2月16日(金)、主催講座14『サイエンス教室~身のまわりを科学の目で見る~』の第3回「カーリング・ストーンはなぜ曲がるか?」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、北海道大学名誉教授でサイエンスアイ代表の前野紀一さん、受講者は34名でした。
前野さんは、「私は長年氷の研究をしてきましたが、2008年にNHKから『アインシュタインの眼』と云う科学番組の相談を受けた時に始めてカーリングと接しました。それから様々な疑問に取り組んできて10年になります」と言って、今日のお話を始められました。
以下はお話の概要です。
1)カーリングの歴史
カーリングは、1500年代にスコットランドで生まれたとされ、同年代のオランダの画家・ブリューゲルの絵にもカーリングのストーンが描かれている。オリンピックの正式種目になったのは、長野オリンピックの時。
2)本日のテーマに関わる現象
本日のテーマは、滑りにくさ(滑りやすさ)。滑りにくさを表す度合いを摩擦係数と云い、摩擦係数は、温度、速度、圧力で変わる。
3)カーリングは、氷の摩擦係数の3つの特性を巧みに利用している
■圧力
①カーリング場のアイスシートはデコボコ
平らなアイスシートの上に水滴を撒き、氷の粒(ペブル)を付着させる。アイスシートはデコボコな状態になる。
②ストーンは重く、接地面も狭い
重さ20㎏で、底はドーナツ状の出っ張り(ランニング・バンド)がある。
③NHKの実験動画
※動画1⇒ペブルのある氷面とペブルを削り取った氷面での、ストーンの滑りを比較。ペブルのある氷面では28m、無い氷面では11mと大きな差(17m)があった。
ペブルがあることで、ペブルの先端にかかる圧力が大きく、ストーンが良く滑る。
■温度
※動画2⇒オリンピック予選時の対戦チームの温度状況
温度が高い時に練習したチームより本番と変わらない温度環境で練習したチームの方が滑り度合いの読みが的確だった。
※動画3⇒スウィープすることによりストーンの滑る距離をコントロールする様子
スウィープすると、ペブルの温度が上がり、ストーンが良く滑って距離が伸びる。
4)本日の本題―ストーンはなぜ曲がるか
ストーンは、右回転すると右方向に曲がり、左回転すると左方向へ曲がる。
※実験1⇒それでは、身のまわりの物はどのような動きをするか
ストーンと同じように接地面の少ない広口瓶を手で回して、どう動くかを確認⇒右回りに回すと左方向へ曲がり、左回りに回すと右方向へ曲がる。これは、回転する方向と逆向きに摩擦力が働くから。
氷の場合は反対に、圧力がかかると摩擦係数が小さくなって滑りやすくなり回転する方向へ曲がる、という説明が多くの本やウェブで紹介されているが、実はこの説明は間違い。摩擦係数の小さくなるなり方が問題で、小さくなるなり方を実験で数値を入れて計算してみると、摩擦力は小さくはならない。このように、定性的に認識されていることは、実際に定量的に考えると間違っている場合がある。
■ストーンはどうして曲がるか
曲がる原因(外力)があるから。
電車にはレール、自転車や車にはハンドル、スキーやスノーボードにはエッジがあって、それらで外力を発生させて方向を変えているが、スト-ンにはそのようなものはない。
左回転で進むときは、左右の摩擦力の差のため、左へ曲がる⇒これも間違い
※実験2⇒角皿の底の右側には滑りやすいビニールテープ、左側には滑りにくいフェルトを貼って、斜面を滑らせるとどうなるか?
結果⇒回転はするが、カールしないでまっすぐに進む。
この現象をスト-ンにあてはめて考えてみると
このように、回転だけでは、曲がる現象が説明できない。
※実験3(頭の中で)⇒一寸法師のお椀の舟
右側で櫂をこぐと舟はどのように動くか?
A.左に回転しながら、左に曲がって進む
B.左に回転しながら、真っすぐ進む
答えはB
■以上から、再度、ストーンはどうして曲がるのか?
ストーンの運動をすべて説明できる理論的な解明は出来ていない。ストーン動力学の理論モデルはいくつかあるが、いずれも完全ではない。
以上で本日のお話は終了し、前野さんは、「残念ながら、ストーンがなぜ曲がるかは、まだ完全には解明されていないのです。これからも、解明できるように研究していきたいと考えています」と結ばれました。
命題の完全な解明は今後の研究を待たなければならないようですが、日常の事柄について、なぜだろうと疑問を抱き、それについて考えてみることの大事さを改めて認識できた講義でした。
受講者からもたくさんのコメントが寄せられましたので、その一部をご紹介します。
「平昌オリンピック開催中のタイムリーな講義でした。むずかしい事はよくわかりませんでしたが、ストーンの曲がる実験は意に反した結果になり、大変面白かったです。これからのカーリング競技を興味深く応援できそうです」
「カーリングが曲がる理屈が良くわかりました。オリンピックのカーリングを見るのが楽しみになりました」
「講座後は、ストーンの進み具合の見方が興味深く観戦できる」
「物理の数式は難しくて分かりませんが、実験を通してとても分かりやすくて良かったです」
「初めて知った事が多々ありました。大変面白く楽しんで学べたと思います。気になっていた事でもあり、又、タイムリーなお話ばかりでした。サイエンス教室(3回共)、魅力ありました。感謝!!素晴らしい講師の方々にも感謝」
「(これまで)何も考えずに見ていましたが、理論的に動きを証明できるのに驚きました。ブラシの意味を含めて、観戦の楽しみが深まりました」
「カーリングと云う普段さわることのない物の事がよくわかりました。カーリングに興味がもてました」