罠
 民主主義は、「欠陥が多いが、思いつくどの政治体制よりも優れた仕組みである」(チャーチル)と考えられている。「複雑多岐な民意」「振れる民意」「個別の利益を追求し全体の利益を顧みない民意」などに振り回され、政治はますます「民意」を収斂することが難しい状況となっている。また、「民意」を迎えることに傾注するあまり、政治の指導性も希薄になりがちである。多くの先進国は「政治のねじれ現象」に遭遇して機敏な意思決定ができにくくなっている。
・ポピュリズムの罠:政治家は、自らの見識や理念を国民に問うよりは、専ら「民意」を探り、それに迎合することを手段として自らの立場や権威、支配力を維持拡大しようと腐心している。
・ファシズムの罠:ファシズムの語源は「束ねる」である。政治的混迷が続くと国民はともすると「強いリーダー」を渇望し、(誰かが)決めてくれることを求める。ただ、その方向性や中身は曖昧である。
・砂粒化する民意と「風」:民意に関し、得票数が当選者数に正しく反映されていない現状がある。今回選挙の投票率は59.32%で、約2000万票の民意が消えた。選挙に行かない気まぐれな有権者をお祭り気分で動かすことが出来れば体制は変わるという、「風」によって動く傾向が強くなった。
結論として、より優れた政治体制が発見できない限り、ひとびとの政治への関心と注意深さによって「民主主義」を守らねばならない。

4.グローバル化の嘆き
 「民主主義」と「国家主権」と「グローバル化」の3つが同時に同等には存立することはできない。とするなら、選択肢は以下か?
・「グローバル化」と「国家主権」を選択(民主主義の放棄):自由貿易・関税撤廃、国内諸制度の規制改革・世界標準化、新自由主義、自己責任、小さな政府論。経済好調の時は支持されるが不況下での維持は困難。ファシズムに向かう可能性がある。
・「民主主義」と「グローバル化」を選択(国家主権の放棄):世界市場の統合、世界レベルの民主主義、各国財政の統合、世界政府による再分配。ナショナリズムの反動や言語・風習・宗教の障壁がある(例:ギリシャ救済に対するドイツ国民の反発)。
・「国家主権」と「民主主義」を選択(グローバル化を放棄):ブレトンウッズ体制ではグローバル化が制約された。貿易赤字の場合緊縮財政の選択が必要で、現在この選択は成り立たない。
すでに「グローバル化」から引き戻ることは不可能である。当分は「国家主権」や「民主主義」体制を脅かす不安定な時代を過ごすことになる。そのなかで、このバランスを、その時々に回復させながら、ジグザグ道を歩むことになりそうだ。

 今まさしくホットな経済問題について、難しいことも含めてわかりやすく解説していただきました。大変勉強になった90分でした。




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