11月1日(金)、主催講座10「北海道バレー構想と石狩~半導体、データセンターそしてIT産業など~」の第1回「半導体+データセンターが創る北海道の新産業」を石狩市花川北コミュニティセンターで開催しました。講師は、北海道大学名誉教授で総長特命参与の山本強さん、受講者は40名でした。
講義の前の山本さんの自己紹介です。
夕張群長沼町生まれで北海道大学電子工学科を卒業後富士通(株)に入社。その後北海道大学に戻られて助教授、教授、特任教授を務められ現在は総長特命参与をされている。産学連携が可能となった2002年に画像診断を行う会社「メディカルイメージラボ」を立ち上げ、その後10社以上のベンチャー創業に個人出資されている。個人的には65歳から登山をやられているそうです。
以下は本日の講義の概要です。
■半導体+データセンターが創る北海道の新産業
1.面白いことになってきた
◇AI(Artificial Intelligence 人工知能 人間の知能や知性を人工的に再現する技術)の進歩
深層学習(人間の神経細胞の仕組みを再現したニューラルネットワークを用いた機械学習《コンピュータ(機械)が多様なデータから対応パターンとルールを自動で学習する技術》の手法の1つ)や生成AI(与えられたデータやパターンから新たなデータを生成する能力を持つ技術)が実用レベルに達した。
・アルゴリズム(問題を解決するための手段や手順を定式化したもの)解法に加えて機械学習による問題解決が使える
・環境センサーや画像センサーなどを装備するIoT(家電製品・車・建物など、さまざまな「モノ」をインターネットと繋ぐ技術)サービスの実用化で大量の例題データが獲得可能
◇ネットワーク上で大量のオープンデータが入手可能となった
・国レベルでオープンデータが推進される
気象データ、地図データ、統計データが機械可読可能な形で公開される。
◇半導体IC(集積回路)の進化で性能指数が飛躍的に向上
・消費電力当たりの処理速度、記憶容量がMoore則(半導体の集積率が18か月で2倍になるという経験則)を上回る速度で増加
・半導体製造拠点形成が国家事業化しており、LSI(大規模集積回路)の製造プロセスの公共化が期待される
2.情報技術やデータセンターへの投資規模は、北海道開発予算を上回る
◇R6年年度IT(Information Technology 情報技術)分野新規投資規模は推定6,900億円
・R6年度Rapidus社政府支援額:5,900億円(経産省発表)
・R6年度さくらインターネットのAIスパコン導入支援:500億円(報道発表)
・データセンター、海底ケーブル等の地方分散によるデジタルインフラ強靭化事業
R3-R10で総額600億円、道内シェア100億円。
・ソフトバンク苫小牧データセンター建設
2026年までに650億円規模のデータセンター建設(R6年度推定 300億円)
◇R6年度北海道開発予算:6,800億円
この中にもデジタル関連産業集積支援が含まれている。
3.Society5.0(AIやロボットなどの革新的な技術と人々のくらしが融合することで、便利で快適な生活を実現する持続可能な社会)の技術基盤が北海道に揃う
・AI
サービスの実現。
・データセンター
情報の蓄積と処理。
・情報ネットワーク
情報の伝達。
・半導体(電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」との、中間の性質を持つもの)
情報処理の基本部品。
4.北海道の地の利
半導体、データセンターは大量の電力供給を必要とする。
カーボンニュートラル(CO2排出量0)を実現するためには再生可能エネルギー資源が不可欠だが、北海道は陸上、洋上風力発電のポテンシャルが高い(陸上約30%、洋上約26%)。
5.北海道バレー構想の概要
石狩から苫小牧を結ぶ一帯をDX(デジタル技術を社会に浸透させて人々の生活をより良いものへと変革すること)・GX(カーボンニュートラルの実現に向け、化石燃料中心の現代社会をクリーンエネルギーによる社会へと変革していくこと)の拠点と位置付け、ラピダスが建設中の新工場を核に持続的に発展する地域創出を目指す。
6.北海道バレー構想の原点
◇グリーンデータコリドール構想
2014年、グローバルクラウドネットワーク研究会の提言書。
低遅延ネットワークの重要性、データセンター間接続、再生可能エネルギー活用など、その後提案される北極域情報ネットワーク構想のコンセプトを包含した構想。
◇札幌圏半径50㎞のエリアにICTコリドール(情報技術の回廊)をつくる
7.アルゴリズム的解法、AI的解法
・アルゴリズム(問題を解決するための手段や手順を定式化したもの) による問題解決
問題解決の手順が解っていれば、単純な演算の合成で問題が解決できる。
ANDとNOTがあれば、すべての計算は合成できる。
チューリングマシン(汎用デジタルコンピュータ)で実行可能。
・実効アルゴリズムが定義しにくい問題(タスク)もある
犬の画像と猫の画像を識別するプログラム。
男性と女性を区別するプログラム。
キーワードから画像を合成するプログラム。
※人間はどういうわけか、コンピュータでプログラムしにくい問題を簡単に解決する。但し、間違いも犯す。
8.AIの定義
・AIをどう定義するか
現在の一般的なAIの定義は、機械学習(Machine Leaning コンピュータ⦅機械⦆が多様なデータから対応パターンとルールを自動で学習する技術)を含んで実現されるサービス、機能とされる(経済産業省AI事業者ガイドライン案、2024年1月)。
