2月28日(木)藤女子大学・いしかり市民カレッジ共催講座「これからの社会保障は大丈夫?」の第2回「これからの社会保障はどうなるか」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、藤女子大学人間生活学部教授の内田 博さん、受講者は30名でした。
前回は、日本の社会保障は、どう云う前提で構築されたのか、そしてその前提が今では崩れてしまった、ことを学びましたが、今回は、それでは、これからどのような対応をすれば良いか、についてのお話でした。
以下は、そのお話の概要です。
□制度設計の前提と現実との矛盾
・先進国では、80年代~90年代に前提と現実の矛盾に気がついて対応した。
・日本は、バブル経済期で、その矛盾に手を打つことなく、むしろ従来型社会保障を拡大した。
そのため、矛盾は拡大し、危機が深刻化した。
□各国の対応例
○オランダ
・給付水準を下げた(社会保障を維持できる程度)。
歳出削減をはかり減税を行って、可処分所得の減少を抑制した。
年金は、現役世代の7割から6割へ。
・ワークシェアリングにより、1人当たりの労働時間を短縮し、全体の雇用増 加を図った。
共働き世帯の増加により、世帯収入を維持。
雇用拡大分は、正社員と同じ時間賃金で社会保険に加入するパートタイ マー。
・教育を重視し、大学との連携を高めて、先端企業の強化を図った。
伝統産業の発展を図った(園芸農業強化など)。
※結果として
・成長により国民所得が上昇した。
・ワークシェアリングにより世帯所得が上昇し、社会保障を維持する生活基 盤を保つことが出来た。
※日本で可能か?
・正規と非正規との格差が大きく、非正規が増加している。
・ワークシェアリングを行えば、非正規が増加して、全体として所得が下がる 結果となる。
○スウェーデンの場合
・高福祉高負担と云う考えが、浸透している。
・そのためには、高賃金が必要であるが、全般的な高賃金は不可能なので
1)福祉サービスを一部民営化。
2)高所得層賃金引き下げ(労使合意)―格差拡大を防ぎ、全体の所得を維 持。
3)福祉を活用して先端産業を育成。
※結果として
高賃金階層の所得低下により、格差拡大が防止され、全体の所得維持を図る事ができた。
先端産業の成長と医療・教育・福祉分野の雇用力とが結びついた。
※日本では?
・高賃金階層の賃金引き下げを図れば、国外への逃亡を招く。
・先端産業の受け皿は従来型製造業で、衰退している。
・マンガ、アニメなどのコンテンツ・ビジネスは、世界シェアーは高いが低賃 金職種である。
・医療教育福祉にお金をかけない。
○イギリスの場合
・サッチャー政権時に福祉国家体制を解体して、社会保障制度を全面的に 見直した(例えば、病院は、国立から医療法人へ)。
・競争は道徳的成長で、福祉は道徳的堕落と云う考え方。
・小さな政府を目指し、公的社会保険を縮小して、民間保険で補完した。
□日本の将来
○現状
・雇用力のある産業は衰退している。
・成長産業には雇用力がない。
・勤労者世帯収入は低下し続けている。
※様々な給付の必要は増加しているのに、負担力は低下している。
○その対案としては
対案1)福祉の最適ミックス―イギリスモデル。
対案2)産業構造の転換―オランダやスウェーデンモデル。
対案3)ベーシック・インカム―根本的な制度変換。
などが考えられる。
対案1)福祉の最適ミックス
国、家計、企業で福祉サービスの役割を分担する。
・日本では
社会保険の財政危機→家計の自助努力(企業の提供する福祉サービスや保険の活用)を強調。それが出来ない弱者に関しては、社会保険から公的扶助へ。
※防貧が主で救貧は補完と云う従来の形から防貧と救貧が並び立つ形となる。しかし、公的扶助を行う自治体の財政を圧迫するので、すでに一部の自治体で行われているように予算管理を強化して、出来るだけ受給させないと云う傾向が強まる。
格差が拡大する。
対案2)産業構造の転換
①スウェーデン型―知識集約型の産業と雇用力の大きな医療・教育・福祉を組み合わせる。
②知識集約型を推進―教育の分野への投資拡大。
※転換には、長い期間が必要。転換への合意が得にくい。もし成功しても、中央と地方の格差を直ちには解決しない(社会保障体制の危機は、地方でより深刻)。
対案3)ベーシック・インカム
国民全員に最低所得保障制度を導入する。財源は、税金。社会保険と公的扶助の区分を廃止。社会福祉関係の様々な給付も部分的に統合可能。
・ベーシック・インカムの狙い
防貧の前提が崩壊して、救貧が増加する事への対応。防貧と救貧の区分を消滅させる:限界領域に効果的に対応。
・問題点
①BI(ベーシック・インカム)導入→賃金引き下げ→BIコストが増加。
②賃金引き下げ→労働供給減少→企業の危機。
※しかし、一方で、企業が面白い仕事を提供しないと人が集まらないので、知的集約産業の発達を促す面もある。
従来の制度が維持できないとすれば、この制度に行き着かざるを得ないのではないか。
しかし、この制度を実行できるかどうかは、経済的に合理的な制度設計ができるかどうかがカギとなる。
今回の内田さんのお話で、社会保障設計の前提が崩れてしまったこれからは、形を変えて制度を維持するにも限界があること、産業構造を変えようとすれば合意が難しく長い期間が必要なこと、むしろ社会保障制度自体を根本的に換える方法もあること、しかしその場合は、経済的に合理的な議論による合意が必要なこと、などが良く分かりました。
特に、最後に話された「あれがない、これがないと考えるより、あれがある、これがあると考えた方が良い。」と云う言葉は、これから先にあまり光明の見えない中で、大変勇気づけられるものでした。
受講者からも
「社会(保障)システムは変わらざるを得ない。どう変化するかが問題である。グローバルな動きの中で、日本が生き延びる為のビジョン必要ですネ!」
「今後の社会保障に関して、ますます不安が増してきました。子供たちが夢と希望をもてる社会を取り戻せる政治が求められます。」
「講義内容は、非常にレベルが高いものであったがわかりやすく勉強になった。今後も今回のようなテーマの講座があれば参加したい。」
「社会保障も年々変化して行くので毎年のシリーズ化をして欲しい。」
「社会保障と教育・産業・経済・金融との分野の関連を知ることができた。」
「たいへん勉強になりました。他の内容でも先生のお話をまた、聞きたいです。」
等などのコメントが寄せられました。