主催講座1「北方領土と北海道」の第2回「逃がした解決のチャンス」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、北海道新聞社 編集局 編集委員の本田 良一さん、受講者は46名でした。
2回目のお話は、北方領土に関わる日ソ両国の交渉の経過についてでした。
◇サンフランシスコ講和条約締結
日本は、千島列島(具体的島名は記載されず)を放棄、ソ連は署名せず、今に至るまで平和条約は締結されていない。
◇ロンドン交渉の始まりと日ソ共同宣言
・日本政府の対ソ方針は
55年5月26日 訓令16号「2島返還」
6月03日 ロンドン交渉開始
8月09日 ソ連が2島返還を提案
27日 日本が4島返還の新訓令
56年2月11日 日本は4島返還へ転換
3月20日 ロンドン交渉中断
10月19日 日ソ共同宣言―平和条約締結後、2島を引き渡す
・日ソ共同宣言の内容
①日ソの国交正常化
②抑留者(1,000人余)の送還
③ソ連は日本の国連加盟について拒否権を行使せず
④平和条約締結後、ソ連は日本に歯舞、色丹の2島を引き渡す(国後、択捉2島には言及せず)
◇その後ソ連は、領土問題は存在せず、と主張
◇ゴルバチョフ大統領来日(91年4月)
・共同声明
①領土問題の存在を認める
②56年共同声明の有効性は認めない
◇クナーゼ提案(92年3月)
①歯舞、色丹を引き渡す手続きなどに合意
②歯舞、色丹2島を引き渡す協定の締結(実際の引き渡しは平和条約締結後)
③歯舞、色丹にならい国後、択捉の扱いを交渉
④交渉がまとまれば平和条約締結
・日本は、国後、択捉の返還が保証されないとして検討せず(最大のチャンスを逃す)
◇日本はいつから4島一括返還を主張するようになったか
1970年頃から。67年には、「段階論」を提案したこともある。
◇川奈提案(98年4月、橋本首相・エリツィン大統領)
択捉島の北側で国境を画定すれば、当分の間、ロシアの統治を認める
⇒①実際の施政権返還は別途協議する(施政権返還交渉が必要になる)
②国境画定論
◇川奈提案に対するロシアの反応
川奈提案を拒否し、「モスクワ提案」を提示したが、日本は拒否。
・モスクワ提案
①平和友好協力条約で、領土問題の解決へ向けて協議を継続する、と明記
②4島を日ロ共通の立法権可能性を含む特別経済特区とする
の2段階方式
◇日本が「並行協議」を提案(2001年3月、森首相とプーチン大統領)
・並行協議
①56年の日ソ共同宣言で平和条約締結後の返還が決まっている歯舞、色丹2島の返還条件と
②残る国後、択捉2島の帰属問題を同時並行して協議する
①と②が合意したら平和条約を締結
・しかし、4島返還の保証がないとして、日本側が撤回
・それに対して、ロシアが態度を硬化、その後は、交渉が停滞
◇プーチン大統領の「引き分け」発言(2012 年3月)
停滞していた交渉が動き出す
◇安倍・プーチン会談(14年2月)
安倍首相が訪ロ、同年秋のプーチン訪日を合意
⇒ロシアがクリミアを編入したウクライナ問題が発生し、西側は対ロ制裁、日本はG7とロシアの板挟みに。
◇安倍・プーチン会談(16年5月)
①新しいアプローチ
②8項目の経済協力プラン(極東の産業発展や都市整備、エネルギ―開発など)
を打ち出す。
◇安倍・プーチン会談(16 年12月)
①北方4島での共同経済活動に関する協議を開始(新しいアプローチの具体化)
②元島民の墓参手続きの簡素化
◇安倍・プーチン会談(2017年11月)
共同経済活動の具体的作業を加速することで一致。
以上が本日のお話の概要ですが、1955年のロンドン交渉以来、妥結できそうな時点があったにも関わらず結局妥結できず今に至っている経過が良くわかりました。次週は、新しいアプローチについてのお話です。
最後に受講者のコメントをいくつかご紹介します。
「北方領土をめぐる日ロ交渉について分かりやすく解説して頂き良く理解出来た。国家間の交渉の難しさ、利害の対立など、断片的な知識しかなかったが、交渉締結に至らなかった理由が良くわかった」
「短い講義でしたが、大変解りやすいお話でした。首相、大統領が変わる度に交渉方法も変わってしまい、戦後平和交渉が続いていることは残念です。いつの時代も置き去りにされるのは国民で、元島民の人達に返還が早く実現するよう期待します」
「話に夢中で(聴き入って)、時間があっと云う間でした。2島返還でもいいと思いますが、なぜこだわるのか分かりません。詳しく知りたいです。色々勉強になりました」
「日本にとって2島、4島返還のメリットは何か。ロシアは極東開発にお金が欲しいだけではないか。4島の念仏では永遠に返還されないと感じた」
※なお、北方領土問題については、2011年にも講座を行いました。受講されていない方は、以下からご覧になれます。
◆2011年度講座12「知られざる北の国境」
第1回「樺太と北千島」
第2回「北方領土問題と日本の課題」