・AIは、機械学習の大規模化、高速化により現状の課題や困難、障害を突破できるようになった
大量の学習データの調達、巨大記憶空間、超高速処理が同時に可能になったことが、現在のAIブームを引き起こした。
9.大規模言語モデルGPTの衝撃
◇大量の自然言語文例でニューラルネットワーク(人間の脳内にある「ニューロン」という神経細胞を、人口ニューロンという数式で模倣した機械学習モデル)のパラメータ(ソフトウェアやシステムの挙動に影響を与える、外部から投入されるデータ)を学習させる
・1990年代から基礎研究は進められていたが、ニューラルネットワークの規模(段数、パラメータ数)の限界、学習用データの限界から実用には程遠かった
・2018年OpenAI社が開発したGPT-1が限界を超え、GPTモデルの大規模化が急速に進む
・2020年OpenAI社はインターネット上から収集した400GBのテキストデータ+既存の書籍、データベースなどで学習したGPT-3を開発
・2022年OpenAI社がChat-GPT3.5を一般公開
10.ChatGPT(生成AI)の利用シーンと限界
◇GPT:Generative Pre-trained Transformer
・内包する言語モデルは事前学習された範囲に限定される
・学習に使われた大量の言語データの信頼性に依存する
◇利用シーンの例
・文章の要約
・例文の作成
・外国語翻訳
・プログラムの自動作成
・天気予報
アルゴリズム的天気予報―気象モデルとスーパーコンピュータによる数値予報。大気現象をシュミレーションする。
AIによる気象予測―過去の気象データを学習した大規模言語モデルから近未来の気象現象を予測する。結果として、過去の類似天気パターン(経験値)から確率的に気象を予想する。観天望気(夕日が赤ければ明日は晴れ)に類似する。
11.AIで何をするの?
◇AIがあれば何でも解決するということではない
・AIは解ける問題の条件や精度はある程度わかるが、今そこにある問題をAIに解かせる方法や使い方がわかっているわけではない。
※問題意識を持つことが大事
12.AIの歴史
・1950年代:AIの誕生、第1次AIブーム
・1980年代:第2次AIブーム
・2000年代(~現在):第3次AIブーム
計算資源、ネットワーク上の知識量の爆発でディープラーニングが実用レベルに達し、生成AIなど新しいAIの手法が実用レベル段階に入った。
13.深層学習と計算量(エネルギー消費量)
◇計算はパワー
・コンピュータの計算速度と消費電力は比例する
・深層学習のトレーニングには膨大なデータと計算処理が必要
・AIを実現するための深層学習には膨大なエネルギ―が必要
◇ChatGPT3のトレーニングに使用した電力(推定値):1.3GWh
・1kWh20円とすると電気料金換算で約2.6億円のエネルギーコスト
◇平均的なLLM(大規模言語モデル)の1回の推論で使用する電力(推定値):3Wh
・Google検索1回の約10倍
・100万人の利用者が1日20回LLMを利用すると1年間で219GWhの電力(電気料金換算で438億円)を消費する計算になる
14.深層学習モデルのAI実用化にはコンピュータの省エネルギ―化が必須
・トランジスターを小さく作れば、同じ計算をしても消費電力は少なくて済む
15.半導体産業の規模感
16.1976~1980 世界は日本を見ていた
◇1976 超LSI研究組合発足(~1980)
・IBM Future System(VLSIコンピュータ)に対抗する国産コンピュータ開発のための基盤技術開発
・経産省主導4年間で700億円の国費投入
・参加民間企業 富士通・日立・三菱電機・NEC・東芝
◇1986 世界半導体シェアーで日本が米国を抜く
・第一次日米半導体協定締結(1986)
◇1987 SEMATECH(Austin)発足
・米国版VLSI研究組合(IBM・インテル・モトローラ・Cmpaq・TI・AMD・HP・マイクロン・LSI Logicなど14社参加)、商務省、国防省予算
◇1988 日本の世界半導体シェア50.3%達成
・第二次日米半導体協定締結(1991)
17.Rapidus社発足に至る経緯
かっては世界の半導体シェアの50%を占めた日本だが、近年は低迷。また、米国、EUの半導体支援体制が長期継続型なのに対して日本(経産省)は、不連続型であった。
18.ラピダス中とラピダス後
◇ラピダス中(2023~2027)
・ラピダス社に求められること
半導体製造インフラの建設(0スタート)
国家的事業と位置付けられ、国家投資が入るので資金調達の不安がない(国家投資の何割かは道内経済に回る程度で多くは設備導入に投じられグローバル企業の売り上げとして消える)。
・北海道に求められること
半導体製造拠点成立条件を満たす環境整備(水、電力、環境、建築納期など)
稼働後に必要になる人材確保(2027年目途で半導体製造分野の人材供給体制が整う事が必要)
・北海道の取り分
インフラ構築、建築の売り上げ。
工事期間の雇用など。
◇ラピダス後(2028~)
・ラピダス社に求められること
公約としての半導体生産機能の提供。
事業継続を可能にする売り上げ(受注)の確保。
・北海道に求められること
北海道からの半導体需要(発注)の創造。
ラピダス社の半導体製造能力を活用する北海道ビジョンの提案。
・北海道の取り分
ラピダス社があることから生まれる波及効果。
※ラピダスのあるなしに関わらず半導体は大事!
