11月12日(火)、主催講座12「野生動物のくらしと私たち」の第1回「ヒグマのくらしと私たち」を石狩市花川北コミュニティセンターで開催しました。講師は、北海道立総合研究機構 自然環境部生物多様性保全グループ研究職員の白根ゆりさん、受講者は47名でした。
白根さんは2011年に北海道大学獣医学部に入学、2015年から知床半島でヒグマの研究に取り組み、2021年からは道総研に所属されて研究活動されているそうです。
また、頭部付で大きさの分かるヒグマの毛皮や頭骨などが展示され、受講者は講座の前に熱心に観察していました。特に、生まれた時はびっくりするほど小さいことや、食性の違うヒグマ、オオカミ、エゾシカの歯の形状の違いなど大変興味深いものでした。
さて講座ですが、白根さんは始めに、本日は「ヒグマのくらし」「ヒグマの出没を防ぐために」「人身事故を防ぐために」の3つのテーマでお話しますが、ヒグマとの事故を防ぐために、「ヒグマと出会わない」「ひきよせない」「きちんと知る」の3つだけは覚えて帰って下さい、と言って本日のお話を始められました。
以下は、そのお話の概要です。
1.ヒグマのくらし
◇ヒグマの一生
・1~2月に誕生(約500g)。
・1~2歳の春に親離れをし、オスは出生地を離れる。
・4~5歳で性成熟して初夏に交尾をする。
◇ヒグマの1年
・冬:冬眠、出産。
・春:交尾期(草本やエゾシカを食べる)。
・夏:端境期(森林内の食べ物が少ない時期。農作物被害が多発)。
・秋:過食期(冬眠に備えてヤマブドウやミズナラ等をたくさん食べる)。
「©道総研 エネルギー・環境・地質研究所 無断転載禁止」
◇ヒグマの痕跡
①足跡
・5本指の足跡。4本指ならイヌ、細長い5本指ならアライグマの可能性がある。
「©道総研 エネルギー・環境・地質研究所 無断転載禁止」
②爪痕
木の高い位置にあり、4~5本の爪痕が平行に並ぶ。低い位置にあり、向きがばらばらならエゾシカの角研ぎ痕の可能性がある。
③フン
・大きな俵型で、食べた物がそのままの形で出ることが多い。基本的に不快な臭いはしないが、シカや魚を食べていると臭い。タヌキのフンは新旧のフンが交じり、強い不快な臭いがする。エゾシカのフンは繊維が細かく、均一にすり潰されている。
「©道総研 エネルギー・環境・地質研究所 無断転載禁止」
2.ヒグマの出没を防ぐために
◇ヒグマによる被害の動向
農業被害額は、1970年代から増えつづけており、毎年、被害総額の40~60%をデントコーンが占めている。また、近年は市街地へのヒグマの出没が相次いでいる。
◇出没増加の背景
・春グマ駆除制度の廃止や狩猟者の減少により、昭和期よりもヒグマへの捕獲圧が下がり、ヒグマの分布が都市周辺に拡大している。
・市街地周辺の果樹園等が森林に変化してヒグマの活動域が拡大しているほか、河畔林等がヒグマの移動帯となっている。
◇出没を防ぐ対策
①刈払いによって、ヒグマが隠れる場所をなくす。また、見通しを良くすることで突然の遭遇による事故を防ぐ。
②農作物や家庭菜園は、ヒグマに食べられないよう電気柵で守る。
③被害を引き起こすヒグマや、都市周辺に生息するヒグマを捕獲する。但し、被害をなくすためには誘引物管理も同時に実施しなければならない。
3.人身事故を防ぐために
◇人身事故が起こる原因
①人とバッタリ遭遇して自分の身を守るために攻撃する、あるいは子や大きな食物を守ろうとして攻撃する「防御的攻撃」。②若いヒグマが好奇心で人に近づいた時に、人があわてて逃げたためにヒグマが追いかけて事故につながる「興味本位の接近」。
③ゴミを食べたり、人から餌付けされたりした経験があるクマが、人から食物を奪うために攻撃する「積極的攻撃」。
過去の事例の半分以上が「防御的攻撃」によるもの。
◇事故を防ぐための対策
①ヒグマに「出会わない」ことが最も重要。ヒグマの生息地に入るときには音を出す、複数人で行動する、周囲の様子に気を配る。
②餌付けをしない。農作物や生ごみをきちんと管理してヒグマを「ひきよせない」。
③人に付きまとうようなヒグマの出没情報がないかを「知る」。また、ヒグマと出会ったときに走って逃げてはいけないという基礎知識を「知る」。
以上が本日のお話の概要ですが、白根さんは最後に、
ヒグマがくらす北海道で人が生き続けるために、まずはそれぞれの立場で
・出会わない
・ひきよせない
・きちんと知る
を徹底してください。
と結ばれました。ヒグマの生態やどうしたらうまく付き合えるのか、どうしたらヒグマによる被害をへらすことができるのかについて大変わかりやすく話されたので、これまで漠然とした知識しか持っていなかったヒグマのことを大変良く知ることができました。白根さん、ありがとうございました。
また、「YouTube ひぐまのくらし セミナー編」でインターネット検索すると、紀伊国屋書店のインナーガーデンで行われた道総研(話し手は白根さん)のセミナーが閲覧できますので、こちらもご覧下さい。
最後に受講者から寄せられたコメントをいくつかご紹介します。
「知らなかった事実も知れて良かったと思います。標本にも触れて、クマの生態も少し理解出来ました。山登りの際の参考にしたいと思います。ありがとうございました」
「私は豪雨などで山地崩壊に起因する土砂災害が予想される中の調査を40年以上道内の山々、沢を歩いて確認する作業に携わってきました。その際、常にフエを吹いてクマ(と)の遭遇をさけ、ナタを腰につけて歩いていたが、御蔭様でこの間3回出会ったがいずれも熊のほうで逃げてくれ、助かりました。ホイッスルの高い音の効果が我身を守ってくれたように思います」
「大切な講座だと思います。出会わない、ひきよせない、きちんと知る、ことが必要であらためて重要と感じました」
「日頃、テレビ等で出没報道があるが、今後はこの度の講演が念頭にあるので興味深くなる判りやすい映像の使用方法であった。もちろん説明も判りやすいものであった。事故に会わない具体的な話、判りやすい説明、よかった」
「クマのことについて、いろいろなことがわかり大変有意義でした。ありがとうございました。登山したときは、いつも、遠くに野生のクマがいないかなあ~見えないかなあ~と探しています(笑)」
「大変、丁寧に、いろいろな角度からのお話、ありがとうございました。とても役に立つお話でした」