1月28日(木)、特別講座「TPP!どう変わる、北海道農業と道民生活」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、北海道大学大学院農学研究院農業経営学研究室・准教授の東山 寛さん、受講者は40名でした。
以下はお話の概要です。
1.TPPの概要
1)TPPの発効に向けての見通し
2015年10月5日の大筋合意後、合意文書の法令整合性をチェックするリーガル・スクラブの英語版が昨年12月に終了。スペイン語、フランス語版も進行、次は署名(=協定の成立)となるが、2月4日になりそうな見通し。
その後各国の批准手続きとなる(日本では国会の承認必要)が、発効には、日本とアメリカの批准が前提となる。
アメリカ・・動向がTPP発効のカギとなる
署名の90日前に署名通告が必要。大統領選挙があるので、署名してもすぐに議会審議とならず審議は早くても新しい体制下となる17年1月の新議会からではないか?
日本
合意後、TPP対策(大綱)を作り、補正予算を組んだ。その後影響試算をし、署名後国会にかけ参議院選挙の前に批准したい考え。
3つの疑問
・署名前に充分な国会審議もしないまま対策を立てている
・影響を想定して対策を立てるのではなく先に対策を立てて影響なしとしている
・批准を急がないで、アメリカの動向を見守る必要があるのではないか
2)TPPの関税撤廃構造
①全品目の撤廃率は95%、農林水産品は81%と発表され、これは他国よりは低く、交渉で勝ちとったとされる。しかし農業の強い国と比べても意味がなく、日本のこれまでの数字との比較が必要だが、それは公表されていない。
②日豪EPA、日フィリピン協定との比較
日豪EPAで全品目の撤廃率は89%だが農林水産品だけの数字は公表されず。参考になるのは、日フィリピン協定での農林水産品の自由化率59.1%。TPPでは78.8%なので大幅アップとなる。
③関税撤廃構造
全品目・・・・9,018ラインのうち、関税を保持443、関税撤廃8,575、撤廃率95.1%
農林水産品・・2,328ラインのうち、関税を保持443、関税撤廃1,885、撤廃率81.0%
鉱工業品・・・・6,690ラインのうち、関税を保持0、関税撤廃6,690、撤廃率100.0%
④関税撤廃構造―農林水産品―
2,328ラインのうちすでに無税のものが460ある。従来関税がかかっている1,868ラインのうち撤廃されるのは1,425ラインで76.3%となる。
また、コメ、ムギ、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの重要品目については、2013年4月の国会で撤廃から除外又は再協議の対象とすることが決議されている。
⑤重要品目とそれ以外の品目の撤廃率
重要品目とは、重要5(実際は7)品目に雑豆、こんにゃく、合板、水産品などを加えた834品目。重要品目以外は総自由化(撤廃率99.6%)重要品目でも半分(47.4%)
⑥重要5品目とそれ以外の重要品目の撤廃率
5品目以外は9割、重要5品目でも3割の撤廃率。
3)重要品目の扱い
①牛肉・豚肉の撤廃率が突出
コメ25.9%、ムギ23.9%、重要5品目全体で29.7%に対して牛肉72.5%、豚肉67.3%
②削減・輸入枠の設定を含め、譲歩は9割超
有税品目1,868ラインのうち関税撤廃1,425、関税削減127、輸入枠設定160あわせて1,712となり全体の92%で譲歩している。
③牛肉は「本体」を除いてすべて関税撤廃。
牛肉については、セーフガードが設定されているが、発動基準が高く、きわめて発動しにくい仕組みとなっている。
④豚肉は「本体」の一部も関税撤廃
⑤主食用米の輸入枠を設定し、国産米を「消去」
1年目米国50,000トン、豪州6,000トン⇒13年目米国70,000トン、豪州8,400トン。
国別枠の輸入量に相当する国産米を政府備蓄米として買い入れ。
⑥小麦のマークアップ削減と「固定化」
小麦は国が輸入し、政府管理経費及び国内産小麦生産振興対策費に割り当てる経費を上乗せ(マークアップ)して販売している。現行は実質17円/Kのマークアップを、1年目16.2円/Kから斬減し9年目には9.4/Kとする。
⑦バター・脱粉の枠外輸入を恒常化
⑧ホエイ・チーズの関税撤廃
2.TPPへの対応
1)少なくとも2,000億円超の財源を失うのでは?
・TPP11カ国からの農産品関税収入総額(2,570億円)の64%が失われる計算
・麦のマークアップは894億円から402億円の減収(9年目)
・牛肉の関税収入は1,210億円から680億円の減収(16年目)
・乳製品のマークアップ等は147億円から35億円の減収(最終年)
失われる財源(少なくとも総額2,000億円超?)については、政府全体で責任を持って毎年の予算編成過程で確保するとしている。
2)当面の課題
・国会決議との整合性、基本計画(自給率向上)との整合性は?
国民との約束が反故になりかねない。
・財源問題については現時点で「口約束」に留まる。
・試算のやり直し必要、地域からも。
・納税者負担型農政への国民的理解が得られるか?
これまでは消費者負担の農政、今まで経験のない納税者負担が理解されるか。ヨーロッパでは、市民の多くが持続可能な農業に賛同し、税金を農業の補助に投入することに賛成している。
以上が本日のお話ですが、東山さんは最後に「これからは、皆さんに認められる農業にならなければいけません。私たちもそれに向けて努力しますので、みなさんもその様な目で農業を見て頂きたいと思います」と結ばれました。
TPPの農業分野における概要や問題点、課題が良く分かるお話でした。受講者からも多くのコメントが寄せられたので、その一部をご紹介します。
「TPPについては、中味が不明のまま、悶々とした気持ちだったが、資料に基づく大変分かりやすいお話だった」
「TPPのカラクリが良く分かりました」
「TPPを農業から眺める機会で大変良かった。(次は)農業以外の工業面からも見る事も必要」
「TPPの詳しい内容の一端を知ることができた」
「TPPの問題が良く分かりました」
「資料が大変良かった」