平成30年1月19日(金)講座14『サイエンス教室~身のまわりを科学の目で見る~』の第1回「超電導は何をもたらすか?」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は北海道大学名誉教授でサイエンスアイの山谷和彦さん、受講者は35名でした。
山谷さんの専門は極低温物理、特に超伝導、低次元物質の作製と電子物性および極低温技術などについて研究されてきましたので、今回のテーマに大変相応しい講師をお迎えできたことになります。以下に山谷講師のお話の概要を紹介いたします。
◆石狩と超電導
石狩市は超電導と非常に関係が深く、「超電導直流送電実証実験」という国家プロジェクトが行われた唯一の市である。市民カレッジでもこれに関連して、平成26年7月に講座8「石狩湾新港の最先端技術を学ぶ~超電導直流送電とは」が私(山谷)と宇野さん(石狩市職員)を講師として行われており(平成26年8月掲載のホームページトピックス欄の記事参照)、また平成28年6月には講座4「躍進する石狩湾新港~世界最長の超電導直流送電システムと水素エネルギー」も行われました(平成28年7月掲載のホームページトピックス欄の記事参照)。
◆超電(伝)導とは?
超電(伝)導は一般に馴染みが少ないが、社会ではMRI(医療機器関係)や超電導リニア(高速交通輸送)、超伝導量子干渉計、超伝導量子コンピューター(人工知能(AI)関係)などで使われている。
ここで、"チョウデンドウ"の漢字表記について説明する。厳密な使い分けはないが、理学的、科学的で使用する場合は「超伝導」とし、工学的、実用的の場合は「超電導」を用いることにした。両方を示す場合には「超電(伝)導」とすることとした(図1 2018年1月24日付けの朝日新聞)。
それでは「超伝導」とは何か?物(物質)の「状態」を示すもので、「超伝導状態」というものがある。水という物質を例にとると、固体状態(氷)、液体状態(水)および気体状態(水蒸気)の3態のいずれかを取り、アルミニウム金属(1円玉)でも通常は固体状態、660℃にすると液体状態、2519℃で気体状態となり、やはり3態のいずれかを取っている。しかしながら、アルミニウム金属を低温に向けて温度を下げて行くと固体の構造変化は起こらないが電気抵抗が徐々に小さくなり、絶対零度(0 K;-273℃)近くでストーンと落ちてゼロ抵抗となる(図2)。ゼロ抵抗の状態を「超伝導状態」と言う。このような現象は水銀金属を使ってオランダのオネスが1911年に初めて発見したものである(図3)。アルミニウムや水銀の他、スズ、インジウム、ニオブなどの金属も10K以下の極低温にすると超伝導状態になる。一方、金や銀、銅、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属は極低温にしても超伝導状態とはならない。金属が超伝導になるかならないかは、金属を原子核と電子、金属イオンと自由電子、電子の粒子性と波動性などのミクロな面から見ることによって説明できる[HP記事では説明を省略]。
◆超電導磁石
銅線コイルに電流を流すと磁場が発生することは知られている(電磁石)。大きな磁場を得るためには大きな電流が必要であるが、大量の電気を消費して大量の熱を発生するという欠点がある。一方、超電導コイルは極低温で抵抗がゼロになるので最初に電流を流して磁場を作ってしまえば電源を切っても電流は流れ続け(永久電流)、磁場もそのまま保つことができる。大電流を流して大きな磁場を作ることも可能であり、MRIなどの使用には非常に有利である。ただし、超電導コイルは極低温でしか抵抗がゼロにならないのでコイルを液体ヘリウム(4.2K)で冷やしておくことが必要となる(図4)。
人間ドックなどで使用されているMRIは一般に垂直型の超電導コイルが用いられているが(図5、左側)、最近では平面型のものも(図5、右側)使用されている。超電導コイルの線材、抵抗がゼロになる温度(10K)、発生する磁場の大きさなどは図5に記載されている。
超電導リニアでは車体に超電導磁石が組み込まれている。図6にリニアが走行する仕組みが記載されている。
◆高温超伝導を求めて
