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主催講座4「石狩海岸を知る」第2回「石狩海岸の自然とはどういうものか」

2024/07/05

613日(木)主催講座4「石狩海岸を知る」第2回「石狩海岸の自然とはどういうものか」を花川北コミュニティセンターで行いました。講師は北海道大学大学院農学研究院講師の松島肇さん、受講者は27名でした。

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 【要 約】松島先生は学生時代から24年間、石狩の海岸と関わってきたなかで、2011年東日本大震災を経験し、改めて石狩海岸の自然には学ぶことが多くあり、都市圏に残された自然草原としての希少性だけでなく、その成り立ちの仕組みや残された遺伝資源を調査解明することで、都市の再生に関するヒントや人類にとっても有益な資源が存在している可能性が紹介されました。

 衛星写真やドローン映像で紹介された石狩海岸は、色分けされたように植生が帯状に分布する成帯構造が一目でわかります。自然度の高い希少な砂浜海岸の持つ豊かな生態系からは様々な自然の恩恵があり、後背地の都市圏を守る防災機能も併せもっていること、石狩海岸をお手本にした海岸再生の取組についても紹介されました。

 石狩市が自然環境を残すことは生き物だけでなく私たちの生活にも重要な事であり、行政・市民一体の取組が必要とのことでした。

【概 要】

 学生時代から24年間石狩の海岸に関わってきました。生まれは福井県、育ちは千葉県、海岸にはマツがあるのが自分の原風景でした。ところが石狩に来たらマツがない茫漠とした風景でした。

 調べていくと石狩の海岸が本当の海岸なんだと、人口200万人の都市圏の近くにこのような自然海岸が残っているのは凄いことだと気付かされました。海岸のマツ林は人工的に造られたものです。江戸時代から人口増加に伴い海岸砂丘を農地に転換していった。そうしたら風で砂が飛んでくる。これを防ぐため成長の早いクロマツを植えたものです。

石狩海岸の注目ポイントは

〇自然度の高い希少な砂浜海岸!

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〇様々な自然の恩恵があった!

〇これからの海岸整備のお手本!

・・この姿を見本にしていくと持続的な都市づくりの参考になる事例を紹介します。

1 東日本大震災

 石狩に来た頃は自然を守っていかなければとの思いが強くありました。2011年の東日本大震災から意識が変わりました。仙台平野でも9mを超える波が、まるで海面上昇のように襲ってきて、仙台空港を飲み込み内陸3kmまで到達しました。

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 20116月、震災から3ヶ月後に石狩市とも繫がりのある名取市閖上地区に地元の関係者の案内で足を踏み入れました。震災前は住宅地が拡がっていましたが、全て流され、伊達政宗の時代から植えたられたマツ林があったところも全て流されてしまっていました。復興事業で植林もされているが13年たった今も2mいくかどうかといったところ。ところが、海岸に行くと何事もなかったかのように海浜植物が花をさかせていて、自然の力は凄いなとあらためて痛感しました。人にとっては未曽有の大災害でしたが、海岸の自然生態系にとっては定期的に発生する攪乱の一つであり、むしろ環境がリフレッシュされていたということが分かりました。

 印象的なのは気仙沼のカキ養殖では震災後、よりおいしいカキが採れるようになったとのことです。湾内に溜まったヘドロが攪乱により流され、環境改善されたからです。

 今までは、自然は守っていかなければ残らないという意識でしたが、実は気づいていなかっただけで私たちが自然に守られていたのだということに気づきました。

 3年後、海浜植物の再生してた海岸砂丘は防潮堤に置き換えられてしまいました。まず防潮堤を作ることから復興計画が作られるとのことで、仙台平野では高さ7.2m底辺30mの防潮堤が造られ、海岸沿いに福島県から青森県まで総延長約400㎞に及んでいます。三陸のリアス式海岸では高さ21mのものも造られている。我々も生態系が分断されることを懸念事項として自然復元を提言していましたが、工事は進み、13年経って多くの海岸で海側と陸側で生態系が分断されてしまいました。

2 石狩海岸の特徴 

 砂浜海岸では砂に耐える植物が埋もれては成長しをくり返し、次第に砂がたまり砂丘となります。日本の気候では海岸砂丘は通常、草原になります。実は鳥取砂丘にも草が生えているのですが、観光のため人の手で砂漠風景を作り出しているのです。石狩では自然の風景が残されています。

