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まちの先生企画講座1「羊飼いの生活」第1回「羊という動物の特徴とその農産物」

2024/05/10

 令和6年5月2日(木)まちの先生企画講座1『羊飼いの生活』の第1回「羊という動物の特徴とその農産物」を石狩市民図書館視聴覚室で行いました。今回の講師は石狩ひつじ牧場経営者の山本知史さんで、受講者は23名でした。
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 山本さんは、福井県敦賀市出身で、大学から東京に出て29歳になって初めて北海道に来られました。33年間北海道で暮らしていて今後もここで暮らし、ここで骨を埋めるつもりですと話され、講座を始められました。

 以下にお話の概要を記します。
1.中学校の理科教員をしていた
・東京学芸大学を卒業して江戸川区立の中学校で理科教員になった。その後、29歳の時に北海道の教員採用試験を受けて紋別市の中学校で3年間理科教員をやりました。
・学校は荒れていて、精神的に参ったことなどもあり、32歳で先生を辞めた。辞めたいことを奥さんに伝えると「辞めても良いがこれから何をするの?」と聞かれて「ワインを輸入する仕事を始めたい」と答えて認めてもらった。
・ワインの輸入をしたいと思ったのは、ビートルズが好きでロンドンのリバプールに新婚旅行で行った時に、初めて飲んだドイツ産白ワインが非常に美味しく、その味が忘れられなかったからです。
・ワインを輸入するためには免許が必要で帯広の税務署で酒販免許を申請したところ、条件が非常に厳しく容易には取得できないことが分かった。
・帯広にドイツのテーマパークであるグリュック王国があり、そこでドイツワインの販売をやっていたので、そこの社長に連絡したところ、直ぐに雇ってくれた。しかし、その会社の労働条件があまりにも酷く、2ヶ月で辞めた。辞めたことを奥さんに言えず毎日帯広市立図書館に通って英語の勉強をした。ワインの輸入をするためには英語が必要と考えたからである。
・その後紋別に行き、生徒の親が社長をしている水産会社からホタテの貝柱や干物を卸してもらって、帯広市内のスーパーやディスカウンター店、生協などで販売した。ホタテのつかみ取りなどを考案して売ったところ人気になり、かなりの利益を上げることができた。
・ワインの輸入ができるようになったので札幌のロビンソン、三越、東急などにワインを卸し自身のワインの棚も持てるほど非常に売れ、百貨店側の評価も高かった。たまたま客として来ていた登別湯本の女将さんが試飲して12本入のワインを3ケースも買ってくれたこともあった。その時に女将さんからチーズの輸入を勧められた。
・チーズの輸入には免許が要らないので、早速輸入して東急でチーズも売ったところ、これも非常に売れて当時の記録を作った。現在は札幌グランドホテルや札幌パークホテルなどの料理長に直にチーズを卸したり、札幌市新琴似にある「チーズマーケット」で金・土曜日のみ販売を行なっている。

2.そして羊飼いになった
・49歳まで自分はいつまでも生きられると信じていたが、俳優の菅原文太が70歳で亡くなったことから自分にはあと20年もないと思った。何か思い切ったことをやろうという気持ちになった。
・他人が作ったチーズを売って儲けていてもしょうがない、自分で作って売ろうと思い立った。最初は道内の羊牧場から乳を買ってチーズを作ろうとしたが、道内には肉用の羊(たとえばサフォーク種)がほとんどで乳用の羊はいなかった。サフォーク種の羊は貧乳で期待した乳量は得られなかった。
・それでは生きたままの羊を輸入しようと思い、オーストラリアに行き、80頭の羊を輸入した。1頭が45万円、30頭は自分用として買い、残りは松尾ジンギスカンや道内の羊牧場の分として、代理で輸入した。
・30頭の羊を55歳の自分と近所の70歳の男性と二人で飼育したが、かなり苦労した。羊は乾草を食べるので大量の水を飲むが、新たに掘った井戸は浅くて、冬になると凍って使えなくなった。そこで近くのガソリンスタンドから水をもらってポリタンクで毎日何回も運んだ。この水問題は外に出た羊がたまたま雪を食べ始めたことから、突然解決に至った。
・経済的な面でも大変苦労した。30頭の羊の輸入、井戸掘り、3棟の畜舎の建設、土地代などで約5,000万円かかった。特に、新型コロナが流行した時は非常に苦労し、畜舎に火を点けて廃業しようかと真剣に考えた。
・苦労したが何でも自分でやったことは良かった。大型除雪車の運転ができる大型特殊免許や電気工事士の資格も取り、12畳位のログハウス建設は基礎工事から外装、内装、給排水、電気工事などを全部自分でやった。現在の自分の趣味は「自分でできることを増やすこと、何でもやれるオッさんになりたい」である。

