11月6日(木)花川北コミュニティセンターで主催講座12『宗教がわかると人間と世界がわかる』の第3回「宗教と暴力~宗教はテロを生み紛争をもたらすのか」を行いました。講師は前回と同じ北海道大学大学院文学研究科 特任教授 宇都宮 輝夫氏です。
受講生は45名でした。
今日はタブーとされる宗教、政治のダブルタブーの話をまとめて話をしたいと思います。なぜタブーとされるのか、それは、それぞれが互いに譲れない問題だからです。それだけ重要だということです。今日は特定の立場につくことなく客観的に忠実的に事実をお話ししようと思います。と話され講座に入りました。
今、世界各地で武力紛争が起きています。我々は武力紛争と聞くと、すぐイスラムのテロと感じ、そしてすぐ中東を思い出します。今日はその中東の政治、宗教情勢を中心にお話します。
中東での紛争の根源はパレスチナ問題にあるので、まずパレスチナ問題を簡単にお話しします。
これから話す紛争、対立・テロは宗教的要因なのかを絶えず問うてもらいたい。
別紙資料を見ながらパレスチナ問題の歴史をはなされました。
現在までのパレスチナ地方の居住者
紀元前4千年:カナン人―エジプト―ヒッタイトーフェニキアーユダヤーアッシリアーバビロニア―ペルシャ―マケドニア―ローマ―イスラム―第1次大戦前トルコ。
1917:イギリス軍、パレスチナ占領
1922:イギリスのパレスチナ委任統治始まる。ユダヤ移民急増、ヒットラー政権後はさらに急増、ユダヤ人とパレスチナ人の対立激化。双方に死者多数
第2次大戦が近づくとイギリスユダヤ移民の制限・禁止
1946:ユダヤ人過激派組織が英委任統治司令部を爆破、英人死者100人
1947:イギリスパレスチナ委任統治を放棄。国連パレスチナ分割決議採択
当時のパレスチナの人口190万人、うち7割のパレスチナ人に43%の土地を、3割のユダヤ人に56%の土地を与える。ユダヤ側受容れ、パレスチナ側拒否
1948:内戦状態。イスラエルによるアラブ人虐殺,占拠が始まる。アラブによる報復テロ
1948:イスラエル独立宣言。アラブ諸国パレスチナ侵攻、第1次中東戦争
1956:スエズ運河国有化宣言、第2次中東戦争
1967:第3次中東戦争。イスラエル先制奇襲攻撃
1972:テルアビブ空港乱射事件
1973:第4次中東戦争。
1981:サダト大統領暗殺
1982:レバノン戦争
1990:イラク、クエートに侵攻
1991:湾岸戦争
2001:アメリカ同時多発テロ アフガン空爆、
2003:イラク戦争
今も中東では紛争、テロは続いている。
これ等のパレスチナにおける歴史を見て、戦争、紛争、テロの繰返しは宗教がどこに関係しているのだろうか?言えることは宗教の教義が関係しているのではなく、政治的、軍事情勢が関係していることである。
★日本に於いても幕末から第2次世界大戦終了まで暴力行使が途切れることなく連続する歴史であった。そしてそこには宗教は何ら絡んではいない。社会が根底から構造的に変化しつつあるときは、生きられるか否かという極限状態が発生し、暴力の衝突はほぼ不可避的に起こる。
★なぜ自爆テロをするのか、彼らも自爆テロをして死んで天国に行くことよりも、地上のいたるところで正義と公正が行われ、家族や友人共々平穏で幸福な共同生活が実現することを願っている。自爆テロの本当の原因は、犯人がコーランの字義的解釈をしていることではなく、テロ以外に行動の選択肢が無くなったと思うほどの絶望的状況に追い詰められたことにある。
★ドイツは第2次世界大戦を引き起こした。ベルサイユ条約によって払えるわけのない莫大な賠償金を課せられ、ドイツ工業の中心ルール地方まで占領された。市民生活は完全に破壊され、国民は生きる希望を失い絶望へと追いやられたことが根底にあった。
ドイツが行使した暴力は世界大戦と呼ばれる。しかし小規模の暴力しか行使できない絶望者の暴力はテロと呼ばれる。2つとも多くの共通点がある。
★中東での紛争の根源は、パレスチナ問題である。イスラム世界でのアメリカ嫌いの源はこの問題へのアメリカの対応である。1947年の国連の決議以来、一貫してアメリカはイスラエル寄りであった。
★中東和平の基本は「土地と平和の交換」である。イスラエルが土地をパレスチナに譲り、パレスチナはイスラエルの安全を保障するというのが原則である。しかし入植は進められている。イスラエルの現実の政策は「もっと多くの土地を、しかし平和も」というものである。お互い武力に頼っても、憎しみのサイクルを強化するだけである。この出口なき状況を打開するためにこそ人間の英知が必要である。
最後にこれまで話した論議は、狂信的教義を信じて殺人を実践する人はいないと、論証したわけではないし、人々が狂信的教義を信じているために生じた紛争は存在しないとも論証していない。そうした個別的事例は存在するかもしれないが,いずれにしても、個別的な調査と事実確認に基づいてのみ論議なされなければならない。私は自分がそうしたことをできる事例を取り上げているに過ぎない。と話され講座を終りました。
受講者のコメントでは、大変参考になった、再度講座をお願いしたいとの意見が多数でした。