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 226万人が石狩の海の周りに住み、砂浜海岸が25㎞にわたり残されています。中心は石狩湾新港がありますが、自然草原と後背地にカシワ・イタヤカエデ・ミズナラが優占する天然性の海岸林が拡がっています。

衛星写真で紹介  砂浜海岸~みどりのベルトが拡がっている

逆方向から見た写真 きれいに砂浜 薄い緑色の海浜性草本、濃い緑色の内陸性草本、ぼこぼこ と見える低木、環境に応じて帯状に群落、成帯構造=ゾ―ネーションといい植生の空間遷移を確認できます。

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エコトーン(海から陸への生態系の連続的変化)を断面図とドローン写真で解説。

連続的にグラデーションのように変っていくのがよくわかります。

海からの距離で変っていくが石狩海岸の砂丘の高さは8mから12mあります。仙台の海岸は高さ72m延長400kmの防潮堤が1兆円をかけて造られ、さらに毎年維持管理費がかかります。石狩海岸は砂丘により0円で津波から守られ、破壊されても勝手に修復してくれます。

3 エコトーンとは

 異なる生態系が隣接して繋がっていることで、人が手をかけなくても自然に補完しあってくれる環境です。このためには幅を広く残さなければならないことが分かってきました。

 例えば、砂浜が冬の嵐で大きく浸食され、背後にあった砂丘も波で削られて、3mほどの浜崖が形成されましたが、その年の夏には砂浜が40m回復し、段差も50cm程度まで戻っていました。これは砂丘が貯めていた砂を自身が崩れることで砂浜に戻したり、山から川を伝って砂が供給されたためと考えられます。つまり、砂丘と砂浜とのつながり、山と海との川を介したつながりが大切出ることを示しています。残念ながら、全国的には河川改修が進んだことで山からの砂の供給が止められ、結果として砂浜が減少しています。

 海面上昇が100年で80cm上昇すると予測されています。一見大したことでないようですが、日本の砂浜傾斜が平均4%といわれていますが、これは10mで40㎝高くなるということですので、海面が80㎝上昇すると20mの砂浜が水没する計算になります。結果として100年で砂浜の90%が消失するといわれています。

 栄養の循環も大切です。一般には山から海へミネラルが河口に運ばれ豊な海になります。山からは流れていく一方だが、唯一戻ってくるのはサケ。失う一方の山に栄養を持ち帰ってくれます。 

 砂浜も同様にクジラとか小魚・海藻など、打ち上げられたものが陸に栄養を戻してくれています。そのため、砂浜が無くなると循環も失われてしまいます。

 昔はほとんどの日本の海岸も石狩のような砂浜海岸でしたが、開発や浸食の影響でほとんど残っていません。

 苫小牧の写真ですが、海岸のすぐ裏には住宅地が拡がっています。土木技術の進歩は人の住めないところに住めるようにしてくれました。本来は緩衝帯として砂丘が拡がっていましたが、人間社会が津波や高潮のリスクの高い場所に近づいてしまった例です。

 有珠山は60年毎に噴火しますがそれでもそこには人が住んでいます。無人島では噴火は自然現象ですが、そこに人がいると災害になります。2004年広島県で起きた豪雨災害ではハザードマップで危険地帯とされている場所でした。

 残念なことに歴史は繰り返すようで、リスクが高い場所であっても、何十年に一度のリスクと地価の安さを天秤にかけて再び若い世代が移り住んでいます。

 北海道は自然状態の砂浜海岸が海岸線延長の3割程度残っていますが、後背地の砂丘(海岸草原)まで自然状態で残されているのが特徴です。日本では草原はすぐ森になってしまいます。

 日本の国土の7割は森、草原は1%、なかでも海岸草原は0.1%しかありません。石狩の自然度は札幌圏の人口規模を考えると都市近郊としてはダントツ日本一の自然草原といえます。

 ドローン映像を紹介――海から陸へ、3040mの砂浜、海岸線の変化、距離に応じて変化する植生や風景、石狩市街、札幌、緑の防波堤で守られている様子が分かります。

4 海岸砂丘が残されていることでどんないいことがあるか

 砂浜海岸の恩恵(生態系サービス)

 ・生態基盤(基盤サービス)

 ・自然堤防(調整サービス)

 ・食料・水(供給サービス)

 ・レクレーション(文化サービス)

①供給サービス:ハマボウフウ(高級食材)、砂浜の下では淡水、比重の関係で淡水の水溜まりができます。塩水は下に、上に淡水がたまります。東日本の被災地でも砂丘の井戸で水を確保していました。千葉県では海岸に沿って酒蔵があり、魚に合うお酒が造られている。

