11月9日(土)、石狩市民図書館において、主催講座10「旧石器、縄文、弥生の人類、そして文化」の第2回「北海道の縄文時代人とオホーツク文化期人の特徴」~骨格形態からわかること~の講座を行いました。
講師は北海道大学大学院 医学研究科 特任講師 深瀬 均さんです。受講者は34名でした。
最初に自己紹介と研究分野の紹介から始まりました。
○自己紹介として
・人類の進化などを専門とする、「自然人類学者」です。
・生まれも育ちも山形です。大学進学のため東京へ初就職は沖縄琉球大学へ。
沖縄はサンゴ礁の島なので骨の保存状態が良く、人類学を学ぶ者のメッカになっています。
2年半ほど前に北海道大学に異動してきました。引越しを通して日本の南と北の人類学を肌で感じています。
○研究分野として
・自然人類学とは
チンパンジーやゴリラなどヒト科の共通祖先からどのように現生人類(ヒト)が進化してきたのかを解明する学問です。主に発掘された霊長類や人類の化石を対象に、その形態を分析する学問です。
私は自然人類学のなかの形質人類学を研究しています。形質人類学は化石などの形を見ながら進化の過程を考えるものです。
・現在の研究テーマとして
1 ヒトの下顎骨の進化上の変化
ネアンデルタール人とホモサピエンスの下顎骨の違いをCDなどを使いながら調べている。
2 沖縄の縄文人の特徴
沖縄の縄文人と北海道の縄文人の違いを調べている。
等をテーマに研究していると話されました。
〇今日の話の流れとして
●日本の旧石器時代人
●日本と北海道の縄文時代人
●北海道の続縄文時代人
●北海道のオホーツク文化期人
●北海道アイヌの形成
の流れで話しを進めて行きたい。
●日本の旧石器時代人
旧石器時代人の人骨の発見は数が少なく、静岡県浜北、沖縄県湊川・山下町・下地原、石垣島のピンザアブの5か所から発見されています。沖縄県山下町3.2万年前、ピンザアブ2.6万年湊川1.8万年前、下地原1.5万年前、静岡県浜北1.8万年前と推定される。
1万年を超えると人骨の保存状態も悪くなり数も少なくなります。
旧石器時代人と縄文人のつながりについて話され、「縄文人の起源論」についてはいまだ議論が多い。
①後期旧石器時代人が直接縄文人に? ②「2重構造論」では縄文人は南方起源、渡来人は北方起源とされる。③考古学的には北方起源?
④一般的には3方向から?(北方から、朝鮮半島沿い、南方から)。
当時は海水面が低く移動が容易だったと思われる。など議論が分かれる。
・南方起源説の根拠として沖縄ミナトガワ人18000年前の全身骨格化石、小柄だが頑丈、縄文人との類似が多く指摘され南方起源説の根拠とされる。
・北方起源説として遺伝子データは日本列島人(アイヌ、本土、沖縄)がすべて北東アジア起源であることを示唆している。考古学的にはシベリア由来の細石刃が北海道から伝わってきている。
北海道で旧石器時代人の人骨はまだ発掘されていない。北海道で発掘されたらトップニュースになるでしょうと話されました。
●日本と北海道の縄文時代人
※縄文時代人の特徴として
・低く広く、立体的な顔
・四肢は相対的に長い
・南方系の体型
・貝塚に埋葬されることが多く骨の保存状態が良い
※渡来系弥生人とは
・北東アジア人の形成と成立
~シベリアで寒冷地適応した結果の人々~
・高身長、高く平坦な顔
・胴体に対し四肢は短い
※一般的な日本人起源論
・二重構造論 現代の日本人の構成=基層集団の縄文人+渡来してきた人々
※縄文人の地域差 【人骨の研究からアプローチ】
・化学的分析から
―生前何を食べていたか 魚、肉、木の実
―離乳の時期 歯の分析―乳離れの時期
―婚姻システム 発掘土壌の成分分析と人骨の成分の関係
男女間の間―外部からの婚姻等
・形態分析からわかること
―気候・生存環境との関係
・北の縄文人VS南の縄文人 体格比較
・山の縄文人VS海の縄文人 食性比較
・生前の病気・健康状態
※縄文人の地域差【食性】
―古人骨の同位体分析による―
特徴として、北海道:海生哺乳類 沖縄:海生貝類 関東:陸上哺乳類を多く食しています。
※縄文人の地域差【顔面形態】
・大局的には現代の日本人と同じ程度の地域差です。
・ただし、細かく見ると現代日本人にみられる地域的特徴はすでにあった。
※縄文人の地域差【体型】
「生体地理学的法則」の説明
・ベルグマンの法則―北の動物ほど太く大きい
・アレンの法則―北の動物ほど突起物が小さい
・フォスターの法則(島の法則)―大型動物として島嶼矮小化
・ボデーサイズ北ほど大きい
※北海道の縄文人骨からまとめ
・基本的に他の日本列島に居住していた縄文人と同様の顔かたち
・食性としては「海生哺乳類」に依存傾向 ~北海道ならではの特性
・体のサイズ大きい ~ 北の民という特性
●北海道の続縄文~擦文時代の人々
※日本列島の時代区分
・本州にはない「続縄文時代」
稲作は当時北海道には入らず
・沖縄でも狩猟採集生活が続く
※北海道の続縄文・擦文時代の人骨
・続縄文の数は多くない。
・概して縄文人の範囲だがアイヌとの中間的なものもある。
・擦文時代となるとさらに限られる
北海道のオホーツク文化期人
※オホーツク文化
・北海道の限られた時期(縄文~擦文)と地域の文化です。
道東・道北に多くの遺跡を残した。出土人骨は多い
※オホーツク文化人の特徴
・縄文人と対照的
・高く、広い顔面骨
・平坦な顔立ち
・顎骨が著しく大きい
・歯牙の咬耗
・北東シベリア(アムール川下流)の人々と類似
・身長が高い
※オホーツク人のその後
アイヌへと変化...?
●北海道アイヌの形成
※日本列島におけるアイヌの人々
・北海道縄文時代人の系譜を色濃く残す人々
・文化的に特色を示すが、系統的には本州の人々と連続的
※最近のゲノム解析から
・ヨーロッパでは数十万か所の遺伝子情報で出身地が特定できる
・全国の日本人のゲノムを分析すれば日本地図が出上がる?
※全ゲノム解析からアイヌ・琉球同系論
・40万か所のSNP特徴から分析
・日本地図のようにならず北海道(アイヌ)と沖縄が近くに分析される
最後に日本の人類史はどうしても本州中心になる、しかしながら北海道で人類のルーツを探ることはそのまま日本列島人のルーツに直結する。明治の和人の流入も、北海道の人類史の中では最近の一コマです。100年後の北海道に住む人達はどうなっているでしょうか?と話され講座が終わりました。
たいへん滑らかに淀みなく話され大変参考になった講座でした。
また受講生からも小さな日本の中でもいろいろ民族性があり、勉強させられました、等の感想が寄せられました。