4月17日(木)、主催講座1「パレスチナを中心とした難民問題の実情」の第1回「ガザ地区の現状と人々の生活」を石狩市花川北コミュニティセンターで開催しました。講師は、北海道パレスチナ医療奉仕団・団長の猫塚義夫さん、受講者は61名でした。
猫塚さんは「みなさんこんにちは、本日石狩に来て、手稲山が日頃見ているのとは違う角度で見えるのが非常に新鮮でした。さて、1月19日のガザ停戦について我々は危ぶんでいましたが、3月18日に過去最大の爆撃がありました。パレスチナ問題は、宗教問題だと言われますが、実際は土地問題なのです。本日はそのあたりを詳しくお話します」と言って講座を始められました。

1.ガザ地区について
・ガザ地区は南北に40㎞、東西に14㎞、広さ360平方㎞。ヨルダン川西岸と共にパレスチナ自治区となっている。人口は、230万人。地下に無数のトンネル(総延長500㎞)があり、トラックも走る。2007年にガザに住民を閉じ込める隔離壁が完成、出入口は北のエレズ検問所だけ(出入りできるのは基本的に国連関係者、イスラエル軍が強化したNGO関係者、マスコミ関係者のみ)。
・1月19日の停戦「ガラスの停戦合意」とも「薄氷の停戦合意」とも言われる)後、3月18日にイスラエルが停戦を破棄、病院、学校、報道を標的として攻撃、死者830人(後にもっと多かったことが確認された)、負傷者900人超の被害を与えた。
・「極右」や「正統派」が政権を離脱して不安定化していたイスラエルのネタニヤフ政権は、ガザ再侵攻の結果、極右が政権復帰し予算も成立して安定した。
2.パレスチナ・イスラエル問題
□パレスチナ・イスラエル問題は宗教問題と言われるが、実際は土地問題(入植型殖民地主義)である
□宗教(ユダヤ教/キリスト教/イスラム教)の流れ
1)聖地 エルサレム
・ユダヤ教 BC10世紀 神殿の岩・嘆きの壁 旧約聖書・「モーゼ」の十戒
・キリスト教 西暦 ゴルゴダの丘・聖墳墓教会 新約聖書・キリストの教え
・イスラム教 7世紀 岩のドーム コーラン・ムハンマド
2)ユダヤ教の流れとキリスト教・イスラム教
・BC17世紀 アブラハム 定住⇒エジプト移住
・BC13世紀 出エジプト モーゼの十戒「ユダヤ教」
・BC12世紀 イスラエル定住
・BC10世紀 ダビデ王国 首都エルサレム(ユダヤ教徒は選別された民族)
・BC930年 王国分裂 ユダとイスラエルに
・BC586年 バビロニアがユダ王国を征服(「バビロンの捕囚」)
・BC332年 ギリシャによるイスラエル支配(アレキサンダー大王)
・BC135年 ユダヤ人離散(デアスポラ)が始まる
・西暦 「キリスト教」の始まり
・西暦63年 ローマ帝国支配 ユダヤ人の離散が決定的 エルサレム神殿破壊⇒「嘆きの壁」
キリスト教社会となる
・7世紀 「イスラム教」の始まり
・11世紀末~13世紀末 十字軍 キリスト教とイスラム教との対立
・中世の15~17世紀後半 大航海時代 この頃から住んでいることが先住民の基準とされている
・欧州キリスト教社会の中で・・各地へ離散したイスラエル人に対して「キリストを十字架にかけた罪人」として差別と迫害が続く⇒家族と共同体の絆の強さが生まれる
・19世紀 シオニズム運動(ユダヤ人が母国⦅イスラエル⦆帰還を目ざして起こした民族国家建設運動)が始まる
・第2次世界大戦 ナチスによる「ホロコースト」(ユダヤ人被害600万人)
・1948年 イスラエル建国とパレスチナ「ナクバ(大厄災)」約70万以上の難民発生
これが、パレスチナ・イスラエル問題の根本原因となる。
3)シオニズム運動
19世紀後半に欧州で反ユダヤ主義が台頭した(「ポグロム(ユダヤ人に対する暴行や略奪、虐殺行為)」など)。
これに対して、東欧中心に「ユダヤ人への差別・迫害に対する抵抗運動」「民族主義運動」が興った。
⇒ユダヤ人の国家建設へ。「パレスチナは聖書に記された約束の土地」その土地でユダヤ人入植、土地買い占め
⇒後にパレスチナと衝突することになる
※猫塚さんの経験では、宗教や主義の中にも色々な考えの人が存在する
・シオニズムの種類
①宗教シオニズム:ユダヤ教に従った国家建設
②世俗シオニズム:政治的にユダヤ人の安全、民族自決を期す⇒大ユダヤ主義へ(レバノン、シリア、ヨルダンの一部もイスラエルのものという考え)
③ポストシオニズム:パレスチナの権利も尊重、二か国共存の考え
・ユダヤの選民思想:ユダヤの民が唯一救済される、パレスチナ人は、人間の形をした動物
・米国・キリスト教福音派・シオニズムに賛同(米人口の1/4)、トランプ米大統領の岩盤支持層。
4)第1次世界大戦:英国対オスマントルコ
「イギリスの3枚舌外交」
・1915年 フサイン・マクマフォン協定:アラブの独立国家承認
・1916年 サイクス=ピコ条約:トルコの分割支配(英と仏、⦅露⦆)
・1917年 バルフォア宣言:ユダヤ人国家建設を支持⇒ユダヤ人のパレスチナ流入が活発化、この頃はパレスチナ人と共存
1920~30年:パレスチナ人とユダヤ人の対立
1933~:ナチス「ホロコースト」開始で欧州から流入が増加。英国の旅券、米国の旅費、ドイツの許可(どのように選別したのか?)
