令和元年6月27日(木)講座4「青年・大人の発達障害を考える」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は札幌学院大学名誉教授の二通 諭さん、受講者は58名でした。
二通さんは石狩町立若葉小や石狩市立花川南中を含む石狩管内小中6校で35年間教員として特別支援教育などに携わった後、札幌学院大学に移り、発達障害などについて研究と実践を精力的に行なってこられました。今回は、特別支援教育や発達障害に関して豊富な経験に基づいた大変興味深いお話をしていただきました。以下にその概要を紹介致します。
1.自己紹介
・1951年2月札幌郡手稲町生まれ。手稲中央小、手稲中、札幌西高、教育大学札幌分校卒業。石狩町立若葉小や石狩市立花川南中を含む石狩管内小中6校で35年間教員として勤務、その後札幌学院大学に移り人文学部人間科学科で教授、2019年4月から札幌学院大学名誉教授。
・若葉小では特別支援学級「おおぞら学級」の開設に携わり、花川南中では特別支援教育のモデル授業などを行なった。もっぱら、障害児教育や発達障害などに関した研究と実践を行なってきた。
・「映画で学ぶ特別支援教育」や「特別支援教育時代の光り輝く映画たち」などの著作もあり、映画から学ぶことが多くあると感じている。
2 発達障害とは?
・大ざっぱなイメージでは、アスペルガー症候群を中心とする自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如多動性障害(ADHD)を指す。特別支援教育では、学習障害、ADHD、高機能自閉症等(アスペルガー症候群を含む)を指す。
・発達障害者支援法第2条では「この法律において『発達障害』とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠如多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」(2005年4月1日施行)と規定されている。
・2003年の文科省調査では、クラス内の発達障害児童は6.3%(クラスに2~3人)、それが2012年には6.5%に増えた。一方、不登校の3~4割は発達障害が原因と考えられ、不登校からひきこもりにつながっていく場合が多い。2003年の道内調査で不登校者は小1で45人、中1で700人超、中3になると1,400人超と学年を追うごとに増えている。個別の理由はいろいろあるが、大ざっぱに言うなら、周りと自分の関係が見えてくることによって不登校が増えていくのではないか。ただ、「学校教育を受けながら学校に行けなくなる」のは大きな問題である。不登校、ひきこもりは現在の「8050問題(ハチマルゴーマルもんだい)」にも繋がっているだろう。
・発達障害などの診断基準にはDSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)が用いられているようだ。DSM-5(2013年)では診断基準として以下のような症状をあげている。コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群には、吃音なども含まれる。「社会的(語用論的)コミュニケーション症」も含められるが、たとえば「鍋を見ててね」と言われると、焦げついてもただじっと見ているだけのような症状を言う。言葉を字義通り解釈してしまい、その場における言葉の真意を的確に理解できない。
・チック症は、まばたきや肩すくめ、四肢の伸長、咳払いが多い、うなりなどを指し、有名人にも周囲にも見出すことができる。あたらしい診断基準としては、わいせつな言葉、または民族的、人種的、または宗教的中傷など社会的に受け入れられない言葉の発言(汚言)も捕捉されている。となればヘイト発言を繰り返している場合などが気になる。なお「症群」と「障害群」とあるように「症」と「障害」が併記されているが、「障害」という表現に宿る諸課題ゆえのこと。「障害」という用語には、権利の主体としての積極面があるが、状態が固定している、治らない、といったネガティブなイメージもつきまとう。用語の選択は個々の感じ方や考え方による。
・発達障害における困難を軽減して、職場に通えない、大学に行けないなどの二次障害に移行させないためには"周囲の適切な理解と対応"と"本人の工夫と努力"が必要である。本人の努力としては、例えば、自分で「自分の取扱説明書」を作るくらいのことも必要であるかもしれない。
・二次障害への移行を阻止するための支援として対話(インタビュー、本人からの聞き取り)が極めて重要である。
3 二通のこれまでの対応事例から考える
・私(二通)は幼少期から現在まで振り返ると、「吃音」と「注意欠如・多動性障害(ADHD)」の傾向を有していたと思われるが、人間関係に恵まれて二次障害に入り込むことなく終わっている。しかし、現在でも集中の持続に難があり、話を聞いていてもすぐに眠くなる場合がある。その経験があるため、大学生の居眠りや私語についても共感的に(適切に)対応できていたのではないかと自己評価している。
