7月5日(火)主催講座6「気象変動と私たちの生活」の第1回「気象変動の実態」を開催しました。講師は気象予報士・防災士そしてUHBお天気キャスターの菅井 貴子さん。受講者は30名でした。
以下は講演の概要です。
5年前にもいしかり市民カレッジで講演の機会があった。その後、気候災害も増え新しい防災情報も出来た。「線状降水帯の予測」にも挑戦する動きもある。
今回は最新の話題を織り交ぜながら気象変動の実態について話したい。
まずは台風の話
今、台風シーズンが始まり先週3、4号がやって来ている。台風はその年明けから0号と数え始めるが、今年は例年に比べて発生のペースが遅い。普段使う低気圧は「温帯低気圧」のことであるが、熱帯の海で発生するのは「熱帯低気圧」でそのうち風速17メートル以上の風が吹くようになると台風と呼ぶ。エネルギー源である海水温が27℃以上になると発達する。台風の渦巻きは地球の自転で生ずるが、北半球では反時計回りで南半球は時計回りである。
台風は年間に25個ほど発生する。昔と比較し発生数は減少しており温暖化であっても台風は減っており今後も減るとみられている。
日本にやってくる台風は若干増え、北海道にまでやって来る台風は年間1.5個から1.9個に増えた。発生数は減っているのにやって来る数は増えている。
台風は通りやすいコースがある。高気圧の関係で北海道は8月から9月に多い。
台風には雨台風と風台風がある。北海道の西側の日本海を進むと強い風が吹く「風台風」になる。南側の太平洋を進むと「雨台風」になる。石狩の場合は「風台風」が怖い。
2004年に北海道を襲った「風台風」。札幌で50.2メートルの強風が吹き大きな被害をもたらした。相当数の倒木等の被害や死者も出た。この時は洞爺丸台風と同じく台風が西を通った。
北海道は台風と前線が重なると大きな災害が発生する。「56水害」は昭和56年に発生した大水害をいうが、豊平川が氾濫し大きな被害があった。年に2回にわたり台風と前線が発生し被害が増大した。その後、石狩川の各種治水対策が講じられ大きな被害がなくなっているが、今後も警戒は必要である。
去年と一昨年、北海道には台風が来なかった。しかし台風が来なかったため「赤潮」の災害が発生した。台風が来なかったので海がかき回されなかったため海水温の上昇によりプランクトンが異常発生し赤潮の被害を招いた。「台風が来なかった被害」でもある。ある意味で台風は「必要悪」かも知れない。
台風の進路の話
台風の進路予想図。〇の大きさは強さではなく進路予報が難しいので〇は大きくなる。よくある誤解。予報円の確率は70%。予報の30%は〇の外に進む。進路は最新の予報をチェックすること。大きな台風の予報は午前4時10時、午後は4時と10時に新しい情報が発表される。「シトシトじゃ済まない台風予報」と覚えて欲しい。
天気予報は何で見ているか。私の場合、昔はテレビと電話「177番」くらいだったが、今はインターネット等、色々な媒体で予報が見られる。各々チョットずつ予報が違うことがあり、最近は「どこの予報が当るか」と聞かれることがある。
予報には大きく3つの予報がある。気象台が発表する予報はNHK。道内民間の気象会社3社の提供する予報。そしてUHBなど放送局のオリジナル予報である。是非UHBの夕方の予報を参考にして欲しい。
気象台のインターネットのサイトを見るとABCの表示がある。Aは予報が安定しているということを示す。
週間予報を見るときは「昼」がお勧め。朝の予報は前日の予報をベースにしたものでありあまりお勧めしない。新しい週間予報が出る午前11時過ぎでチェックするのが良い。今日・明日・明後日の予報は1日3回変わる。午前5時、午後11時5時を過ぎてのチェックがお勧め。
本音で話すと...テレビの天気予報は苦しい時代。わざわざテレビで天気予報を見なくとも良い時代になってきた。このため気象キャスターとして「本音での天気予報」が頑張りどころ。
週間予報の後半にやたらと「曇りマーク」があるのは予報が分からないときにつける傾向。また、台風が来ると気圧配置がかわり予報が難しい。
お天気マークは晴・曇・雨・雪の4つあるが4つで表現するのは難しい。特にゲリラ豪雨の表現は一瞬のことなので予報が難しい。雷の予報も空振りになるとまずいので難しい。気温と体感も違う。北海道の雪予報は世界一難しいと思う。風向きで雪の降るエリアが変わるからだ。
降水確率は難しいので予報士はあまり好まない。この降水確率は雨の強さや降る時間とは無関係。石狩地方には雨が降りやすい千歳・恵庭も入っており、石狩市の天候と異なることもある。1ミリ以上の雨を対象としておりややこしい。
気象予報士と私と北海道
