9月27日(火)主催講座8「変貌する秋鮭漁業環境を生き抜く」の第3回「サケマス漁業関係施設見学」を行いました。受講者は21名。
最初に石狩湾漁業協同組合を訪問し、ちょうど船から鮭を荷揚げしているところを見学しました。荷揚現場は殺気立つほど緊張感のあふれるもので、受講者はめったに見る事が出来ない光景を食い入るように見つめていました。
その後、石狩の漁業の概要やサケ漁について和田専務からお話を聴きました。
・石狩の水産業関係団体は、明治13(1880)年頃設置された「石狩郡漁民会社」が始まり。その後の変遷を経て、昭和26(1951)年「石狩漁業協同組合」が発足。
平成16(2004)年に石狩、厚田、浜益の各漁協が合併して「石狩湾漁業協同組合」となり今に至る。
・石狩と鮭の関係は、市内で4,000年前の鮭捕獲用漁具が発掘されたように長い歴史を持つ。
・石狩川鮭漁の漁獲高は、明治13(1880)年に58か所の漁場で120万尾2万石(約3,000トン)であったが、平成20年606トン、平成16年3,479トンとなっている。
・令和3年販売高
総販売高約32億円。うち秋鮭約20億円(約2,800トン、道東は不振だったが石狩は好漁、道東の不振により北海道の全体数量が少なく高単価)、ニシン約4.5億円(人工種苗放流を実施)、ホタテ稚貝約2.2億円(オホーツク方面へ出荷)
※令和3年の石狩の鮭は単価が高く好況だったが、あまり単価が高いと加工業者の負担が多くなり消費者に敬遠される恐れもある。長い目で見ると、業界にとって道内全体が豊漁で適正な値段がつく方が望ましい。
また、できるだけ日本全国へ出荷することを目指しているとのことでした。
その後千歳に向かい、道の駅「サーモンパーク千歳」で昼食を取り、インディアン水車を見学しました。インディアン水車は、さけ・ます人工ふ化放流事業に用いる鮭の親魚を捕獲するための施設です。鮭がいっぱい遡上して川を泳いでいる様子を眺めることが出来ましたが、見学した時間帯には生簀から鮭を取り出す作業は行われていませんでした。
インディアン水車を見学した後、千歳さけますの森さけます情報館へ向かいました。
最初に情報館の隣にある千歳事業所で国立研究開発法人水産研究・教育機構(FRA) 水産資源研究所さけます部門札幌拠点 業務推進チーム長の佐藤恵久雄さんから「石狩川のサケ資源と北太平洋のサケマス~その現状と歴史~」と題するお話を聴きました。佐藤さんは札幌の中の島に勤務されているにもかかわらずわざわざ千歳迄来てお話をして下さったとのこと。また、佐藤さんは、石狩市の緑苑台にお住まいだそうです。
◇「石狩川のサケ資源と北太平洋のさけます~その現状と歴史~」
①サケの仲間(サケ科魚類)
サケの仲間は、イトウ属、イワナ属、サルモ属、サケ属の4つ。各属の種類は以下の通りです。
サケ属は、サケ、カラフトマス、サクラマス(ヤマメ)、ベニザケ(ヒメマス)、ギンザケ、マスノスケ、ニジマスの7種。
②サケの回遊
川で生まれて、海に出て大きくなる
海のくらし(アラスカまで)
海のくらし(アラスカ以降)
③世界のサケ属漁獲数と放流数
サケ属は北太平洋のみに分布し、日本はその南端。漁獲数(天然)は、サケ属7種のうち3種で98%、なかでもカラフトマスが断トツに多い。アメリカ、ロシア、カナダの漁獲魚は、放流由来より野生由来の方が多いと考えられている。
④北海道・本州の主なふ化場、放流河川(平成21年計画)
・北海道
108ふ化場、141水系、放流数10億尾
・本州
138ふ化場、108水系、放流数8億尾
⑤北海道におけるサケ定置網
定置網漁業権(サケ定置網)は、北海道知事が出す免許。全道で1103件ある。
⑥サケの放流数と来遊数(回帰数)
⑦明治3(1870)年以降の日本サケマス漁獲数と江戸から明治の石狩川周辺のサケ漁獲数
⑧国立研究開発法人水産研究・教育機構(略称FRA)
全国12か所、さけます部門の本部は札幌庁舎。
⑨さけます事業所
札幌庁舎の傘下に道内12のさけます事業所があり岩手県宮古市と宮城県塩釜市に本州技術科を置く。
⑩水産資源研究所さけます部門の主な業務
目的は、さけます類の資源を維持・管理すること。
・ふ化放流
・野外調査
・研究開発
・技術普及
⑪耳石温度標識
