6月22日(木)、主催講座4「石狩を取り巻く地震・津波環境と防災」の第1回「石狩市とその周辺で発生した地震・津波の歴史」を石狩市花川北コミュニティセンターで開催しました。講師は、北海道立総合研究機構産業技術環境研究本部エネルギー・環境・地質研究所主査の廣瀬 亘さん、受講者は43名でした。
はじめに廣瀬さんは「私の仕事は、地質調査、研究成果の普及、ジオパーク支援、3次元地質モデル、津波・噴火の調査、地質の問題、原因のわからない事故時の報道対応など、今必要とされている、これから必要になることを真っ先にやることです」と自己紹介され、本題に入られました。以下概要を紹介します。
《本日の講演のテーマ》
石狩市の地震・津波その歴史
石狩市の過去の地震の歴史については意外と知られていない部分が多いのではないかと思われるのでかい摘んでお話しする。
〇最近の地震:5月5日にあった大きな地震
・石川県能登地方で最大震度6強の地震が発生
・震源地は能登半島の突端あたり
ニュースなどでは、なぜこんなところで地震が起こるんだろうというニュアンスのものが多いが、専門家は、また能登半島で起きたかという認識である。
・家屋の崩壊や水道管の損傷なども起きている
日本は地震が多い国ということを改めて実感された方が多いのではないだろうか。
〇最近の石狩市はどうだろうか?
最近20年ぐらいで見ると、そんなに多かったわけではない。
・震度5弱:2018年の胆振東部地震
・震度4:十勝沖地震(2003)浦河沖(2016)胆振中東部(2019)
・2018年を除き年数回程度
・震度4以上となったことは少ない
◇石狩市の地震リスクは低いと言っていいのか?
答:極めて高くはないけれど、かと言って低リスクではない
〇地震についての基礎知識
◇地震はどのようにして起きる?
・大きな力がかかって、歪みが溜まって岩が壊れる現象が地震
◇地震という言葉に2つの意味がある。
・断層に沿って地盤がずれ動く~研究者の言う「地震」
・地震が発生したことによって地面が揺れ動く(地震動)
~マスコミ、一般の人が言う「地震」
◇地震による揺れ(地震動)で起きる現象
~建物の崩壊・津波・地すべり・液状化
・ネット情報や一部のニュースではこれらも"地震"と言っている場合があり、しばしば混乱を招いている。
◇地震の大きさを表す言葉にも2種類ある
・マグニチュード=地震そのものの大きさ
・震度=ある場所での揺れの大きさ
・同じ地震でも震源からの距離によって揺れの大きさが変わる。
〇石狩市で過去に起きた地震は?
最近(20年)の石狩市は、大きく揺れることは確かに少ない。
では、その前はどうだったか。
・北海道は詳しい記録は少ない
特に江戸時代以前の記録がない、地震の記録は幾つかある。
・石狩で最初に被害をもたらしたであろう地震は1792(寛政四年)の北海道西方沖地震(石狩湾西沖合)。数十年間隔くらいで起きていることがわかる。
◇これらの地震はどこで起きたか?
・地震は起きた場所や規模によってもたらす被害が変わってくる。それを知るためには、北海道のどこで、どのような地震が起きているのか知る必要がある。
◇北海道で過去110年間に起きた地震の震源
マグニチュード2以上、北海道の地震の多さを実感できる。
◇北海道で過去10年間に起きた地震の震源
図の丸の色と大きさの違いは、震源の深さの違いを表している。
・深さに注目して色分けして見ると明らかに傾向が見える。
(1)太平洋側の地震~プレート境界型地震
北海道の近く、太平洋側でプレートが沈み込んでいるという話を聞いたことがあると思う。
岩盤が沈み込んでいく深さによって地震が起こる。
・石狩あたりは、プレート境界型地震の起こる深さは200~300キロくらいになる。
・太平洋側で起こった地震:2003年の十勝沖地震、2011年の東北地方太平洋沖地震
・今後30年の間に起こるといわれるマグニチュード8クラスの地震だと、石狩でも大きく揺れることになるであろう。(次回に)
(2)北海道内陸の地震~内陸型地震
内陸の断層周辺、火山の周辺の浅い所で起きる地震
地震の規模は、小さいものから大きいものまであるが、小さくても近くで起きれば被害をもたらすこともあり得る地震。
(3)日本海の海底で起きる地震
〇石狩市に影響を及ぼす地震は
・太平洋側で起きるプレート境界型地震
・北海道の陸域でおきる内陸地震
・日本海東縁周辺で起きる地震
~このどれかにあてはまる
◇石狩市で記録のある地震はどれに相当するのか
青色の日本海側で起こった地震が圧倒的に多い
〇日本海の海底で起きる地震左図:まんべんなく散らばっているのではなく、震源が集まっているところがある。
1)地形との関係を見る
・地震が起きている辺りには、地形の段差がある
海底地形を見ると、南北に延びる沢山のシワ~地形の段差
もともと平坦だった海底が断層でずれてできた層(活断層)
・海底活断層の地形はどのようにつくられる?