気象予報士は全国で1万人以上、道内でも500人ほどいる。65歳以上の方が趣味・天気に興味がある等で資格を取る人が多い。3回受けると受かるという資格でもある。私は日本一の予報士と言っている。南は九州から北海道まで1700㌔移動して予報士をしているからだ。私は昔から北海道が好き。大学では合宿で北海道に行くことができる自転車部を選び、夏には一人旅で北海道を半周し感動した。就職は北海道志向だったがハードルが高く、17年前にやっと北海道で仕事につけた。横浜にいる父母もいずれ北海道に呼びたいと思っている。
移住者と気象予報士として北海道は「凄い」と思う。北半球でも道内の気候は「豊か」である。北海道は広く、全国の気候が凝縮している。石狩の冬は比較的気温が高い。池田町は日照時間が長くよく晴れる。幌加内は14メートルの雪に見舞われ。苫小牧等は雪が少ない。
石狩の夏は天気が良い。蝦夷梅雨の中でも石狩・留萌は晴れて安定している。北海道の高温記録は39.5度。3年前の5月の佐呂間町だった。石狩市の去年の7月は暑かった。
北海道が沖縄と同じに暑くなるのは山があるから。魔女の風とも呼ばれるフェーン現象が熱風もたらす。石狩も台風崩れで去年35℃を超えた。沖縄より暑かった。
北海道の過去最低気温は-41℃。120年前の旭川市の記録である。石狩市は1977年からアメダスの最低温度の記録があるが2001年の-23.1℃。石狩は一つの町で2つのアメダスがある。石狩市は山も海もあり南北に長いのでアメダスだけでは気象は測れない面がある。
北海道は沖縄より暑く、アラスカ並みに寒い。山と海があり気候多様性がある。風向きによって色々天気が変わる。冬があるのに果物が出来るのには驚き。雪が降るので果物が育つ。流氷が来るのも北海道。北極と同じ環境を体験できる。生きているうちに一度は観てはどうか。
気候的にも凄い北海道
北海道は気候的にも凄い。アイヌの方は自らの地を「アイヌモシリ(人間の大地)」と呼んだ。人間が生きていくうえですべてが揃っている大地・北海道である。太陽光・風力発電等エネルギーの潜在力も高い。雪が降り夏が厚い北海道は雪を使う技術は世界で一番進んでいる。
北海道は全国でも一番雨が少ないが雪解け水があり水不足とは無縁。
北海道ではマンゴーも栽培するようになった。ハウスでは夏も冬も温度を上げる必要があるが、自然エネルギーで夏は雪で冷やす。冬は温泉熱で温度を保つ「季節逆転栽培」。出荷はお歳暮時期で高く売れるなど楽しみも多い。
変わる北海道の気候
北海道は気候が変わってきている。このことにより産業構造への影響が懸念される。
年々流氷の勢力が少なくなっている。去年は干ばつで玉ねぎが不作に見舞われるなどいろいろなことが急激に起きている。
石狩は2017年に1時間40ミリの降水量を記録した。バケツをひっくり返したような雨を凌ぐ雨だった。降水量35ミリでマンホールから水があふれる。去年は暑さ記録の更新だった。
去年の8月8日、札幌で東京五輪のマラソンが猛暑のなか行われた。今年の5月11日は記録的カラカラ。近年、史上一番の記録更新が増えており「異常気象の証」である。30年間でみると札幌は平均気温が上昇。降雪量が減少し、6月の降水量が増加している。
進む北海道の温暖化
北海道は全国で温暖化が一番進んでいる。世界のペースの2倍の速さ。温暖化は二酸化炭素が影響しているといわれている。ノーベル物理学賞を受賞した真鍋先生が60年前にコンピュータで予測していた。受賞は世界が環境意識にシフトしている証と思う。
将来を予測する真鍋先生と今日明日の天気を予報する予報士とは分野が違うが、真鍋先生と関係機関がタッグを組んで2100年の北海道の気象を試算した。78年後を予測。桜はさらに5日早まる。エゾシカの増加。30℃を超える日が1カ月もある。ゲリラ豪雨の増加。水産物水揚げへの影響。リンゴ産地が青森から北に上がると予測。
次回の講座は「気象変動と防災」についてお話します。
《受講者アンケートから》
「気象予報士の本音や気象の読み方、予報のとらえ方などユーモアを交えて大変分かりやすく話していただき興味深く聞くことができました。北海道は日本で一番温暖化が進んでいるという話には驚かされました」
「再びお話を伺う機会を得て大変うれしく思いました。最新の情報を知ることは魅力でした。5年前カレッジでお会いして以来、UHBの菅井さんのコーナーは特に親しみを感じてみるようになりました。大変美しく心地よく聞きやすい声、分かりやすい解説、上品で知性的な菅井さんのお人柄が表れる情報を聞くのが楽しみです」
「分かりやすく興味を持つことが出来ました。私はラジオで聞くことが多く、人柄とともに親しみを持って気象のこと、楽しみに聞いております。"本音"いいですね」
「数年前に講座を受けさせていただきました。そして今回も受講できたことうれしかったです。気象変動を考える土台(台風とは、赤潮とは、週間天気予報の発表時間は、降水量とは等)を学ぶことができてよかったです」