5月24日(金)、主催講座1「誰も知らない石狩海岸の素晴らしさ」の第2回「海浜植物の特徴と保護の流れ」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、元石狩浜海浜植物保護センター技師の内藤華子さん、受講者は45名でした。
以下は、お話の概要です。
1.海浜植物の特徴について
1)石狩海岸の成り立ち
約7,000年前は、今より暖かく石狩湾が現在の江別地域あたりまで入り込んでいた。その後、寒冷化による海岸線の後退や石狩川の土砂の堆積などによる陸地化が進み、300年ほど前には現在の海岸に近い形なったのではないかと考えられている。今の石狩浜は長い地球の歴史の中で考えると新しい土地(地形)と云える。
2)石狩川河口砂嘴状の地形の変遷
現在の砂嘴状の地形は、石狩川が運ぶ土砂が貯まって少しずつ伸びたもの。明治7年頃は、現在の石狩灯台がある位置はまだ川の中、灯台が建った明治25年は灯台から200m先が海。明治から昭和初期にかけてかなりの速度で伸長した。
現在は、灯台から先端まで約1.2㎞で、おおむね砂嘴状の地形の伸びは止まっているが、先端の形状など微地形の変化はある。
3)植物にとっての海岸の環境
水持ちが悪い、養分保持力が弱い、地表面温度の上昇、塩分飛沫、強風、波の浸食などの条件下で大変厳しい環境。そのような普通の植物が生息できない環境で生息しているのが海浜植物。
◇厳しい環境でも海側と陸側では違いがある
①海の近くで海水飛沫や時折大波の影響がある環境
オカヒジキ、オニハマダイコンなど塩分に強い1年生の植物。種子で子孫を残す。
②やや陸側(砂丘上)で砂の堆積や波の侵食がある環境
テンキグサ、ハマニガナ、コウボウムギ、ハマボウフウ、ハマヒルガオなど多年草。
砂に埋もれても枯れないでまたその上に伸びることができる(高い再生力を持つ)、地下茎を縦横に伸ばして侵食に耐える植物。
※植物と砂丘の相互関係
砂丘があることで植物が生息できるが、その砂丘は海浜植物があることで砂が貯まり(砂丘の形成)、長い地下茎や根によって安定化する。
砂丘が侵食されて出来る浜崖の断面では、地下茎が縦横に伸び、根が深く入っているのが観察できる。
③波が来ない(攪乱が緩和)環境
イソスミレ、ハマエンドウ、ハマハタザオ、ハマナス、ウンランなど。
これらは、地下茎をあまり伸ばさないものもあり、砂が堆積した後の再生力も強くないものもある。ハマナスは、地下茎を伸ばし、再生力は高い。
※①②③それぞれの植物がそれぞれの住める環境下でお互いに住み分けている。
4)海浜植物の特徴
・葉が厚く、つやつやしている⇒乾燥を防ぐ
・毛が多い⇒傷がつきにくく、乾燥を防ぐ
・茎は低い⇒強い風に耐えられる
・茎が這う⇒強い風に耐えられる
・根が深い⇒水分を吸収しやすい、強い風に耐えられる
・根が多い⇒水分を吸収しやすい、強い風に耐えられる
・地下茎で分布を広げる⇒種子繁殖より確実、砂に埋まっても生きられる
・地下茎や葉が水をためる⇒乾燥を防ぐ
・多年草である⇒根は枯れないので種子繁殖より確実
・再生力が高い⇒一部が枯れても生き残れる
・塩分に耐えられる⇒目には見えないが、通常は成長を妨げる塩分が体の中に入っても生きられる
5)砂丘形成と植生の成帯構造
海から陸へ向かって変化する環境にそれぞれ適応できる植物が生育し、海側、陸側、さらに陸側と、上空から見ると植物相の色が帯状に変化して見える。
6)海岸草原の代表種
安定した環境だが、光をめぐる競争が激しくなる。砂や塩分など厳しいが光は十分得られる環境に適応した海浜植物は、数も種数も減る。
7)海岸林(日本最大規模のカシワの天然海岸林)
一番陸側にある海岸林。小樽市銭函から厚田区聚富まで約20㎞続いている。
8)植生の経年変化
長い年月では植生は変化していくもの。
20年間石狩浜を見てきた内藤さんの感想
「私が見てきたたった20年の間にも、ススキ群落の拡大や、侵食で部分的に海浜植物群落が消失しても、砂が堆積した別の場所に新たに広がっていたりなど、植生の変化が認められます。もっと長い年月で見ると、かなりの変化もあることでしょう。海岸草原が海岸林へと遷移したり、あるいは海岸線の侵食によってススキ群落が海浜植物群落になるかもしれません。海の影響を受け環境の変化の激しい石狩浜の自然の保全を考えるには、そんな長いスパーンで、また空間的にも広い範囲で考えることも必要ではないでしょうか」
