8月19日(金)主催講座8「変貌する秋鮭漁業環境を生き抜く」の第1回「世界のサケマス需給動向と北海道の秋鮭漁業の現状と課題」を開催しました。講師は北海道漁連販売第2部長の鳥毛 康成さん。受講者は36名でした。
以下は講演の概要です。
世界の漁業生産
世界全体の漁業(天然)生産量は1億トン。魚種別ではペルーのアンチョビー480万トンを筆頭にスケトウダラ350万トンと続く。養殖は1億2千万トン。主としてアルギン産の原料になる中国の昆布養殖がダントツで多い
養殖生産のうちサーモンは大西洋サケ270万トンで10位にランクされている。
全国の漁業生産
天然・養殖生産は、両者合わせ昭和59年の1200万トンをピークに減少、今では400万トン強の生産にとどまる。直近の金額では1兆2千億円。
北海道の漁業生産
昭和50年の250万トンをピークに減少し近年100万トン前後。金額では2700億円程度で推移。昨年の魚種別でみると増養殖漁業が確立しているホタテが約910億円とトップ。次いでサケが460億円となっている。
サーモンの動向
サーモンについてみると世界の天然物は100万トン程度と横ばいで推移。銀サケ・トラウト・アトラン等の養殖サーモンは、10年前は200万トン程度であったが現在では320万トン規模に増加。日本にあまり輸入されていないアトランティックサーモンは世界で280万トンが生産されており今後、秋鮭にとって脅威になる可能性がある。
サケの種類
図の通りで秋鮭はシロザケに分類される。
ロシア産の天然サケの現状
ロシア産は主にカムチャッカ半島周辺で生産されているが、近年マスの生産が増加している。日本の食卓や回転寿司で安価なロシア産マス・イクラが食べられるようになった。
ロシア産紅サケの約半数が日本に搬入されるも近年、海外での需要が高まり日本搬入量は減少傾向にある。
アメリカ産の天然サケの現状
アラスカ産のサケマスは401千トン生産され、このうちマスで20万トンほど。2年魚のマスは、豊漁年と不漁年がはっきりしている。アラスカの紅サケは13万トンほどの水揚げとなっているが近年、アメリカ・カナダの需要が増加、以前のような日本向け安値搬入は限定的となっている。
世界の養殖サーモンの現状
世界では養殖に適した海岸が多いノルウェーやチリなどで300万トンのサーモンが養殖されている。日本の秋鮭水揚げは5万トンなので60倍の水揚げを誇り世界の市場を席巻している。
サーモンの養殖は2年半のサイクル。日本のサケ漁とは異なり生産から販売まですべて1企業体で行われている。陸上の淡水養殖場で卵を育成し、一定の大きさになったものが海面養殖場のいけすに移され人工のエサを与えて成長させて出荷される。環境問題への対応、トレサビリティー、衛生管理等も徹底されている。
養殖サケの日本への搬入
チリの銀サケが10万トンほど搬入され全国の量販店等で販売されている。日本のサケの中心的存在となっている。トラウトは病気への対応など養殖の難易度が高くノルウェーやチリの生産が減る傾向にあり日本への搬入量は限定的となっている。我が国で行われている「ご当地サーモン」養殖の多くは寿司ネタになるトラウトが主流。アトランは世界の生食サーモンの主流となっており生産が拡大している。今後日本への搬入が増えれば秋鮭にとって脅威になるとみられる。
我が国のサケマス需給
国内生産と輸入を含めた供給量は40万トン前後で推移。このうち輸入サケは20万トン強、秋鮭は約5万トンの内訳となっている。
我が国のサケの現状
我が国の天然サケマスは平成23年当時14万トン生産されたが今では5万トン強に減少。養殖ものは三陸の銀サケ主体に2万トンの生産。
秋鮭の水揚げ
北海道の秋鮭は平成15年の20万トンをピークに減少し今では5万トンの水準。単価は4倍に上昇した。
道東を中心に秋鮭水揚げの不振が続く中、ご当地「石狩」の水揚げは昨年2500トンを超え回復の兆しとなっている。
水揚げの時期は9月下旬から10月上旬に集中している。漁期の平準化にも取り組んでいるがなかなか成果が上がっていない。
サケの稚魚は河川に放流後、3~5年ほどかけてベーリング海などで成長、「母川回帰」習性があり産まれた川に戻る。関係者あげて古くから孵化放流事業に取り組み道内各地で毎年10億卵を放流しているが、回帰率は2%程度に留まっている。
秋鮭の流通状況
親製品は単価が高くなっているが、供給減と競合する鮭鱒の高値から総じて比較的順調に消費されている。生鮮は生フィレ等で旬の商材として一定量消費されているが、塩蔵は近年「新巻鮭」の需要が急減し売れなくなった。冷凍鮭は給食業態や生協・中食業態で一定量が消費されている。
魚卵製品も供給量が減少し高値となっているため売り場は限定的となっている。
この間の漁連の流通対策
平成3年から平成6年当時は水揚げ増加の中で品質が落ちるブナ鮭価格が下落したことから、ブナ鮭を市場から隔離し「すり身」の原料に向ける対策を講じ総体の魚価の安定に努めた。
平成7年から平成12年は全道的に秋鮭が処理能力を上回る増産となり魚価安に見舞われたため、生産者から基金を拠出願い対策財源とするとともに、処理能力の向上のため石狩に秋鮭の集中処理工場を建設するなどの対策に取り組んだ。
平成13年から21年は増産のピークで、大規模の需給対策を講じ国内における売り場確保対策を行うとともに中国を主体に海外輸出を拡大した。
平成22年からは中国主体の原料輸出に加えアジア圏への製品輸出や生筋子での消費拡大に加え、より消費者志向に対応した製品の拡大に取り組んだ。
平成29年以降は、低調な水揚げのなか国内の売り場が縮小。水揚げ回復時に備えた対策を継続している。
今後の取り組み
秋鮭を巡る環境が変貌する中、漁連としては
①競合魚種に負けない国内における販路確保
②国内における旬の時期と通年消化促進対策
③今後の水揚げ回復も見据えた海外向け原料輸出ルート確保
④エコラベル※認証の普及拡大
を基本として引き続き漁協と連携し流通の安定化に取り組んでいく考えである。
※エコラベル 水産資源の持続的利用に対する国際的な関心の高まり受けた、資源管理や環境配慮への取組を証明する水産エコラベルのこと。日本ではMELという水産エコラベル認証制度がある。
《受講者のアンケートから》
「生活密着・食卓に欠かせない鮭ですから大変興味深く学ぶことが出来ました。分かりやすい(カラー版・大きな字)の資料に現職の(最前線で仕事をしている)方のお話は迫力がありました。鮭といっても多くの種類、天然もの養殖もの...産地もスーパーに行って手に取った時に今日の講座は生きると思います」
「サーモンは日頃食しているにも係わらず実態をほとんど知らなかった。実情を知る良い機会となった。海外の養殖に頼ることのないように国内での供給が出来るような体制をとってほしいと思う」
「秋鮭をはじめ世界の水産業の状況がよく分かりました。ありがとうございました」
「資料が非常に分かりやすく良かった(カラーで分かりやすい)鮭の生産・加工・流通環境が詳しく理解できた。講師の説明も分かりやすく良かった。大変良い講座だった」
「日本の漁業の現状を知る機会を得てよかった。報道で近年『魚が獲れなくなっていること』を見聞きしていたが世界における比率等、数字で見てよく理解できた。養殖事業が相当進んでいるのを初めて知りました」