9月26日(木)、主催講座9「地震予測研究と石狩市の防災の現状」の第2回「日本海の地震予測と津波」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、第1回と同じく、北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター長・教授(理学博士)高橋浩晃さん、受講者は38人でした。 以下、その概要を紹介します。
○本日のタイトルと内容
◇現在、日本海や石狩周辺の内陸でどういう地震が想定されているか
○過去の大きなものとしては、1940(昭和15)年の積丹半島沖地震
・天塩町で10人ほどの死者
・M7.5で、奥尻沖地震と同程度の地震が石狩湾沖合で起こった。
*エピソード⇒ 「余市蝋燭岩」 昭和初期は太かったが昭和15年の地震で先端が折れて今の形になった。今度起ったらなくなるだろう。
◇日本海の海底地形はどうなっているか
○海底の特徴的な地形
「しわ」は海底の高まり(山・丘)を示している⇒活断層が動くと丘が出来る⇒海底活断層があることを示す
・奥尻から続くもの、積丹半島沖合い、石狩湾沖合いの海底活断層を示す
・活断層があるということは過去に繰り返し大きな地震が発生している証拠
・将来的に石狩湾の沖合いを震源とする地震が発生することは間違いないだろうと考えられている
○日本海の海底活断層
海底の地形や海底の地下の構造を調べる調査を国等で実施、そのデータを集めて日本海のどこに活断層があるのかを、2014年国が結果を示した。
・左図のF00で示しているのが活断層の位置
・石狩湾沖合いにもF06・F08という活断層が南北に伸びていることがわかっている
・宗谷の沖合いから南西部の沖合い、渡島半島の沖合いまで続いている
つまり、北海道の日本海沿岸はどこでも地震が起こりうる活断層が覆っているということになる。
・過去に発生した津波(右図)
1940積丹半島地震 1993北海道南西沖地震
1947石狩沖、留萌沖津波
1792寛政地震後志の津波(松前藩の記録)
・小樽から積丹で有感 積丹で震度5?
・津波は石狩湾~積丹半島に襲来
ー石狩浜益の記録はない(和人は住んでいなかった)
ー忍路で岸壁崩れ、陸にあった夷船漂流、出漁中の5名死亡
ー美国でも溺死若干 津波は3m以上?
積丹半島沖から石狩湾にかけては、過去にも津波を起こすような大地震が発生⇒将来も必ず発生する
◇現在どのような地震が起こっているか
・1923年以降の震源の位置を示した分布図
・積丹半島沖から留萌沖にかけてと、さらに沖合いの地域で地震が多い
・現在のデータと過去の地震のデータは非常によく一致する
○1993(平成2)年北海道南西沖地震
・津波の高さは5mしかなかったが、青苗地区は浸水して全滅
・230名が死亡、家屋も流出
・奥尻の西側は、20~30mが最大規模と考えられていた
・調査研究が進んだ結果わかったこと⇒30mを超えていた
・奥尻島の青苗地区の赤い□のところ2か所で地質調査実施
この2か所は、1993年の地震の時には津波が到達していない
・ユンボで穴を掘ってみると、縞々の地層が見える
黒い所は植物が腐敗して黒く見える。白っぽく見えるところは海砂が堆積しているところ(海から300mくらい離れている)
・なぜ砂があるか⇒大きな津波があって砂を運んできた(津波堆積物)
・何層にもなっている⇒何回も津波が来たことを示す
・小豆色のところは火山灰の地層⇒調べると、何時どこから飛来したかがわかる
・奥尻所島では、1993年の地震より大きな地震が繰り返し来ていたことがわかった
・北海道庁では、日本海側の津波による浸水予測をやり直して2017年に結果を公表した⇒せたなでは最大26.9m
・石狩では最大で15~17mぐらい
・1mの津波でも相当な破壊力を持っている
○動画で津波の様子をみる
・2011年東日本大震災時の名取市の映像、この時の津波は1mなかった。70~80cmの津波でも2階建ての家屋が全壊し流されてしまう
○石狩では、どのような津波が来ると想定されているか。
・北海道庁のHPで公開されているので、誰でも見ることが出来る
・石狩の沖合いで津波が起ったとき、どういう津波が来るか
・赤いのが津波。親船、弁天辺りは高さ5mの津波であまり浸水しない
・浜益、厚田については、居住地域まで相当な浸水が予測されている
○石狩市の予想される津波の高さ
・予想される最高津波水位13.4(厚田・浜益は高い)
・新港、弁天地区は5mと低い⇒標高4mの砂丘と海が遠浅である
・1mの津波でも破壊力は大きいので、5mでも相当なものと考える
・河口や沿岸住民はきちんと避難する必要がある
○石狩の主な町の津波予測図
・弁天地区については、この図では浸水しないようになっている
・石狩川を遡る津波が来ると溢れてしまうことが心配―漁業者対策
・望来、厚田市街、浜益はかなりの地域で浸水すると考えられている
○揺れはどれぐらいか