3.羊という家畜の特徴と様子
 牧舎内には5台のカメラが設置されていて羊の様子が常時ライブ動画としてYouTubeで流されている。市民カレッジの講座担当者がその動画を講座会場の正面スクリーンに映すようにしたが、山本さんは動画を見て時々羊の様子や特徴について説明した。
・下半身のみ毛が刈り取られた羊が何頭もいるが、技術的に難しい下半身を私が先に刈り取り、従業員がいずれ頭などの上半身を刈ることになっているからです。
・以前、毛を刈り取った時に誤って下半身の陰茎を切ってしまったことがある。獣医師に電話したところダメで、テグスを買ってきて自分で縫って何とかなった。
・毎日午後4時頃に餌をやるが、餌を撒いても食べに来ないで壁側に立ったままの羊がいれば要注意で、別室に連れて行って病気か検査する。いつも注意深く観察している。
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・苦労して輸入した30頭のうち10頭の羊が麦を食べすぎて死んだことがあった。牧舎内に放置してあった麦を食べてしまったのである。獣医さんに頼み、腹部を切開したところ、4個ある胃の第一胃にはバケツ一杯の麦が入っていた。野生動物は食べる量を自分でコントロールするが、家畜は食べられるだけ全て食べてしまう。羊は家畜なのです。
・羊の寿命は約20年、2歳で子どもを産む。
・今日刈り取ったばかりの羊毛が受講者全員に配布された。羊毛はヨーロッパでは断熱材に使われているが、その他の利用方法について考えて欲しいと受講者にアイデアを募ったところ、早速いくつかの提案の声が上がった。
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・羊には捨てる所がない。羊の毛の皮膚の下にラノリンという成分があって香りの良いクリームとして利用できる。オーストラリアではラノリン入りのハンドクリームが一般的に使われている。受講者も手につけて試したところ非常に良いとの評判であった。山本さんから、石狩でこのクリームを作って誰か売ってみませんかと声をかけると、早速手を上げる受講者がいた。

4.実現しつつある二つの大きな成功 
4−1 日本初のJAS有機畜産物の生産
・有機野菜はよく知られているが、羊肉で有機というものは無い。調べると、5ヶ月歳未満の羊が6ヶ月以上有機の環境で飼育されると"有機畜産物(羊肉)"として認定されることが判った。
・国土交通省の河川事務所から「石狩川の河川敷で羊を放牧してみませんか?」と声をかけられ二つ返事で引き受けた。石狩川の両岸に続く河川敷の草地の除草のため毎年多額の税金が使われている。羊を放牧することで除草費用の大幅な削減になり、畜産農家は、餌代の節約にもなる。さらに、何よりも河川敷は農薬や化学肥料が一切使われていないので、ここの草を食べて育った羊はJAS有機畜産認証を取得できる。これがスーパーで販売されれば、消費者は安心が得られる。
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・一昨年から「石狩ひつじ牧場」を一般公開したところ多くの人が訪れるようになった。一昨年9月に「第1回石狩川ひつじまつり」を開催したところ700人以上の人が集まり大盛況であった。昨年度は、来場者が千人を超えた。
今年は「石狩川ひつじまつり」を9月1日に開く予定である(会場未定)。


4−2 "石狩ひつじブルー"の生産
・チーズは一般に牛や山羊、水牛などの乳から作られ、カマンベールやモッツァレラ、ゴーダチーズなどの名で売られている。一方、羊の乳から作ったチーズは生クリーム感があって最も美味しい。牛乳の乳脂肪分が3.6%であるのに対し羊の乳脂肪分は7.0%もあり、これが美味しさの原因である。
・世界で一番美味しいチーズはフランス産のロックフォールだと言われている。ロックフォールは羊乳から作られるブルーチーズである。石狩でも作りたいと思い色々苦労した結果、ようやく作ることができた。「石狩ひつじブルー」チーズの誕生である。
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 90分間の話を聞きましたが、山本さんには不思議な力があるように感じました。
周りを巻き込み、それを取り入れる柔軟性と優れた力、思いつきやアイデアを直ち
に実行に移す行動力と、それを何とかモノにする不思議な力がある。
・疲れたから10分間休憩を取ろうと言いながらそのまま話し続ける話好きと忍耐力

 次回の講座は石狩川河川敷の放牧地を見学する予定です。受講者一同、楽しみにしています。
 
 最後に、受講者の感想や意見のいくつかを以下に紹介します。
「経験に裏付けられた本音トークが大変勉強になりました。この様な企画を増やして下さい。何か協力できることがあればと思います。この企画を提案して良かったです!」
「自然体で講座が進められ豊富な話題で、あっと云う間に5:00になりました。ありがとうさん」
「羊についての楽しいお話を聞けてよかったです。羊毛の活用やハンドクリームなど、無駄なく利用すること」
「とても楽しいお話でした。夢があり、未来があるお話でした。ぜひハンドクリーム作ってください。たくさんの元気いただきました。ありがとうございました」
「試食があればよかった」
「2大成功のお話を聞き石狩にも羊飼いさんのプロジェクトチーム、楽しみです」
「大変面白く魅力ある生き方をしている山本さんに感動しました。楽しく聞きごたえありました」


 



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