①海底に泥や砂が堆積して地層を作る
②地震発生~断層が動き地層をずらし、崖を作る
③崖の上に、泥や砂が堆積する(小さな層は完全に埋まる)
④地震よって岩盤がずれ、沈降や隆起をくり返している
・これまでに地震(と津波)を発生させた領域
2)石狩周辺で起きた地震
①1792年6月13日(寛政四年四月二四日)の地震
わかっていること
・積丹半島の神威岬沖合で発生?
・地震の規模:M7.1(7.3とする説もある)
・積丹半島で震度5?小樽でも揺れを感じる
・津波の高さは積丹半島で3m以上
・津波により5人死亡(美国でも若干溺死?)
石狩では何が起きた?
~記録がないため、わからない
・イシカリ場所・アツタ場所の被害状況も不明
・震源や規模の近い1947年の地震から推測すると、震度2~4ぐらいだったのでは
・津波も到達していた可能性がある(高さ不明)
②1940年(昭和15年8月2日)の地震
わかっていること
・積丹半島の西方沖で発生
・地震の規模M7.5(この頃は各地に観測地点があり、地震規模推定の精度がやや向上している)
・羽幌で震度4、札幌、寿都、旭川などで震度3
・津波の高さは利尻で3m、天塩・羽幌で2m、小樽で1.5m
・津波により天塩で10人死亡~慰霊碑を建立し語り継ぐ
・建物全壊26戸、漁船破損多数
・この海域は500~1000年間隔で地震発生?
石狩では何が起きた?
~被害について特に記載がない
・周辺地域の揺れ方から、震度3~4ぐらいだったのでは
・津波は浜益(茂生)で1.2m、石狩川河口で0.14m(験潮記録
で最大振幅74㎝)という記録がある
・1mの津波:防波堤を超え、港は浸水する。低地にある家は津波を被る。人間は抵抗できず流される規模であり侮れない。
③1947年(昭和22年)11月4日の地震
わかっていること
・留萌の西方沖で発生
・地震の規模:M6.7 (胆振東部地震とほぼ同じ規模)
・留萌・羽幌・倶知安で震度4、稚内などで震度3
・津波の高さは利尻で2m、羽幌で0.7m
・漁船に被害(終戦直後の混乱期でもあり詳細不明)
石狩では何が起きた?
~被害については特に記録がない
・周辺地域の揺れ方から、震度3ぐらいだったのでは
・津波の記録なし
④1959年(昭和34年)11月8日の地震
わかっていること
・積丹神威岬北方沖合で発生
・地震の規模:M6.2
・小樽で震度4、札幌・留萌・羽幌などで震度3
・津波の記録なし
・小樽で軽い被害の記録があるが詳細不明
石狩ではなにが起きた?
~被害について特に記録がない
・周辺地域の揺れ方から、震度3ぐらいだったのでは
・津波は記録なし
⑤1983年(昭和58年)5月26日の日本海中部地震
わかっていること
・青森西方沖合で発生
・地震の規模:M7.7 (十勝沖地震よりやや小さい)
・青森~秋田で震度5、札幌・留萌などで震度2
・津波などにより死者104人
震源が陸に近かったので揺れてから短時間で津波到達。
・被害総額1243億円
石狩ではなにが起きた?
