7月19日(火)主催講座6「気象変動と私たちの生活」の第2回「気象変動と防災」を開催しました。講師は気象予報士・防災士そしてUHBお天気キャスターの菅井 貴子さん。受講者は30名でした。
以下は講演の概要です。
☀ ⛅ ☔
気候が変わっている
北海道はゲリラ豪雨などあるが、西日本、九州に比較し気象災害が少ない。
逆に言えば雨に慣れていない地域でもあり、災害意識を高める必要がある。
「観測史上一番」が増えているが「異常気象」との違いは、「異常気象」は30年に一度の現象のことで「異常」ではない。「観測史上一番」は、観測ポイントでこんな気象になったことがないという点で「異常」なことである。
地球温暖化がこのまま進むとどうなるか。次の三つの心配があるといわれている。
①強い台風が増える。
②爆弾低気圧が増える(急速に気圧が下がる低気圧のこと。台風とは異なる)。
③温暖化で北海道は寒冷化する(北半球では北極の気温上昇率が高く氷が解け、気圧配置が変わり北海道に寒気が流れやすくなるといわれている)。
観測結果を把握し伝えるのが気象予報士の仕事。温暖化の問題は私の分野ではなく正直よく分からない。ただ、個人的には冬が厳しくなっていると思う。今冬も札幌は雪が多くなり影響が大きかった。2シーズン前は岩見沢などで史上一番の豪雪。3シーズン前は雪まつりの時に史上最強の寒波が入ってきて小利別では-40℃、札幌でも極端に寒かった。
4シーズン前、道内は幌加内町で324センチの歴史的豪雪になった。
IPCC(別添写真)では世界の研究者により5年おきに地球環境の報告書を発表している。去年の第6次の報告書では気候温暖化変動の原因は人間が排出した二酸化炭素であることは疑う余地がないとしている。
今日のテーマである防災に関して
命を守るために以下の3つの原則があり、これを無くしては助からない。
①情報 ※開発途上国は情報が行き届かない。
②知識 ※最近は意識も加わる。
③備え
情報としての「注意報」
気象庁では「注意報」を発表している。注意報は地域で異なり北海道では雪も降るし海に囲まれているため16種類ある。
「注意報」がもっと深刻になると7種類の「警報」が発表される。「警報」は市町村ごとに基準がある。「警報」がもっと深刻になると「特別警報」が出る。昔は「警報」までしかなかった。近年、災害が甚大化するので「特別警報」が出来た。この「特別警報」が出ると亡くなる方が必ずと言っていいほど出る。
気象台が発表する防災情報
気象台が発表する防災情報のうち気象災害の半分を占める大雨の「警報」は手厚い。「記録的短時間大雨情報」もある。数年に一度の大雨だったという事後での報告になる。去年は「顕著な大雨に関する気象情報(線状降水帯)」が出来た。
情報が多く縦割りでややこし過ぎる。アメリカではレベル化されているが日本でのレベル化の検討はあまり進んでいない。去年6月に出来た「線状降水帯」の予報はなかなか難しい。
ハザードマップは正直大変見にくいが、あらかじめ自分の地域について災害の危険度や避難先などを知っておく必要がある。
想定外の「複合型災害」
最近、地震と台風が重なるような想定外の「複合型災害」が多くなり、被害も大きくなっている。
北海道は特に冬の雪と寒さを想定した「複合型災害」について考える必要がある。
札幌市は厳冬期の災害を試算しているが「凍死」などの心配もあり、北海道では雪と寒さが命取りになることも考えておく必要がある。特に一冬に10日は猛吹雪に見舞われる石狩はブラックアウトの時にホワイトアウトが生じる懸念があることも考えておく必要がある。
胆振東部地震の時、テレビでも種々訴えたが停電により道民に訴えが届かなかった。切なかった。最近はSNSでの情報発信が重要になっている。ただ、信頼できる機関の情報入手を心掛けるようにして欲しい。
報道する立場として気象予報士の課題を4つ感じている。解決策はないので皆さんも考えて欲しい。
あこがれの北海道に来て17年になるがNHKに在籍していた時の大先輩から「天気予報は外れてもやむを得ない場合があるが、もしも気象災害で人が亡くなったら自分のせいと思うように」とアドバイスされた。今もこの言葉は私に生きている。気象関係者の皆さん気持ちは同じと思う。
過去の4回大きな事故
気象予報士をやっていてこの間、4回大きな事故があり、命を守ることが出来なかった。
①予測できず発生した災害
9人の犠牲者が出た佐呂間町での日本最大級の竜巻は局地的であり予測が難しかった。当日の予報は☀マークだった。この時の教訓から有効期限が1時間の「竜巻注意情報」が出来たが、当たる確率は5%から10%ほどと低い。9割は外れることがあるが、かといって情報に慣れないで欲しい。
②予測が出来ても情報が伝わらなかった災害
2013年、9人が亡くなった冬の爆弾低気圧のホワイトアウト被害がその例。当日の吹雪予報で一旦小康状態があると予測できたため、「魔の間」があると繰り返し強調したが伝わらなかった。テレビの夕方の気象予報の視聴率は残念ながら低い。
③予測は出たが対応できず災害が起きた
2016年の台風被害がそれ。台風が短い間に5個、2日に1回の割合でやってきて富良野などで大被害があった。過去の経験則が効かなかった。
④予測が出来ても対応してもらえなかった災害
人間は「私は大丈夫」などのように正常性バイアスが働くといわれる。これは厄介な心理。今年の4月23日、寒冷前線が通り26人が亡くなる知床の観光船沈没事故がこれにあたる。当時の気象予報からは船は出すべきでなかった。
最近、気象庁のコンピュータの能力向上で気象予報の精度は高度化している。期待して欲しい。
今回の講座で何回か話したが「何事もなく良かった」という防災意識の向上を期待したい。
気象衛星も進化し予報に生かすことができる時代になっている。世界レベルで気象データを共有している。
防災対策は一人では出来ない。家族・コミュニティなどの自助・共助に加え、最近では「近所」も含まれる。相互に連携して防災対策について考える必要がある。
【受講者アンケートから】
「今日の講義は緊張して聞いていました。北海道の冬は怖いです。正常性バイアス。私も身近なところで災害は起こらないと思い込んでいるかもしれません。菅井さんの言葉を忘れないよう準備をしておきます」
「大変耳に心地よい美しい声のうれしい講座でした。北海道が好きと発信してくれてその気持ちがいつも伝わります。石狩に来られたら石狩に密着し私たちに寄り添ってお話されてくれました。お天気情報は私たちの生活に占める割合や必要性は高まっています。いつも心のこもったお話(UHBでも)信頼しています」
「気象や防災については一定の知識は持ってはいたが、今回は具体的な過去の事例などを示して解説していただき改めて勉強になりました」