・「吃音」を乗り切るための工夫と努力もしてきた。小学3~4年の頃「ト」が頭にくる「当別」などは言えなかったが、言いやすい接頭語である「石狩」などをつけて「石狩当別」と置き換えて言うことで吃音を克服した。
・以下の問に関し、Aを叱ってしまうと学校に来なくなり、不登校とゲーム依存を強めることになる。Aを救うために学校に寝る場所を作ったが、Aの社会性を高める意味もあって二つの教育的仕掛けを導入した。
「① 寝る時は先生の許可を得ること」~これは約束を守るということであり、社会的なルール、約束を守る力の形成につながる。
「② Aの願いを認めるが先生の願いも聞くこと」~たとえば、「1時間目の国語は休んでいてもいいけれど2時間目の交流学習には出席してください」という教師の願いを聞き入れること。他者の意向を内面化して行動する力の形成につながる。短く言えば、「相互性の獲得」。
この結果、Aは学校で寝ることも学校を休むこともなくなった。すなわち、下の問いに対する答え、すなわち、Aにとって「持てる力」とは「学校に来ている」ことである。
・以下の問3で、このアスペルガー症候群(AS)の生徒は一般には"わがまま"と言われるが、私(二通)は"がまんするのが苦手"と受け止めて対応した。あるASの人が、折り合いをつける(自分を抑えて問題解決を優先する)という言葉は、結局「がまんしなさい」ということの別の言い方であり、そもそも「がまんが苦手」なのだから「折り合いをつける」という言葉も嫌いだと語っていた。なるほど、わがままなのではなくて、「がまんが苦手」なのだ。そうだとすれば、説教や叱責ではなくて、がまんする力の獲得こそ教育課題となる。
4.困っている大学生の声から考える
・困っている大学生の声をいくつか以下に示す。
5.高齢者の発達障害
・発達障害傾向に気づかずに生き抜いてきた人が遭遇するかもしれないこととして、「カサンドラ症候群」と「モラルハラスメント」という問題がある。カサンドラとは、いくら伝えようとしても信じてもらえない状況の喩えのこと。カサンドラやモラルハラスメントについては以下のような例がある。
・熊谷早智子によると「家庭モラルハラスメント」として以下の例があげられている(熊谷早智子『家庭モラルハラスメント』講談社+α新書、2008年5月発行)。
・近年、子供を入り口にしながら、妻と夫の問題についての相談が多くなってきた。例えば、夫がアスペルガー症候群、子供が自閉症スペクトラム、妻がうつ病というケースである。
最後に、2012年のNHKの学生映画ドキュメンタリー部門で優勝したビデオを鑑賞しました。札幌学院大学で特別支援教員を目指す28歳の大学生の話で、子供の頃の不登校や人と全く話せない状況(場面緘黙症)をどのように克服したかなどについてまとめた印象的な動画でした。この動画では、「人から頼られること」が功を奏したとのこと。
講師の二通さんからは、特別支援教育や発達障害について豊富な経験に基づく的確なお話をしていただきました。大人の発達障害は、受講者にとってかなり頷けるところが多くあったのではないかと思っています。
最後に、受講者の感想や意見のいくつかを以下に紹介します。今回は比較的長文の感想が多く、二通さんのお話が受講者にかなりのインパクトを与えたようでした。
「内容が豊富でしたので、できれば2回ぐらいで講義をしていただきたかった」
「社会の中にこんなに苦しんでいる人が多くいるのか良くわかりました。細やかな神経の持ち主で、社会に適応しようとしているのですね。周りの人がもっと真剣に考えて接しなければと思いました。大変勉強になりました。有り難うございました」
「サラッと一通り解説されたようでしたが、何となく分かりました。ただ、資料を読んでみますと、私にも思い当たることが数カ所...、しかもピッタリな症状を呈する人が身近にも...、決して人ごととは思えません。気付かなかっただけで、あまりにも身近にあったことに驚きを隠せません!先生のお話を参考にさせていただきます」
「今日の講義はとても分かりやすくて良かったです。孫が5人のうち3人まで発達障害であることがわかり、とてもショックを受けましたが、本人と両親達の頑張りで乗り越えつつあります。先生の話で自信がつきました。これからも私のできる限りの応援をしていきます。有り難うございました」
「具体的な例もあり、分かりやすかった。先生のお話を伺いながら、我が子が札学院へ行っていたら、また違う人生を歩んでいたと思う。人間を大切にする学校だと思いました。資料も多くて良かった」
「新しい知識、なる程と思う事など、お話から得ることが多くて良かったと思います。先生は生徒達にお話しになりたい事が多くあり過ぎだと思うのですが、今回は大人の発達障害について、どういう状況、どう対処するのか、子供の頃から引き継いでしまうのか、そういう事を一番知りたかったのです。能力の優れる人に多いそうですが、現実に生きにくさを感じている人が多いと思うので、そこを知りたかったのです」