~被害について特に記録がない
・周辺地域の揺れ方から、震度2くらいだったのでは
・津波は新港で1m、浜益(茂生)で0.75m
⑥1993年(平成5年)7月12日の北海道南西沖地震
・地震の規模:M7.8(日本海で起こる地震としてはやや大きい)
・津波の遡上高は30m:10階建ビルの高さ
石狩ではなにが起きた
~被害について特に記録がない
・70㎝の津波:海岸線付近に居たら流されるような津波
◇日本海東縁周辺の地震のまとめ
・過去の地震では、石狩市付近では震度2~3程度であることが多かっただろう
・津波の高さは1~2mに達する事例もある
~津波が到達する地域では避難が不可欠
ただしこれは、これまで2~300年間の事例であり、北海道南西沖地震のような大きめの地震が、石狩沖で起きないと確定しているわけではないことに注意
〇内陸の地震、太平洋の地震
石狩地震、北海道胆振東部地震、平成15年十勝沖地震
◇1834年2月9日(天保五年一月一日)の石狩地震・多くの記録が残っているのである程度活動を推察できる
〈天保雑記〉
・イシカリ場所:アイヌと和人との交易のあったところ
・人馬怪等無:建物などが倒れても人馬に被害がないとのことなので、逃げることで被害を免れたと推測される
〈松前町年寄詰所井番日記〉
・揺れによる被害、地震発生とそれをうけた松前藩の対処まで時系列が詳しく書かれていている
〈松前家譜〉
・西蝦夷:日本海沿岸(松前から稚内へかけて)
東蝦夷:太平洋側(函館から日高、十勝、根室)
苫小牧や千歳辺りで地震を感じたとすれば東夷で整合
◇古文書には、石狩地震とは別の情報も紛れている
(笠原・宮崎、1998が検証)
・松前群役所報告:「海嘯両三回二至リ、沿岸の家屋数十ヲ洗ヒ去リ」
~おそらく、1833年12月7日(天保四年十月二六日)の庄内沖地震(M7.5)による津波の記録(松前で2m)を、大日本地震史料(震災予防評議会:1941)編纂の際に一括したか(日付を誤っていると解釈した)
・統王代一覧後記:「正月望日暁卯刻江戸小地震」
~朝6時の地震なので、10時に起きた石狩地震とは別の地震
・御日記(津軽):「申刻地震少し」
・遠山家日記(八戸):「正月元旦 晴 夕方 地震」
~申刻(16時)・夕方の地震なので石狩地震とは別の地震
・こうした石狩地震と関係ない情報を除くことで、石狩地震の実態をより的確に把握できる。
◇地形地質からみた、石狩地震の痕跡
札幌や石狩で遺跡の発掘現場で液状化の痕跡がみつかることが
ある。
・黒土の中に砂の脈ができて砂が吹き出したような跡がある
・断層に亀裂ができていて、砂が入りこんでいる
・左図の黄色い丸は、亀裂が見つかった場所
・液状化は、石狩低地(石狩~苫小牧)全域で見つかっている。
ただ、石狩地震に相当するような液状化は札幌北部から石狩紅葉山あたりに集中している。
①地盤の液状化(イメージ図)
②北大構内で見つかった、噴砂の模式断面
いくつもの時代に形成されているが、一番新しいものは、樽前山から飛んできた火山灰(1939年)を貫いており、石狩地震に該当する液状化。
◇1739年以降の地盤液状化の分布範囲は限られている
・札幌の北部~石狩(北大から北、麻生、新琴似、紅葉山)にかけて集中して、その時代の噴砂が見つかる
・石狩地震(M6.4)では津波が起きていなかった可能性も考えると、実際はもっと内陸で起きていたのかもしれない
◇石狩地震の実際の姿
・石狩川河口や石狩湾ではなく、札幌~石狩にかけての内陸で発生
・地震の液状化を起すくらいの強い地震(震度5強以上)
・当時は内陸の人口が少なかったので、人的被害は大きくなかった
■次の地震ではそうはならない
~もし今、石狩地震相当の地震が起きたらどうなるか
・札幌、石狩には多くの人々が住んでいるので、新しい建物は問題ないが、古い家屋は大きな被害を受けるかもしれない。
〇石狩周辺の内陸で起きた地震(石狩地震)
・内陸地震なので、津波は考えなくともよい
・震度5強(ないしそれ以上)に達することがある
~同じく内陸での地震だった胆振東部地震の際に厚真や安平周辺で発生した災害を参考に、斜面崩壊、地盤液状化、家屋での
被害を念頭に対策をしておく必要がある(*次回お話しする)
◇石狩から離れたところで起きる地震の影響
遠くで起きた地震だから大丈夫だろうという話ではなく、実は深刻な問題がある。
◇2003年十勝沖地震
・M8.0とかなり大きかった
(阪神淡路大震災:M7.3 胆振東部地震:M6.7)
・津波による死者1人(行方不明1人)
早朝だったので海岸にあまり人がいなかった。何回も津波を経験している地域でもあり、海岸に大きな集落が集中していない。
・一方で石狩では、建物などに被害が発生。
◇なぜ、震源から遠く離れているのに被害が出ている?