②基盤サービス:光合成や生物多様性など

 動植物は前回の講座で白畠さんが紹介しているので2つだけ紹介します。

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 〇アカダマスッポンタケ 100年前に新潟県で確認後、絶滅したと思われていたが石狩で再発見されました。開発されずに残されていたためですが、特に菌類は十分調査されていません。菌類は薬品の原料になったりする有用な遺伝資源となる可能性があります。自然度の高い草原は色んな可能性を秘めています。

〇イソコモリグモ  タランチュラの仲間でネットを張りません。砂浜に直径1㎝、深さ20cmの巣穴を掘り、メスは卵を産んで子どもを育てています。 昨年撮った動画を紹介。5月背中に子グモを乗せている様子。6月子グモが巣立ち、5mmくらいの巣穴が見られます。巣穴の入り口を糸で固めています。学名にイシカリがついている(Lycosaishikariana)、石狩を象徴する生き物で砂浜と砂丘がセットで残されていることが必要。本州以南の太平洋側では震災後絶滅してしまったと考えられています。石狩でも新港を挟んで銭函方面にはいません。

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 ③基盤サービス:自然堤防について

 第1砂丘が高さ46m、第2砂丘で812mあり札幌圏を守ってくれています。

ハザードマップでは津波高さ6~7mを想定していますが、砂丘の所で止まり、もし壊れても自分で修復してくれます。

④その他、文化的なサービスとしては色んなサービス(恩恵)があります。貴重な食材のハマボウフウの食べ方講座や、先週開催のハマナスフェスティバルでは利用しながらハマナス群落を再生する活動が行われていました。

 残念なことはゴミの放置や、車両の乗り入れで、80年代から被害が顕著になりました。市や道などが行ったロープ対策などで被害は減ってはいますが、砂地はタイヤで簡単に掘り起こされてしまうため、適正な利用のコントロールが必要です。

 市民によるパトロール活動やモニタリング活動、子どもたちと一緒に環境を守る活動など、市民の主体的な関わりによって保全されています。一緒に活動することが大切です。

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5 石狩海岸を見本とした社会課題の解決事例

 石狩の海岸を参考に仙台の海岸で防潮堤を砂丘化することで自然のつながりを復元する試み。

 河口の浚渫する砂使い自然植生が回復することを確認しました。副次効果として防潮堤の保護効果が確認され、生き物ももどりコンクリートも長持ちするといった相利関係が出来つつあります。

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 石狩市では浜益区の川下海水浴場で砂丘の復元試験を行っています。ここでは飛砂害が深刻で、毎年堆積した砂をコストをかけて戻していました。2021年から砂丘の復元による飛砂防止を行っていますが、砂丘の復元による生態系の回復効果と飛砂防止効果が確認されました。

環境を残すことことは生き物、私たちの生活にも重要な意味のあることです。多くの皆さんに自分事としてご理解いただくため、イベントを企画することもあるので、皆様の協力をお願いします、と述べて講演を終えた。

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【その他】司会者から松島先生共著の石狩叢書③「石狩海岸の自然誌」を回覧紹介した。

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 受講生のアンケートを紹介します。

「石狩海岸の希少性と恩恵について学び、私達が守られている事を知りました。失われた自然を復元するための時間と労力を守り育てるために活用したい。素晴らしい講義ありがとうございました」

「石狩海岸は他にほとんど残っていない自然度の高い海岸で、それによって我々の生活が守られていることが良くわかりました。石狩海岸を見本とした社会課題解決の話も大変興味深かった」

「永年石狩に住んでいて気が付かなかった植物、昆虫を教えてもらい有難うございました。これからはなるべく図鑑をもって海岸に行くようにします」

「カシワ林をわかりやすく説明していただき大変勉強になりました」

「新発見あり、再確認(より深く)ありの大変興味深くて為になりました。又、東北復興の話や、石狩と宮城野つながりは人的交流も含め、とても感動的でした」

「自然の力、砂浜の力を感じました。ありがとうございます」

「自然によって人間は守られている・・・この考えは新鮮であった。自然破壊が多い・・火事。鳥取砂丘は草を抜いてる・・初めて聞いた」

「石狩市の海岸は素晴らしい生態系を維持している場所であることがわかりましたので自然の恩恵に感謝です」

「エコトーンと攪乱によるリフレッシュ、自然の力を教えてもらいました。ドローンの映像良くわかりました」





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