11月19日(木)、主催講座5「人生100歳時代~100年人生を有意義に生きるために~」の第1回「不安と期待の地図のない旅」を石狩市花川北コミュニティセンターで行いました。講師は、北海道大学名誉教授・北海学園大学名誉教授の朝倉利光さん、受講者は、39名でした。
朝倉さんは「みなさん、世の中がこんな状況の中、お集り頂きありがとうございます。新型コロナ感染拡大の中、世界中の国がプライバシーを守りながら感染拡大を防ぐと云う課題を突きつけられていますが、3密を避けると云うのは、高齢者にとって大変大切なことです。私は、日本が超高齢化社会に入る10年程前から高齢者の問題について考えてきました。そしてこの問題を考えれば考える程、恐怖にも近い不安を覚えます。本日は、それがなぜかということをお話したいと思います。テーマとして、1.高齢化の現象、2.高齢化の問題・高齢者の生き方、3.老化、老年症候群、4.高齢者の生活の質~生きる喜びの創出~、5.人生の終末期:不安と期待の地図のない旅の5つを挙げましたが、特に3.と5.について重点的にお話したいと思います」と言って、お話を始められました。
以下はそのお話の概要です。
1. 高齢化の現状
①日本の人口高齢化と人生の区分
・現在、平均寿命は男性80歳、女性87歳で、個人の長寿化とともに人口の高齢化となっている
・人生の区分は、昔は子ども、大人、老人であったが、高齢化した現在は、子ども、大人、前期高齢者、後期高齢者の4区分となる
②日本の人口構造の大変化
・江戸時代頃までは、1,000万人ほどで変化は少ないが、江戸時代から明治期にかけて急増して4,000万人となり、さらに1900年頃から急カーブで増加、その後は、2005年の1億2,700万人をピークとして急激な減少となる。2100年の見込みは、5,000万人。人口減少の社会では経済の発展は望めない。その中で日本は、国をどのように作り変えていくかが最大の課題となる
・日本の人口ピラミッドの変化
2005年の75歳以上の比率は20%、2030年では32%、2055年(総人口9,000万人弱)では41%の見込み。それに従って、働き手となる15~64歳の人口は急激に減る。日本は、そのような状況に対する認識が非常に不足している。ヨーロッパ諸国ではすでに1990年頃から産業構造を電気や機械、化学繊維などから情報や医療、福祉重視に転換しているが、日本はそう云う転換が出来なかった
・高齢化が始まったのは、日本では1970年頃からだが、ヨーロッパはそれより50年も前、フランスでは100年も前に始まって、その対策が立てられている。ところが日本は、高齢化の始まりは遅かったが、進行はどの国より早く、2007年から超高齢化社会になり、現在では世界一の高齢化社会となっている
③日本の高齢化の特徴
・高齢者の割合が非常に高い(25~30%)
・高齢化の進展スピードが速い
・少子化(年少人口は0~14歳)の進展、合計特殊出生率は、1.5未満
※日本は、世界一の超高齢化国、超少子化国となり、これは世界で初めて経験すること
2.高齢化の問題:高齢者の生き方
①個人の長寿化と人口の高齢化
・個人の長寿化には、人生90年、100年の設計が必要⇒健康で能力を最大限発揮して生き、自分らしく死ぬ
・人口の高齢化には、社会のインフラ(ハードとソフト)の作り直しが必要⇒社会構造の変革
・これからの医学教育
予防医学、健康医学が主であるべきだが、日本の医学教育は依然として旧来の医学教育しか行われていない。
②高齢者の生き方の追求
・体の健康と心の健康
体の老化現象と心の老化現象を防ぐ⇒生活の質の向上⇒「生老病死(しょうろうびょうし・避けることが出来ないこの世での人間の4つの苦悩)」への心構え
3.老化、老年症候群
①老化とは
年齢を重ねるにつれて現れる様々な身体的・精神的不具合のこと。いままで出来ていたことが出来なくなる。
・老化の3つの問題
身体的問題:体の老化(老年症候群)
精神・心理的問題:心の老化⇒認知症、うつ病
※認知症などを患っても普通の人と同様に生活できるような社会を作らなければならない
家庭・社会的問題:社会的な老化⇒一人暮らし、孤独感
・老化の4原則
㋑普遍性(例外なくおきる)㋺固有性(人間におきる)㋩進行性(逆戻りできない)㋥有害性(老化で起きる現象は機能低下を伴い、生体に有害な物が多い―この点については年と共に円熟味が増す芸術家などの例もあり、やや疑問もあるとのこと)
・老化現象と老年症候群
老化現象―白髪が増えた、老眼が進んだ、しわが増えた、耳が遠くなったなどで、ほっておいても大丈夫。
