10月15日(木)、講座12「今、中東で何が起きているか」の第2回「『イスラム国』ってどんな国~スンニ派とシーア派の違いは何?」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、北海道新聞社・編集本部次長の坂東和之さん、受講者は37名でした。
本日のお話に入る前に、ユダヤ民族のことやユダヤ教、イスラム教など宗教について、パレスチナ人とは何者か、など数多く寄せられた質問への回答がありました。
お話は、まだ記憶に新しいイスラム国による日本人殺害事件から始まり、その後スンニ派とシーア派の違いについて説明がありました。
◇イスラム国による日本人殺害事件の経緯
・2014年、8月中旬 湯川遥菜さんがシリアで行方不明になる
・同年10月下旬 後藤健二さんがシリアで行方不明になる
・2015年1月24日 湯川さんが殺害されたとみられる画像が公開される
・同年2月1日 後藤さんとみられる男性を殺害する映像が公開される
◇スンニ派とシーア派との違い
・預言者ムハンマドが創設したイスラム教の4代目指導者(カリフ)の跡目争いによりふたつの派に分かれた
・シーア派(イラン、イラク)
ムハンマドと血がつながった者がカリフに。指導者の考えを重視
・スンニ派(サウジアラビア、エジプトなど)
適した者が指導者に。イスラム教徒の9割を占める。「コーラン」を重視。スンニとは「慣行」と云う意味
・シリアはスンニ派が74%だが、シーア派系アラウィ派のアサド政権が支配している
スンニ派とシーア派についての予備知識を得た後、イスラム国についてのお話がありました。
◇イスラム国の台頭
・2011年1月 民主化運動「アラブの春」でチェニジアの政権が崩壊
・「アラブの春」はシリアにも波及し、反アサド政権デモが全土へひろがった
・シリア自由軍など反体制派が台頭すると共に過激派ヌスラ戦線も台頭
・政権、反政府勢力、過激派など入り乱れて内戦状態となる
・2014年6月 イラクのイスラム国が、シリア・ヌスラ戦線の一部などと合流して、イスラム国樹立を宣言。アバクル・バグダディがカリフ就任を宣言
◇イスラム国の指導者・バグダディはどんな人物か
・1971年 イラクの古都サーマッラー出身でイラク大で教育博士号を取得
・2003年 イラク戦争時は与党バース党員で聖職者
・2004年 反米組織設立に関わったとして拘束される(収容所で現イスラム国幹部との人脈を築く)
・2006年 ムジャヒディーン評議会に参加。改名して「イラクのイスラム国(ISI)」に。10年に指導者となる
・2014年 シリアのヌスラ戦線の一部と合流⇒イスラム国樹立
◇イスラム国の名称
・IS(Islamic State)
・ISIL(Iskamic State of Iraq and Levant)
・ISIS(Islamic State of Iraq and Sham)
・Daish(アラビア語で「踏みにじるもの」の意)
◇イスラム国の状況
・戦闘員は3万人程度か
・外国人戦闘員は、80カ国から1万5000人(14年10月には北大生が参加を計画)
・2014年末に独自の通貨発行
・資金源は原油
◇イスラム国の犯行
・2014年6月 スペイサーの虐殺(イスラム兵士1700人を虐殺)
・クルド系ヤジディ教徒を奴隷に(性暴力も)
・少年兵の徴用(ジュネーブ条約違反)
さらに、イラク、シリア地域の情勢についてもお話がありました。
◇イラク、シリア情勢
・2003年3月のイラク戦争でスンニ派主体のサダムフセイン政権崩壊
米国は、シーア派を重用して新政権樹立。スンニ派の不満がつのる
・シリアでは、「アラブの春」で政権が倒れず、内戦状態に。過激派が台頭、一部がイスラム国に合流
・アラウィ派(シーア派の一派)のアサド政権は、シーア派国家のイラン、ロシアが支援している
・現在の世界趨勢では、アサド政権よりイスラム国への対応が優先されているが、アサド政権も残虐であることに変わりない
・人口約2800万人でトルコ、イラン、イラク、シリアなどに分断されて、国を持たないクルド民族の問題もある
・シリアでは、死者20万人(兵士13万人、市民7万人)、隣国へ逃れた難民400万人、国内で家を追われた避難民760万人と云われる
◇アサド政権とイスラム国はどちらが残虐か?
シリアの人権団体調査では、2011年春以降の死者約20万人、2014年12月の死者は1851人で加害者はアサド政権76%、過激派18%、その他6%となっている。
その様な状況への対応についてのお話もありました。
◇日本は、難民を受け入れるべきか
・安部首相「女性の活躍、高齢者の活躍が先」(15年9月30日、国連総会演説後の会見)
・緒方貞子・元国連高等難民弁務官(前JICA理事長)⇒「受け入れこそ積極的平和主義」
◇取材の自由とは
・2015年2月、シリア渡航を検討していたフリージャーナリスト杉本祐一さん(小樽出身)に外務省が旅券返還命令を出した
・憲法22条では 移動の自由を保障し「何人も外国に移住し、または国籍を離脱する自由を侵されない」となっている
・外務省の退避勧告に強制力はない
本日のお話は以上ですが、イスラム国についてのみならずシリア、イラク地域の情勢が大変良く分かるお話でした。さらに、それに対して日本はどう対応すべきか、についても考えさせられるものでした。