10月1日(木)、主催講座12「今、中東で何が起きているか」の第1回「イスラエルとパレスチナはなぜ戦いを続けるのですか」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、北海道新聞社・編集本部次長の坂東和之さん、受講者は、36名でした。
坂東さんは、カイロ支局に駐在(2009年~20012年)されていた時に起きた「アラブの春」のことからお話を始められました。
◇アラブの春
2010年チュニジアで始まった独裁政権崩壊は、エジプト、リビア、イエーメンと続き、アラブの春と呼ばれた。エジプトでは、30年間続いたムバラク政権がわずか18日間のデモで崩壊した。
ムバラク政権が倒れた理由のひとつに、パレスチナ問題がある。エジプトは、アラブ諸国で唯一イスラエルと平和条約を結んでいて、国民感情とは相反していた。
◇アラブ人のひととなり
けっして過激な人達ではない。温厚でフレンドリー但し時間にはルーズ。アラブではアメリカ人は嫌われているが、中東地域を支配したことがない日本人は好かれていて親日家が多い。
◇パレスチナ問題
たとえ話で言うと「Aと云う人達が住んでいるCと云う所に、お金持ちで数千年も前にCに住んでいたBと云う人たちが世界の有力者を動かして強引にCに住むようになったので争いが起きた」のがパレスチナ問題。
◇イスラエル建国
・シオニズム運動(19世紀後半に興った、かってユダヤ教徒の王国があったパレスチナにユダヤ人の独立国家を建設しようと云う運動)により20世紀初頭からユダヤ人が少しずつパレステナに住み始めるようになった。
・1917年、英国は、ユダヤ人の祖国建設を支持するバルフォア宣言を行った。
・1947年、国連は、パレスチナ分割を決議。
・1948年、建国 図の黄色部がイスラエル領で茶色部(ガザ、ウェストバンク)がパレスチナ領とされるが、国境は確定していない。イスラエル建国の日を、パレスチナ人はナクバ(大厄災)と呼んでいる。
・現在では、1948年の区分以上にイスラエル人入植地が増えている。
◇エルサレム
ユダヤ教の聖地であると同時にイスラム教ではムハマドの昇天地、さらにキリスト教の聖地でもあって3つの宗教の聖地となっている。これがパレスチナ問題の宗教的側面。
イスラエルはエルサレムを首都とするが、国際的には認められていない。
◇パレスチナ難民
イスラエルの建国により、70~100万人が難民に。UNRWAの2014年の資料では、難民数約549万人(西岸92.5万人、ガザ132万人、ヨルダン218万人、シリア56.4万人、レバノン48万人)
◇ガザ地区
現在は、ほとんどパレスチナ人が住む。面積は札幌の1/3ほどで人口176万人。過度の人口過密状態。失業率40%以上で、住民の8割は、食料などの援助を受けている。
イスラエルが建設した壁に囲まれていて、自由に出入りできず物資の出入りも制限されて、「天井のない監獄」と云われる。
物資の流入は、エジプトとの間に無数に掘られたトンネルによる。トンネルは、ガザ地区の人達の命綱となっている。
ガザでのイスラエルの行為は、ジュネーブ条約違反で、「集団懲罰」に該当する。
◇イスラエルによるガザ攻撃の犠牲者
・2008年12月~09年1月
ガザ側 1330人(7~8割が民間人、死傷者の1/3は子供)
イスラエル側 13人(兵士10人、民間人3人)
・2014年7~8月
ガザ側 2158人(民間人1460人で7割)
イスラエル側 73人(兵士6人、民間人7人)
イスラエルはハマスを狙っていると言っているが、人口過密状態では狙うことは不可能で結果的に民間人の犠牲が多くなっている。
・攻撃の原因
ユダヤ人入植者3名の遺体が発見され、それへの報復としてパレシチナ人少年が殺された事件がきっかけ。イスラエルとハマスの軍事力には圧倒的な差があり、争いと云うより、イスラエルによるガザの弾圧というべき。
イスラエルのガザ攻撃を評する世界の新聞の風刺画。
◇イスラエルはどうして戦闘(弾圧)を続けるのか
・イスラエルを国家と認めず武力闘争を続けるハマスを封じ込めるため。
・現ネタニヤフ政権は右派連立で、パレスチナ強硬論が主流。選挙対策。「二国家樹立」の意思はない。
・攻撃による兵器・弾薬の消化はアメリカの追加援助を促し、アメリカの軍需産業を潤す。
・ガザ復興のため、イスラエル経済に特需が起きる(主に建設)
・「占領」「集団懲罰」は国際法違反なので、戦闘状態を維持したい(戦闘状態なら現状は容認されるとの論法)
◇ヨルダン川西岸地区
・西岸地区にもイスラエルの入植地(入植者には優遇政策が取られている)が増えているが、これは国際法違反。
・皮肉なことに入植地で建設作業に従事しているのは貧しいパレスチナ人。
・現在巨大な壁が作られている。
◇エルサレム旧市街
ユダヤ教、イスラム教、キリスト教のそれぞれの聖地。
・ユダヤ教―嘆きの壁
・イスラム教―アルアクサ・モスク
・キリスト教―聖墳墓教会
◇パレスチナ問題をめぐる日本の対応
・2009年 国連人権委がイスラエル非難決議案を可決(日本は棄権、アメリカは反対)
・2010年 国連人権委がガザ支援船急襲事件を捜査する独立調査団派遣の決議案を可決(日本は棄権、アメリカは反対)
・2012年 国連総会がパレスチナをオブザーバー国家として認める決議案採択(日本は賛成、アメリカは反対)⇒EU諸国などはその後、パレスチナを国家承認、日本はアメリカとともに反対
・2014年 国連人権委がイスラエル非難決議案を可決(日本は棄権、アメリカは反対)
以上が本日のお話の概要ですが、坂東さんは最後に、パレスチナ問題は日本に関係のない問題ではありません。国際的にも重要な問題ですが、この問題に日本がどのような対応をしているかは、これまであまり報道されてきませんでした。私たちは、この問題に対して日本がどのような対応をするのか、追い続けていかなければならないと思います、と結ばれました。
本日のお話で、パレスチナ問題とはどういうものなのか、現状はどうなっているのかが大変良く分かりました。私たちもこの問題に関心を持ち続けていきたいと思います。