~地震の波の伝わり方
・短い周期で激しく揺れる地震~落下物、崖崩れ
・大きな周期でゆらゆら揺れる(長周期地震動)
◇堆積物が数㎞以上も厚く堆積している石狩平野
地形図と断面図とを対比するとわかりやすい。
お椀の中に水を浸したような形で堆積物がたまっている。
◇石狩平野では、地下の浅いところに軟弱地盤が発達
緑色:軟弱地盤の厚さ10m~20mぐらい青色:軟弱地盤の厚さ30m~60mぐらい(石狩)
これらも地震動を効果的に増幅する。
①2018年北海道胆振東部地震
・胆振東部の内陸で発生
・地震の規模:M6.7
・石狩平野周辺で震度7~5弱
・死者:43人(斜面崩壊によるもの)
・地盤液状化、斜面崩壊、ブラックアウトなどの現象発生
・北海道全域にわたって社会に深刻な影響を与えた
◇このとき、石狩ではなにが起きた?
・黄色:震度5弱(石狩) オレンジ:震度5強(札幌)
・一部損壊:壁の亀裂、窓ガラスが割れるなど
なぜ、震源から80㎞も離れているのに被害が大きい?
・胆振東部地震でも震動の増幅と長周期地震動の影響があった
・石狩市周辺での構造物の損傷、地盤液状化の痕跡
生振:茨戸川堤防に軽微な亀裂
農地で地盤液状化による噴砂発生
〇太平洋周辺など遠くで起きた大きな地震
(2003年十勝沖地震・2018年北海道胆振東部地震など)
・津波は基本的に考えなくともよい
・地震波の増幅、長周期地震動はほぼ必然的に発生する
・地震の規模にもよるが、遠くで発生した地震だから揺れは小さいとは限らず、震度4(ないしそれ以上)に達することもある。
・地盤液状化に伴う地盤沈下や道路、橋梁の損傷、断水などインフラへの影響は大きい
・揺れの大きいところでは住宅の損傷や家具の転倒などが起こりうる
◇緊急地震速報などへの対応
携帯が鳴ったときにどう判断し行動するか(廣瀬さんの場合)
・警報が鳴ったとき、揺れ始めているかどうかで判断
・揺れ始めている:近くの地震。とにかく身を守る行動をする。机の下に隠れる、窓からはなれるなど
・緊急地震速報が出ていない時:遠くの大きな地震。大きく揺れ始めるまで若干の時間があるので、大きな揺れに備えて行動する
・緊急地震速報は地震から身を守るという意味で非常に有用な情報である。
最後に廣瀬さんは、石狩市ではどんな地震が想定されるかをベースになる過去の記録を話してきました。決して地震が起きていなかったわけではなかった。遠くの地震だからと言ってけっして安心できるものではない。ということも分っていただけたと思います。では、どう備えればよいのかを次回にお話しします、と結ばれました。終了後受講者からの質問にも丁寧に答えていただき、ありがとうございました。
最後に受講者のコメントをいくつか紹介します。
「震源地が遠く離れているからと言って安心できない。長周期地震動というものがあることがわかって、やっぱり地震には十分な注意が必要と思いました」
「ていねいに作成された資料が大変良かった。ただ北海道の外形の線がコピー図では分かりにくいのは残念でした」
「石狩もいつ地震が起きても不思議はないことを知らされた。次は災害に備える講座、期待しています」
「過去の地震の発生については大変良く解りましたが、、。人は地震の予知が出来るものでしょうか(又はAIでの予知は?)。震度とマグニチュードの違いを知りたい」
「歴史の流れがよく理解でき、石狩周辺をあらためて考える事が出来た。災害マップの見直しをします」
「頻発している地震、その中でも石狩市に焦点をあてての説明は大変理解しやすく切実感もあり学べた。よい企画、講師の方だと思った。備えあれば、、、との言葉に意識するきっかけになった」 「地震は身近なものなので、自分の住んでいる地域はどのようなところなのか、是非とも少しでも情報を得たい、ということから詳しい説明でありがたかった」
「厚真の地震ですが、前日の夜の強風が地震の起因とどう関係しているのでしょうか?我家では、前夜の強風が恐ろしく感じられた」
「分かりやすかった。実は"意図的な"人工大地震がけっこう昔からあったという説もありますが、その辺の真偽も含めて知りたい。親船に大きな津波が想定されているそうですが、温泉横の空建物も再活用できないかと思う」
「講師は今日の内容を熟知して発表されていました。ただ、早口で進行されたので聞きもらしも多く感じられた」
「石狩市とその周辺で発生した地震について知る事ができ、大変勉強になった」
「液状化の説明はやや解りにくかった」
「詳細な資料と説明で十分に理解できた」
「疑問であった部分が少し分かったように思う」