19.北海道がとるべき戦略
◇デジタル化された社会では半導体LSI(大規模集積回路)が最重要品目である
・家電、自動車だけでなく一次産業からサービス業まで半導体LSIがなければ機能しない社会(Society5.0)になっている
・半導体=産業のコメ
◇北海道が半導体製造拠点を持つことで何を得るか
・再生可能エネルギーによる最先端半導体製造拠点となる
・北方圏の環境特性を踏まえた半導体利用技術の開発拠点化
20.まず隗より始めよ
◇個人でLSIのような物を作る方法
・性能が低くても良いなら、PCと数千円の投資で機能するIC(集積回路)を作る方法はある
・数万円の投資をすれば、本気のLSIもどきの物を作る方法がある
◇Microchip Technology 社のPICマイクロコントローラー
・超低速だが、相当に高度な機能を実装するプログラマブルロジック(ユーザー自身がプログラムできる論理回路)LSI
・動作はプログラム(C言語)で記述する
・10MIPS(毎秒1000万命令)以下で動作
赤外線リモコン、LED点灯制御、モーター制御用途には十分
・1個単位でプログラム可能
・IC単価 50円~数百円
■FPGA(Field Programable Gage Array)
◇多数の論理回路ブロックを内蔵し、その機能のプログラムと結線を外部から書き込むことで特定の機能を実現する
・ソフトウェア動作ではなく、結線ロジック(ハードウェアによる物理的な結線で命令を実行するもの)であるため高速動作が可能
◇FPGA(現場で書き換え可能な論理回路の多数配列)設計とLSI設計は似ている
・どちらも論理設計CAD(キャド、コンピュータ上で設計や製図を行うツール)を使う
・FPGAで開発したデバイス(スマートフォンやパソコン、タブレットなどと繋いで使う装置の総称)は必要なら(大量需要があれば)カスタムLSI、SoCに移行できる
以上が、講義の概要ですが、資料には、アルゴリズム、ニューラルネットワーク、ブレークスルー、深層学習等々馴染みのない言葉がたくさん出てきましたが、山本さんはそのような言葉は使わず、やさしく説明されたので、内容を充分理解することができました。
最後に受講者から寄せられたコメントをご紹介します。
「北海道の将来に希望が持てた。と同時にしっかりモニターしつづけることが必要と感じた。素晴らしい講義をありがとうございました」
「大変興味深い貴重なお話、ありがとうございます。難しい高度なテーマを分かりやすく楽しく聞くことができ、さすがの講師でした」
「デジタル化現象の世の中(実はほとんど分かっていない事が多い中)、第一回目の講座(は)大変分かりやすく楽しく夢を感じるお話にワクワクしました。半導体=産業のコメの話から北海道の立場、役割を考えるきっかけになりました。大変楽しい講座に感謝!」
「コンピュータには関心があるが使いきれない。言葉が理解できない。今日の話を聞き再度チャレンジしてみる。81歳」
「難しい言葉(を)実に判り易い説明で、一部ではあるが理解が深まったものもあった。石狩市の存在価値、再生エネ→データセンター、判り易い理解進んだ。日本の成長に大きく関わる過程がラピダス、データセンター、大きな期待がもてる(ことが)少しですが、判った気がします」
「半導体の話から防衛の話に展開するなど奥深さを感じました。必要な国が残り、必要な土地が残る、印象的でした」