・石狩市内でも積丹半島沖の地震による震度予測は、震度6強
・耐震性の弱い家屋については大きな被害を想定する必要
○斜面崩壊
旧石狩はほとんど無いが、厚田から浜益の231号沿いは崖崩れによる相当の被害が出るであろう
・赤丸のところは崩壊の可能性が高い場所であるが、いたる所で崩壊し、231号線はしばらく使えない可能性がある
○津波が起ったらどうするか
・地震が起ったときには、津波から逃げること
・家の耐震性を高めておくこと
・気象庁は警報を出すのに最大3分かかる
・津波は3分以内に来る可能性
・陸の近くで地震が起こると、揺れているうちに津波が来る(奥尻島)
・警報を待っていては間に合わない⇒自分の判断で逃げる
○防災対策
・「油断!」(正常化バイアス)
・今後も、大きな地震は来ないだろう
・まさか、津波なんて来ないだろう
○事実として
・石狩周辺には活断層があります
・沖合には海底に活断層があります
⇒地震や津波はいつか起こります
◇内陸で起こる地震
○地震のメカニズム
地震が起こるためには岩盤にエネルギーが溜まることが必要
・岩盤を強く圧す力がエネルギーとなる
・次の地震を起こすエネルギーが着々と石狩低地帯に蓄積されている
・札幌と夕張の間、札幌と泊村の間が少ずつ近くなっている
・2点間の距離が縮まると、エネルギーが蓄えられ、ある時点で耐えられなくなって断層ができて地震が起こる
○どれぐらい圧すと岩は壊れるか(下図)
例えば、1mの墓石の場合0.1㎜縮めると壊れる
・札幌と夕張間に当てはめると、500年の間にどこかで地震が起こると予想される
◇札幌周辺の地下の構造を調査実施結果
○札幌の地下には3つの活断層がある
野幌断層 月寒断層 西札幌断層
・札幌、石狩を含む石狩低地帯の地下には活断層が密集して存在していると考えられている
・札幌市の予測
・月寒断層で地震が起った場合、地盤の弱い北区、東区では震度7
・石狩花川は震度6弱
○札幌で過去に震度6以上の地震があった証拠(液状化)
・北大構内の地下を掘った時の地層の断面図
・地層の中に上向きに流れたように見える構造は液状化で地震の証拠
石狩低地周辺では、いろんな所から液状化の跡がでている。直下型地震が過去にあったことを示している。今後もありうると考えざるを得ない。
○山が崩れることも
・手稲山は地震によって大規模な山崩れで現在の形になったと考えられる
・浜益の山の中にもたくさんある
○どれぐらいの頻度で起こるか
・公式な想定は出ていないが、下図から700年に1回の確率で起こる
・マグニチュードが1小さくなると地震は10倍起こりやすい(世界共通)
・発生確率の推定が可能(関数を使って計算)
例えば、ポアソン分布と発生間隔を用いると
今後30年間の発生確率
震度6強(液状化発生);3~6%
震度6弱;9~18%
震度5強;26~45%
・他の確率との比較
交通事故の確率 :24%
家の火事の確率 :2%
空き巣 :3~4%
交通事故死亡確率 :0.2%
地震の発生率は目安程度で、確率は低くとも地震は起こる
震度6強の地震が起こる確率は、家が火事になる確率より高い
*対策は「地震保険に入るべし」
◇石狩直下の活断層について
○活断層の分布
石狩のすぐ近くに活断層がある
・点線のところは、地表に活断層が現われたところ
・活断層は地下にななめに伸びている
地表の断層から離れていれていても安心ではない、震源は深い所にある
○石狩はどうなっているか
当別断層で地表に出ているのは、当別の街から青山のダムのあたりまで、図では切れているように見えるが、地下にもぐって石狩方面に伸びている。
・主要活断層というのは国指定の活断層の一つで、名前は当別であるが実態は石狩の地下にある
○当別断層による揺れ予測
・弁天~望来~厚田で震度6強
・花川は地盤が良いので震度6弱程度
耐震性の低い家は損害が出る可能性あり
○断層を示唆する地形
・地下に断層のある所は丘になっている
百年記念塔のある野幌丘陵(野幌断層)、札幌ドームのある羊ヶ丘は高い丘(月寒断層)になっている
・望来~厚田の町へ行く道路は平らな高台(海岸段丘)にいなっている。
これは、地震が起きたときに当別断層が動いて隆起してできた可能性がある。
・このように石狩も他の場所と同じで地震が起こる可能性があるので、起ったときは「そんなはずではない」といわないでいただきたい
・日本列島どこでも西と東から圧されてエネルギーをため込んで、いつ地震が起こってもおかしくない
◇千島海溝について
千島海溝南部で超巨大な地震の発生が逼迫しているといわれている。
一昨年国の方で、マグニチュード9という東日本大震災と同じような巨大地震が逼迫している可能性が高いという評価を出した。
○地震エネルギーの大きさ
・想定されている地震の大きさは、マグニチュード8.8以上
胆振東部地震M6.7の1000倍の超巨大地震である
・太平洋から離れた石狩も震度6以上になり、他人事ではない
○M9の地震が起ったら?
