1月16日(木)講座11『和本の世界から仮名文字を楽しもう~読んで広がる江戸・明治の世界~』の第1回「和本の仮名書きに慣れる」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、北海道教育大学札幌校教授の吉見孝夫さん、受講者は30人でした。
先ず、資料を貰って不思議に思ったのは、原稿用紙状の紙にあ、い、う、え、お、と書いてある資料です。これは、どう云う資料なのでしょうか? まあ、お話が進めば分かることでしょうが・・・
「本日は、和本などの知識が無い方を対象としたお話をしたいと思いますので、もし詳しい方がいたらご勘弁ください」「実は英語などではこんなことは起こらないのですが、日本ではたかだか100年ちょっと前の本が読めないのです。昔の本には面白い物がいっぱいあるのにそれが読めないのは大変もったいないことです」吉見さんのお話は、こんな前置きの後、和本についての説明から始まりました。
1.和本とは、日本で作られ、日本風に装丁した本。また、日本で版をおこした本。
現代の本は100年も経てば、ぼろぼろになるが、和本は丁寧に扱えば1000年以上保たれる。
2.和本の形態
①巻子(かんす)本―巻物にした装丁。
②冊子本―同じ大きさの紙を重ねて、糸、糊などで綴じ合わせた装丁。
袋綴じ―二つ折にした紙を重ねて、折り目でない方に穴をあけ、糸でかがる書籍の綴じ方。江戸時代の物はほとんど袋綴じで、投げても 傷まないほど丈夫だった。
3.印刷か手書きか
①版本(板本)―版を彫って、紙面に印刷した書籍。
②写本―手書きされた書籍。
4.印刷法
①整版―版木一面に墨を塗って用紙を当て擦る印刷法。江戸時代はほとんどこの方法。
②活字版―1文字あるいは数文字を彫った活字を組み合わせて印刷面を作る印刷方法。
古活字版―1593年から50年ほど続いた活字版。
5.版本の構成
表紙、題せん、外題、見返し、序(文)、内題、版心、柱、魚尾、跋(文)、刊記。
6.和本はどうして難しいか
①文化的背景がわからない。
②わからないことばが使われる。
③文法が今と異なる。
④漢字に制限がない。
⑤漢字の音訓が今と異なる場合がある。
⑥漢字の字体が今と異なる。
⑦漢字が行書体、草書体でも書かれる。
⑧仮名遣いが多様である。
⑨送りがなの付け方が多様である。
⑩仮名字体が多種多様である。
⑪連綿体で書かれる。
7.表記と文体・内容
片仮名(非連綿体)―楷書体の漢字―漢文訓読体―学問的内容が主。
平仮名(連綿体)―行書体・草書体の漢字―和文体・俗文体―和歌・和学・各種読物。
8.多種多様な平仮名
①初期の平仮名―土佐日記
②明治33(1900)年小学校施行規則―この時平仮名の字体が決まった。
このような、和本や仮名についてのお話の後、いよいよ文章を実際に読む実技に入りました。
読む資料は、「小学読本」金港堂、明治16(1883)年刊、亮策纂述のものです。
読本を読む前に、資料「仮名字体表」の説明がありました。これは、よく使われる仮名をその成り立ちも含めて記載したものです。
さて、読本です。
最初から、見慣れない字が出てきました。
これは、す、と云う字だそうです。仮名字体表と照らし合わせてみると、須と云う漢字をくずして出来た平仮名である事が分かり、納得です。
「この『す』を、あ、い、う、え、お、と書いてある表の、す、のところに書きこんで下さい」なるほど、最初に疑問に思った原稿用紙様の資料はこのように使うのだということが始めて分かりました。
第34課―『』の中が古い仮名です。
汽車を発明『す』
英国(国と云う字も今の字とは違います)の、ステフヘンソンと『い』へ『る』人『は』、家甚『だ』貧しくて、父と共『に』、石炭を掘る『こと』を、業とせし『が』、鉱山局のつ『か』さ『に』めさ『れ』たり。いとま『あ』『れ』ば、機械の学『に』、心をつくし、い『か』『に』もして、良き器を作りいだし、世の為め人のた『め』を、は『か』ら『ば』やと、数(これも旧字)年考へける『が』、遂『に』蒸気車を作りいだし、ま『た』鉄(旧字)道を工夫せり。今の蒸気車鉄道『は』、この人『の』たくみ『に』な『れ』り。
旧仮名も、何回も出てきて慣れてくるとスムーズに読めるようになります。また、慣れない字を読むには、前後の文脈から感を働かせて読むことが大事だそうです。
少し慣れたところで、もうひとつ読むことになりました。
第28課
蠅のい『ま』し『め』
蠅その子『に』いましめて曰『は』く。汝等『も』し砂糖と酒と『に』『あ』はば、よろしく意を『も』ちふべし。然らざ『れ』『ば』禍をかうふらんと。一子の曰『は』く、砂糖『は』『あ』まきのみ、何の恐るゝ『こと』『か』『あ』らんとて、や『が』て砂糖ばこのうち『に』入り、『あ』くまでくらひ、『も』『は』や去らんとせし『に』、脚『ね』『ば』りつきて、遂『に』動く『こと』『あ』『た』は『ず』。又一子の曰はく、葡萄酒『は』、ただ甘きのみ。何の恐るゝ『こと』の『あ』らんとて、や『が』て盃『に』いりて、志きり『に』吸ひける『が』終『に』『ゑ』ひおぼ『れ』てその命をおとせしと『か』や。
ここで、時間になって本日の講座は終了したのですが、20個ほどの旧仮名を覚えて表に書き込むことが出来ました。
残りは、家で読んできて下さい、と宿題も出ました。
小学生向けの読本とは云うものの明治時代の物はなかなか難しかったのですが、それでも吉見さんが言われるように感を働かすと、まんざら読めないこともありませんでした。
ちょっと頭を使いながら読んでいくのが、学生時代に戻ったような楽しい作業でした。
今度はどんな文章に挑戦できるか、次回が待ち遠しい感じです。