超電導磁石を使う場合の弱点は、天然の産出量が少なく高価な液体ヘリウムを使うことである。ヘリウムは日本では産出されず全て輸入しなければならないため入手が比較的困難である。そのため、液体ヘリウムの温度(4K;-270℃)より高い温度、例えば液体窒素の温度(-196℃)より高い温度で超伝導になる物質が求められていた。1986年12月に銅酸化物の超伝導物質が見つかって研究や実用化が一挙に広がって行った。石狩の実証実験で使用されたものもビスマス(Bi)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)を含む銅酸化物の超伝導線材である(図7)。このビスマス(Bi)系の高温超伝導線材は強力な磁場を作ることができないのが弱点である。
[ここで、Bi系超伝導線、MRIで使用されているNbTi線および通常の銅線が回覧され、受講者は手にとって実物を見ることができた(下の写真)]
◆超伝導の量子状態~超伝導量子コンピューター
近年、携帯電話やインターネット、ロボット、人工知能(AI)などコンピューターを使う情報化社会が益々進展してきた。コンピューター技術を支えているのは半導体エレクトロニクスである。我々が数を表現・計算する時は一般に10進法を使っているが、コンピューターで使うのは2進法である。「0」と「1」の2個の数字だけで数や文字などを表現し計算を行なっており、半導体素子であるトランジスターがスイッチOFFの時は「0」の状態、スイッチONになると「1」の状態となる。コンピューターではトランジスター数が100~120万個の集積回路(IC)が使われており、使用時はかなりの熱を発生する。特に、多数のコンピューターを並べて使うデータセンターでは発熱が大きな問題であり、石狩市の「さくらインターネット石狩データセンター」では北海道の冷涼な外気を活用した外気冷房の仕組みを巧みに使って発熱問題にうまく対処している。
半導体素子を使う従来のコンピューターに比べ、新型の量子コンピューターでは「量子論や量子力学」の考えを利用している。量子のひとつである電子は"粒子"と"波"の二重性をもつミクロな粒子であり、「0」と「1」の異なる状態を同時に表現することができる(半導体素子の場合は「0」か「1」の状態を表現し、同時に表現できない)。超伝導量子コンピューターは図8のように超伝導体のリングに3個のジョセフソン素子がある構造となっている。外部磁場をかけて磁場の大きさを制御することによって右回りと左回りの電流が流れる状態にすることができる(「0」と「1」の状態に相当)(図9)。
超伝導量子素子を使う場合は半導体素子と比較して以下のような長所があり、今後人工知能分野において活用が大いに期待できる。
・消費電力が小さい(千倍から1万倍低い;~1mV)
・スイッチ速度が速い(10倍~100倍速い;~1兆分の1秒)
・超伝導配線が使える
我々が人間ドックなどでお世話になっているMRIには超電導磁石が使われている。山谷講師からは超(伝)電導とは一体どういうものか、またどのような可能性があるかなどについて詳しくご説明いただき、貴重なひと時を得ることができました。
受講者の感想や意見として以下のようなものがありました。
・専門的なお話を基礎から分かりやすく説明いただいたと思います。
・難しさもあるが超電導が身近になっていることを理解できた。量子の世界をさらに知りたい。
・とても難しい話で分からないことだらけでしたが、なぜか楽しかったです。次回も楽しみにきます。
・超電導の利用価値、弱点部分を理解することができた。
・難しい課題を丁寧に分かりやすく話していただき有難うございました。後半の量子のことは私にはとてもついて行けませんでしたが、大変興味深く聞かせていただきました。
・超電導は高価な液体ヘリウムが必要。石狩では液体窒素で実験、これが使用できれば安く済み、また高温超電導線材が開発されるとMRI検査料も安くなり医療費軽減されて世の中の役に立ちます。山谷講師の詳しい講演を聞かせていただき、超電導のことを意識して学ばさせていただきたいと考えます。
・何度かカレッジで超電導の話しや見学の機会がありました。今日、またワクワクするようなお話が聞けました。聞けたことに満足一杯、理解できたかは又別ですが...。2進法の話し、bitも何とも面白いと感じました。知らないことだらけです。このような企画に感謝。