1、北海道全域で震度6以上の強い揺れ
・道東・札幌・旭川まで全道が大揺れ
・札幌でより広範囲に液状化が発生
・5分~10分ぐらい長時間揺れが続く
繰り返し揺れ続けることによる家の倒壊
・高層ビルマンションでは長周期地震動
2、北海道太平洋沿岸全域で超巨大津波
・場所によっては高さ20mを超える
・釧路市平野部は大規模浸水
・東日本大震災と同じことが起こる
苫東厚真火力発電所も水没し、ブラックアウトの可能性
○北海道がマヒする可能性
・胆振東部地震で4,000億円の経済損失(道庁試算)
・超巨大地震が起ったらどうなるか、経済面の備えが必要
・北海道は島であり孤立
・北海道経済がマヒする
東日本大震災のときは、道路を使って他から物資が供給されたが、北海道は津波で港湾が破壊されると大変なことが長期間続く可能性がある。
・オール北海道で、命と経済を守る取組みが必要
道民全体・道経済全体問題として対応しておかないと、北海道がつぶれる
○事前のシミュレーションが大事
・どういうことが起りそうか ・命を救う局面 ・経済的局面
・太平洋側港湾が使えなくなったら 等
トータルにしてシミュレーションして事前に備えておくことが大事である。
○石狩湾新港の役割
最後に、千島海溝巨大地震のバックアップとして一番有望なのは石狩湾新港である。石狩湾新港の機能を拡張するとともに、交通アクセスできるように太平洋側港湾のバックアップとして整備するという視点で取り組んでいただきたい。
高橋さんは、地震予知はできないが科学的データを基に地震津波の可能性を予測できること。そして、起こる災害を想定した事前対策の重要性を訴えられました。特に、千島海溝の超巨大地震における被害と備えについてのお話は危機意識をもって拝聴しました。
終わりに、受講者の感想を幾つか紹介します。
「他人事だった地震が胆振東部地震で我が家も大きく揺れ今回の講座を受けました。自分が住んでいる石狩市花川は地盤が固く揺れにくいことがわかりやや安心しましたが活断層が多くあることで、いつでも地震が起きる可能性があり、今後一層の備えが必要だと思いました」「地震発生の確率を考えると将来の不安が益々大きくなるが、日頃の備えが大事なことを教えられた。さっそく地震保険を見直します」「将来必ず発生すると断言された地震。地震ばかりではなく各種の災害に備えるように意識し行道(対策)準備しなくては、と肝に銘じました。明快な説明、勉強になりました。地震・災害保険検討しなければ!」「一層の危機意識が必要であること、お話で伝わってきた。具体的な指摘で課題は明確であることが判った。その中で個人の自分は何ができるのか、するべきなのか、改めて考えてみたい」「日本海の海底活断層存在の事実と積丹半島沖から石狩湾にかけて過去の大地震、津波発生の実態により泊原発の重大な危険性を強く感じた」「千島海溝南部の巨大地震の恐ろしさを改めて認識できました。前回に引き続き大変貴重なお話を聞くことが出来、感謝します」「「今回も晴らしい講義でした。市民カレッジだけで聞くのがもったいない、全道的な規模で聞いてほしいものです」