9)砂丘の植生と昆虫相
昆虫と植物は密接な関係を持っている。植生の成帯構造に応じて昆虫相も海側から内陸へと変化している。植物が多様である石狩浜は、植物に対応して昆虫相も多様だと言われている。
10)石狩砂丘の生物相
多様な植物、昆虫の生息が多様な鳥類、動物から成る生態系を支えている。
ここで一時休憩して質問時間とし、砂の粒子や砂の堆積、海浜植物の特徴などについての質問がありました。
2.石狩浜の保護保全の流れ
1)保護・保全の背景
1970年代~
・海岸のレクリエーション利用による砂丘への車両乗り入れが激増
・山菜獲りブームによるハマボウフウの激減
2)保護・保全の経緯
※海岸法の改正
1999(平成11)年海岸法改正
従来の「防護(防災)」に「環境の整備と保全」「海岸の適切な利用」と云う観点が加えられた。
※保護地区化した効果が現れたと思われる例(今後の経過を見守る必要がある)
3)石狩浜の保護保全活動のこれまでとこれから
①保護保全についての考え方
・保護したい地域を自然公園法や自然保護条例等で定める自然公園にする、という考え方もあるが、石狩の海岸は、海岸、港湾、河川、森林、財務、市など管理者が異なる土地が入り組み、異なる方針のもとで管理しており、なかなか単一の方向へは向かいにくかった。
・そんな状況で、市と市民協働の形で進めてきたのが、石狩浜型の保全活動ではないか。
②石狩浜海浜植物保護センターの在り方
・従来は、石狩浜の自然に関する普及啓発に加え、海浜植物の保護・増殖を主としてきた
・これからは、人と自然をつなぐこと、次世代と自然をつなぐこと、地域との関わりを深めていくことが大切になるのではないか
・紹介した海浜植物等保護地区は、現状の生態系を保全する「生態系保護地区」ばかりでなく、自然との触れ合いを通して保全をはかる「自然ふれあい地区」を設けている。
・人が立ち入れない保全では自然とのふれあいの実感が薄れていく。実感の伴わない保全は、次世代につながるのか?持続性のある保全とは、人と自然との触れ合いの中から生まれるのではないか
以上が本日のお話の要約ですが、海浜植物の特徴や植物と砂丘との関係など多くの事を学びましたが、石狩浜を考えるには長い時間、広い空間で捉える事が必要なこと、保全を考える場合、そこに足を運ぶ人があってこその保全ではないでしょうか、と云う内藤さんの言葉が強く印象に残りました。
最後に受講者から寄せられたコメントの一部をご紹介します。
「講座は分かりやすくて良かったです。資料はモノクロで字が小さいので、カラーで1頁1面にして欲しい。料金が高くなっても良い」「一度壊された自然は元に戻すのには大変な努力と年月が必要であり、植物の保護活動の大切なことを知りました」「興味深くお聞きしました。石狩浜の過去~現在~未来を見る時の見方(砂丘や草原の成り立ちや生物、昆虫のあり方、生き方について)考えさせられた思いです。『健全な生態系』という言葉も印象深く大きな視点で海岸の在り方を見ていきたいと思いました。内藤さんの誠実で真摯なお話、ありがとうございます」「海浜植物の植生によって石狩の海岸がつくられているのが良く分かりました。保護センターの役割、市民グループの活躍、キッズクラブなどご苦労を知ることもできました」「最近オホーツク海岸の地域で島が無くなったという話題があります。地球温暖化で北極海の氷が融けて海水上昇が急速になってくると思いますが、今の海岸線の保護・保全が無駄にならないように、『つなみ』の予防の様な堤防作製により海岸線を海水から自然を守る事を国、地方全体が力を入れる必要があると思います」「講師の声がもう少し大きくしてほしい。砂丘で育った植物―ハマボウフウが最適?との事でしたが、石狩観光の目玉として石狩浜、例えば1㎞~2㎞の範囲に集中して育成しハマボウフウ公園等にしてはどうか。苗を集めれば可能では。市民の協力で作る事は比較的容易にできるのでは?」「海浜植物の生長過程、砂丘との関係等、とても勉強になりました。厳しい条件の中で生きる植物のたくましさが身に感じました。特に塩分、強風の中に適応する植物の独自の生き方がすばらしい。人間社会とも類似する世界を思いました。石狩浜は他に類をみない独特の海浜植物地帯であることにひとつの誇りです」