老年症候群―転びやすくなった、足腰が弱くなった、美味しいものが食べれなくなった、活動的でなくなったなどで、ほっておくと大変なことになる。
②虚弱化の予防
75歳を過ぎたら、高齢化に伴う老年症候群(虚弱化)の予防が大切。
③期待される健康度モデル
従来は、加齢と伴に徐々に老化度が進むと云うモデルだったが、これからの期待される健康度モデルは、90歳くらいまで健康度が維持されその後徐々に老化していくようなパターン。
④年とともに出現する疾病(老年症候群)
・疾病
悪性新生物(がん)、心疾患(心筋梗塞など)、肺炎(特に誤嚥性肺炎)の3つで50%を占める。
その他に、脳血管疾患(脳卒中など)や老衰など。
・4つの障害
㋑代謝機能障害―対策は、バランスのとれた食生活⇒粗食をやめて、肉を食べよう⇒太っても死にはつながらないが、やせると死につながる
㋺運動機能障害―筋肉が減っていく⇒積極的な運動
㋩認知機能障害
知的機能(認知機能)が持続的に低下し社会生活に支障をきたすようになった状態。認知症は、「脳の病気」であり、単なる老化とは異なる。原因には、神経変性疾患(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など)、脳血管障害、その他(甲状腺機能低下症、ビタミンB1・B12欠乏症など)などがある。
※脳の活性化が大事(会話が有効)
㋥嚥下障害―高齢者は口腔機能管理が大事
・高齢者の楽しみは「食べること」で、食べられる口を守ることは、生活の向上につながる
・全身の老化は口から始まる
・80歳で20本の歯を残す
・口の虚弱化を防ぐ
・食べられる口を守る
口腔ケアが大事!
4.高齢者の生活の質~生きるよろこびの創出~
・社会参加によるよろこび
・視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感を大切にして、五感に関わる器官の活性化をはかり、情報を獲得する
5.人生の終末期:不安と期待の地図のない旅
①死に対する考え方
・キリスト教やイスラム教を信じる人達は、「死は、永遠の幸福への道」と捉え、死を積極的に受容する
・仏教徒の日本人は、死ななければならないという事実を、仕方がないとあきらめ、死を中立的に受容する
※死を考えると云うことは、今を考えること
※死について積極的に考えなければならない時代になっている(死生学)
②超高齢社会に生きる高齢者が人生をいきいきと生き抜くためには
・老化現象をよく理解してそれに抗うような生き方をする
・「生老病死」の意味を求め、生きてきたことの意義を探る
・ホルモンがなくなってからの自己管理
人間の体の働きをコントロールしているホルモンが無くなるのが、老化。ホルモンが無くなった後は、自分で管理しなければならない。
以上がお話のあらましですが、朝倉さんは最後に「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ」と云うマハトマ・ガンジーの言葉を紹介してお話を結ばれました。超高齢化社会の中で人生をいきいきと生き抜くために大変参考になるお話でした。
最後に受講者から寄せられたコメントをいくつかご紹介します。
「100歳時代―と言われるけれど、本日の朝倉先生のお話しぶりにまさにこの言葉がふさわしいと実感しました。年齢を(もちろんお年は不明ですが)感じさせない姿勢、話し方に感服しました。本日の話題は今の私達に最も身近な問題でしたので、興味深く拝聴しました」
「タイトルの"不安と期待の地図のない旅"に感銘を受けました。期待の中に含まれている光を信じて自分なりに日々過ごそうと思います。死を考える時、生をどう生きるか・・・改めて考えさせられました。P13のガンジーの言葉を噛みしめながら過ごしたいと思います」
「超高齢社会をまっしぐら。生活の質の向上を心がけることの大切さを学びました。この市民カレッジは、本当に有難い存在です。死生学は初めて。これから考えたいと思います。最後のガンジーの言葉を大切にして。ありがとうございました」
「高齢化社会に生きている私達は、自分の努力によって少しでも自分の力で歩いたり、食べたり、日常の生活が出来るようにしていかなければ―、と思っています。寝たきりの時間をできるだけ少なくして、人生を終えたい考えています。いいお話をありがとうございました」
「老いを認めながらも、重ねた年齢に抗って、心も身体も前向きに生きる大切さをつくづく感じさせられた時間でした。ありがとうございます」
「生老病死の言葉を興味深く聞きました。内容が良く、あらためて人生について考えさせられました。ありがとうございました」