耳石温度標識は、温度変化により放流群毎に標識パターンを耳石に着けることが出来る大量標識技術。
耳石標識により、河川、沿岸や沖合で採集されたさけます類のふ化場起源を特定できる。
・分布・回遊ルートの解明
・条件を変えた放流効果の判定
・回帰資源量の予測
・ふ化場魚と野生魚の識別に役立つ
・耳石とは
頭部の脳の下にあるカルシウムが主成分の1対の骨。体の平行バランスを保つ働き(人にもある)。卵が発眼するころに出現、成長と共に毎日1本ずつ日輪を形成し、親になる頃には約5mmに成長。
・耳石温度標識の原理
・北太平洋沿岸各国のサケ放流数と耳石標識魚の割合
沿岸各国からは稚魚33億尾が放流され、そのうち42%が耳石標識魚。
日本は、1380百万尾の放流魚のうち17%が耳石標識魚。
・ベーリング海と北太平洋で再捕された耳石標識サケについて
日本系サケは、夏の間ベーリング海付近に分布することが耳石標識で分かった。この海域はサケの成長に重要な摂餌場所である。
⑫事業所で得られたデータの活用~その1
様々な時期・サイズの放流データや様々な時期・サイズの回帰結果(耳石標識活用)、放流時の沿岸水温データなどを統計モデルにより解析し、その結果に基づいて放流河川毎に、回帰効果が期待できる放流時期・サイズについての仮説を立案する。
⑬得られたデータの活用~その2
A事業所の例
・放流時期は5月中~下旬、サイズは1.15g以上で効果がある。
⑭得られたデータの活用~その3
管内のさけます増殖事業協会と連携協力し、放流方針の目標実現へ向けて活動。
⑮おまけのうんちく~その1
サケ属7種の中で、ベニザケの陸封型がヒメマス。ニジマスも海に降りるものがいる。
⑯おまけのうんちく~その2
サケじゃないのがマス?!
ベニザケは旧称ベニマス、ギンザケは旧称ギンマスで、サケ以外の6種のサケ属はマスと呼ばれていた。
⑰おまけのうんちく~その3
天平5(733)年に奏上された出雲風土記には、鮭、麻須、の記録がある。
⑱おまけのうんちく~その4
今も残るベニマス、ギンマス。
北海道規則第94号 北海道漁業調整規則の中に、べにます、ぎんますと云う呼称が今も残っている。
以上がお話の概要ですが、サケ属7種のことや放流について、また耳石標識についての詳しいお話は大変参考になりました。
佐藤さんからお話を聴いた後は、通常は見る事のできないふ化場を見学させてもらいました。
①別棟で採卵、受精させた卵をふ化槽に置く
②発眼した卵を養魚池で育てる
③生まれた稚魚は、飼育池で育てる
と云う3段階で放流魚を育てているそうです。
ふ化場の後は、さけます情報館を見学しました。
情報館では、放流事業についてパネル等で分かりやすく説明されていて、中央にはベニザケの親魚の水槽もありました。
情報館を出ると、流しソーメンのような樋が設置されていて放流体験が出来るようになっていました。
童心に返って、ひとり2尾ずつ放流体験をして本日の見学学習を終えました。
好天の下、鮭のことをたっぷり学んで大満足の一日でした。
お話をして下さった石狩湾漁協の和田専務さん、水産資源研究所の佐藤チーム長さん、千歳事業所の職員のみなさん、大変お世話になりありがとうございました。
最後に受講者から寄せられたコメントをご紹介します。
「すばらしい見学学習、有意義な一日に感謝しています。石狩湾漁協でのさけの荷捌き漁業者の人達の働きぶりそして松前なまりが楽しかった。よくわかりやすい説明、インディアン水車のさけの群れ、とても感動した。さけますの森情報館、千歳川の流れの美しさ、車から見えた田園風景、帰宅してから今日の資料をゆっくり見たいと思っています」
「石狩漁業協同組合のサケに対する取り組みも大変なことがよくわかりました。さけますの森さけます情報館等でも皆さんが魚との情報のやり取りで成り立っていると思いました。もっとたくさん食べるようにします」
「各見学先の説明が熱心で自分の仕事に対する誇りを感じた。鮭の水揚げなど見る機会がなかったので見学できてよかった」
「好天に恵まれ自然界の講座は素晴らしかった。魚の生態等の勉強の他環境の変化による漁獲の減少と身近な環境保全には国民一人一人が取り組んでいかなければならない」
「見学学習は、天候にも恵まれて楽しく大変満足感の考察でありましたよ」
「何時ながら天気も良く企画もばっちり充実の一日でしたよ」