3.イスラエル・ガザ軍事侵攻の実態
1)直接的暴力
・人的被害 死者:パレスチナほぼ55,000名(女性・子ども28,000子どもの地獄)
怪我人:113,220名 瓦礫下の行方不明者:9,000名(Euro-Med-HRM)
(LANCET:ロンドン大学熱帯医学大学院発 推定64,260名 in 2024,6月)
※問題は、数字ではなく一人一人がどのような思いでいるのか、想像することが大事
・「無差別」攻撃の進行:生活・産業インフラ、教育施設崩壊・・社会秩序の破壊へ
ジェノサイド⇒民族絶滅政策、国際法違反(民間人への殺傷) 女性・子ども・高齢者 さらに50,000人の妊婦さん(無麻酔帝王切開) ハンユニス・ナセル病院の敷地に数百人の遺体:IDF(イスラエル軍)による集団虐殺。
Dr.Brush医師が拷問されて殺された。他にも拷問されて亡くなった方は多い。
「軍事侵攻」後、約11カ月以降・・ガザ全域への攻撃
・避難先学校への爆撃・破壊
2)間接的(構造的)暴力
・ガザ南部に移動させられた人々は190万人
過酷な避難生活に加え、イスラエルの空爆下で地獄に
劣悪な生活・衛生環境で感染症発生:下痢・A型肝炎、呼吸器感染
・昨年夏にポリオ(小児麻痺)発生⇒10歳以下の子ども59万人に3カ月でワクチン接種を成し遂げた・・「ガザの底力」が発揮された
・吉田美紀さん(UNRWA現地事務所員)の証言―北海道新聞2024/6/1記事 尹順平記者
「ガザでは36,000人以上、同僚の死傷も。ラファでは人であふれる通りや海岸沿いは糞尿の臭いが立ち込めていた。下痢や呼吸器の感染症が蔓延。家を失い、家族も失った現地職員たちが、目の前の住民のために懸命に支援に当たっている。せめて彼らをサポートしなければ。誰かが戦闘を止めなければいけない。各国を動かす市民の声を、日本からも上げて欲しい」
3)リファト・アライールの詩「もし、私が死ななければならないなら」
空爆で死亡したリファト・アライールの詩は、SNSで多くの人が投稿し共感している。
4)ガザからの便り
・ヤシの葉で屋根を覆った生活―天井の無い生活
・学校がなくなっても教育は出来る―午前午後の2部授業
・電気は一日3~4時間
5)ガザの状況
・イスラエルによる「完全封鎖」は、17年目へ―天井の無い監獄、絶滅収容所
①燃料不足・・発電不可。汚水処理不可。極端な環境悪化。
②物資不足・・建材不足。医薬品の払底―コロナ感染
③貧困・失業・・低賃金と若者の60~70%が失業
④希望と絶望の混在・・「自殺」の増加
⑤麻薬汚染、子供の喫煙、身売り
4.ハマス(イスラム抵抗運動)とイスラエルの非対称性
経済力:貧困に喘ぐガザ
ハマスとは
軍事部門(カッサム旅団:2.5万人)―治安部門
政治部門―福祉部門(食料、衣料、鉛筆とノートなどを配布)
軍事的:軍事大国イスラエル(アメリカが後ろ盾)
現役16万9500人、予備役465,000人・・徴兵制下
核兵器 NCND(Neither Confirm Deny―肯定も否定しない)政策
イスラエル―国際法に挑戦するテロ国家へ。
5.3/18再侵攻(直近発表で1,360人が犠牲)後のガザの病院長の言葉
「病院から避難することは、命を捨てることだ。透析患者や妊婦など治療中の患者を、燃料や救急車の乏しい中どうやって移動させるというのだ。病院はもはや最低の治療さえ出来なくなった。病院の閉鎖は、患者に死刑宣告をすることに等しい。イスラエルの医療施設への攻撃は、社会の回復力を断つことで民間人に絶望を与え国際法に違反する戦争犯罪である。希望が失われる中でも私たちは命を救い続けていく」
6.虐殺をやめる気のないイスラエルからガザを守るため声をあげよう!
2025年4月6日・20日 13時~14時 札幌駅南口広場 「ガザのパレスチナの命を救え」集会開催。

以上が本日の講座の概要ですが、ガザの人たちの厳しい現実がよくわかるお話でした。
最後に受講者から寄せられたコメントをいくつかご紹介します。
「ガザ地区の現状を知ることが出来ました。早く戦争状態を終えて、皆同じ人間同士創意工夫しながら生きていける場にしたいものですね。どうしたら出来るのだろうか?」
「なぜこんなひどいことが続いているのか。あまりにもこの状態がまだまだ知られていないからだと思います。それを皆さんに伝える活動をされている猫塚さんには本当に頭が下がります。簡単には終結しないとは思いますが、その思いを持つ人が増えることが少しでも力になっていくと思います」
「メディアを通してしかわからなかった現実を知ることができました。先の見えないパレレスチナの人々に我々は何をしなければならないのか、無力感にさいなまれる思いです」
「パレスチナの大変な状況を詳しく知ることができました。ありがとうございました。平和な日本に生まれて改めて良かったと思いました。難しい問題が多くあり簡単に問題解決はできないと思いますが早く安全な生活が送れるようになればと思います」
「決して他人事にしてはいけない問題だと思います。でも複雑にからみあう内容で、本当に平和は訪れるのか、何が必要なのかわからなくなります。映画も見ましたが、自家発電してケータイも使ってる、どうして生活できているのか教えて欲しいです」
「大変わかりやすいお話で理解が深まりました。なかなか身近に感じられないパレスチナ問題でしたが、現在の厳しい実情について歴史的背景の一端を知ることが出来たとこの企画に感謝!」